ドMなサル
織田信長が亡くなったが、織田家の天下と言う趨勢はひっくり返らなかった。
後はその織田家の中で、誰が信長の後継となるかである。
公には三法師君であるが、当然、誰もがそれは形式であって、現実的な後継者は他の者になると分かっている。
その候補の一人は柴田勝家。
そして、もう一人は俺である。
やり直す人生が、ここまで登りつめるとは予想外だ。
と言うか、今でも俺は天下人と言う地位にあまり興味はない。
それはサルもだ。
サルの直接の興味は茶々であり、高貴な女子<おなご>を手に入れる事である。
その間接的な目標として、天下人があるようだ。
当初、俺とサルは同じようなハーレムを夢見ていたが、サルの欲情パワーは凄まじく、女子<おなご>を前にすると、この体の制御権を必ず奪い、俺にあんな事やこんな事の喜びを感じさせてくれない。
それだけに、ある意味よこしまな目標を俺としては失っていて、ここまで来てしまった惰性から、ただねねの言うとおりに動いている感じだ。
俺はそんなねねの指示に従い、三法師君を安土に戻さないと言う理由で信孝を攻め、勝家の養子 柴田勝豊に譲っていた長浜城を取り戻し、伊勢にいる滝川一益を攻めと戦続きだった。
柴田勝家はそんな俺に対抗するため、雪を掻き分け進軍してきて、賤ヶ岳でにらみ合う事になったが、再び岐阜で挙兵した信孝討伐のため、賤ヶ岳近くの木ノ本に置いてあった本陣を俺が離れた事を好機と見た柴田側の佐久間盛政が俺の陣地の中ほどに位置する大岩砦を襲い、ここを落とした。
いつもの事だが、ねねは全てをお見通しであったため、中国大返しの時と同じで、戻る準備万端であった俺は急遽木ノ本に駆け戻り、佐久間を討つと、俺との戦いを避けたかった柴田側の前田利家が突如戦線離脱を始めると、柴田の軍は崩れ始めた。
そして、今、俺はその柴田を追い詰め、燃え上がる柴田の居城 北の庄城に目を向けている。
ねねの話では、お市様は柴田と共に命を絶つ道を選ぶと言う事だった。つまり、あの炎の中で柴田勝家とお市様が最期を迎えている訳だ。
「お市様が、お市様が」
サルが頭の中で騒いでいる。まだ未練があるらしい。
俺はどかっと床几に腰かけ、全てが終わるのを待っている。
ねねの話では、柴田とお市様の二人とは違い、茶々たち三姉妹が落ち延びてくるらしい。
この三人を確保すれば、この戦いは終わりである。
やがて、幔幕の向こうから三人の子供が現れた。
茶々たちである。
すると、いきなり俺は立ちあがった。
早っ! サルに制御権を奪われてしまった。
「おぉぉ。茶々どの。
ご無事で何よりでございます」
表向きは茶々の方が立場は上かも知れないが、柴田を倒した以上、天下人に一番近い男だと言うのに、このサルのへこへこした態度は何だ。
そんな俺の思いなど、お構いなしに、腰をかがめて、茶々たちに近寄っていく。
「下がれ、サル!」
茶々の言葉に、俺は驚いてしまった。
信長の妹、お市の娘。
サルは織田家の家臣。
とは言え、この戦に勝ったのは俺、つまりサルであり、茶々は負けた側の人間である。
しかも、俺、もとい、サルは天下人に一番近いのだ。
その俺に向かって、その言葉はないだろう。
サルはどうするのか、そう思っていると、俺の視界には地面がどんどんと近づいてきた。
「ははぁぁぁ」
そう言って、サルは地べたに平伏して、茶々に頭を下げている。
「サル、私はお前を許さない。
最初の父、浅井長政を討ち、此度も父 柴田勝家に母まで討つとは。
一生賭けても、お前を討ちとってやる」
何と言う娘だ。
現実を知らなさすぎるのか、それとも強がらずにいられないのか。
「へへぇぇ。
此度の事、望まぬ事であり、サルとしてもいたしかたなく、戦いに臨んだまで」
一方のサルはへこへこしっぱなしである。
茶々を手に入れるや否や、着ているものをひっぺがし、押し倒すのかと思っていただけに、このサルの態度は予想外だ。
「どう言う事だ?」
サルにたずねる。
「茶々様だぞ。茶々様だぞ」
本心から、茶々を崇めているらしい。
今、茶々に足の裏を舐めろと言われれば、このサルは舐めかねない。
いや、平伏している頭を踏みつけられても、喜ぶやも知れない。
こいつはMか?
が、その態度の裏に、俺は少し感じるものがあった。
崇めれば、崇めるほど、サルはその茶々を自分のものにした時の絶頂感が高いのだ。
自分を貶めるほどの女を征服する感覚。
今はひたすら、貶められていたいのだ。
劣等感の裏返しのようなものに、サルは取りつかれている。
結局、サルはねねに言われていた通り、茶々たち三人姉妹を一度手放して、織田長益に預けた。
サルとしても、「きむすめおちゃちゃさま」を手に入れるため、ねねの言う事には忠実だった。
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