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家康との対面前夜

 徳川家康は明日になれば、大坂城にやって来ることになっていると言うのに、徳川の宿泊先になっている小一郎改め、秀長と名を変えたサルの弟の屋敷の門の前に、俺はわざわざねねと二人でやって来ている。


 徳川は俺に臣従していないのだから、警護をつけるべきだろうと思うのに、ねねは要らないと言うのだ。


 が、秀長の屋敷の門の向こうに見える徳川の動きはどうだ。

 いくつも焚かれたかがり火と、警戒にあたる武者たち。


 はっきり言って、臨戦態勢じゃないか。

 こんなところに、二人で乗り込んで行って、大丈夫なのか?

 俺としては不安いっぱいだ。



「ねねが言うのじゃから、大丈夫じゃ」


 きむすめおちゃちゃさまの呪文で完全に、ねねの子猿となったサルが言う。


 戸惑う俺の事など気にせず、ねねが秀長の屋敷に足を踏み入れた。



「何者!」


 門を潜り抜けるや否や、兵たちが駆け寄って来て、俺たちを取り囲んだ。

 刀の柄に手をかける者、槍先を俺たちに向ける者。


 一触即発と言っていい雰囲気だが、兵たちの一部の視線はねねの手元に向いている。

 理由は聞いていないのだが、なぜだかねねはほととぎすを入れた鳥かごを持参してきていた。


 ねねは怯むこともなく、一歩踏み出して、大きな声で言った。



「こちらは関白 秀吉様ぞ!

 粗相があっては許しはしませぬよ」


 関白と言う言葉と、ねねの気迫に圧されたのか、取り囲んでいた兵たちが一歩下がり、顔を見合わせている。


 異変に気付いた将らしき男が駆け寄って来た。



「何事じゃ」

「関白様と名乗る方がいらしているのですが」


 兵の一人の言葉に、将らしき男が進み出て、俺たちの姿を確認した。


「これは」


 俺と目を合わせると、そう言って、動きを止めた。

 その態度から言って、俺とどこかで会った事があるらしいが、俺には記憶がない。


「だれ?」


 ねねが問いかけて来た。

 男の態度から俺と同じく、俺と面識があるとねねも感じ取ったんだろう。


 うーん。

 小首を傾げて、もう一度記憶をまさぐってみる。

 ???

 やっぱ、思い出せない。


 そんな間にも、徳川の家臣たちは続々と集まって来て、さらに多くの者たちに取り囲まれた。



「控えおろぅ。このお方をどなたと心得る。

 畏れ多くも、現関白殿下、豊臣秀吉さまなるぞ。

 頭が高ぁぁぁい!」


 突然、ねねが叫んだ。

 ねねの気迫に徳川の家臣たちが怯み、また一歩引き下がった。


 さらに強気にねねは一人の武将らしき男の前に進み出て、その男の肩に右手を置いた。

 俺のイメージ的には、そのまま肩を押さえつけようとしている感じだ。

 残念なのは、ねねの方が背が低く、見上げているところだ。



「あちらは関白殿下、私は北政所 ねねである」


 そう言ったかと思うと、男は跪いた。

 俺のイメージが正しかったんだろう。


 武将らしき男が跪いた事で、兵たちからどよめきが起きた。

 ねねは別の武将らしき男に近寄ると、やはり右肩に手を置き、押さえつけた。

 その男が跪くと、次々と跪きはじめた。



「やはり、天下人はねねのようじゃのう」


 サルが言うが、無視、無視、無視。

 そんな時、別の一団が近づいてきた。


 中央にいる小太り気味で丸顔の男は、久しぶりに見るが、家康である。



「こ、こ、これは」


 自分の家臣たちが跪いている事に驚いたのか、俺とねねが二人だけで来た事に驚いているのか、目を丸くしている。



「家康殿か?」


 そんな徳川家康に、ねねが言った。


「いかにも、徳川家康でござる」

「関白殿下が徳川殿とは懐かしいので、早く会いたいと申して止まらないので、連れてまいりました」

「お二人で?」

「そうです。それが何か?」

「いやはや」


 徳川はおでこを拭き始めた。

 どうやら、緊張しているらしい。


 この勝負、ねねの勝ち。

 俺はそう感じた。


「上がらせていただきたいのですが」

「ささ、こちらへ」


 ねねの言葉に、徳川が手でどうぞと言う仕草をした。


「うむ」


 ここは俺の出番。

 そう言って、俺がはぐいっと前に出た。

ブックマークを入れて下さった方、ありがとうございました。

ねねの手にあるほととぎす。

次回は「鳴かぬなら」と言うやつです。

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