き・む・す・め・お・ちゃ・ちゃ・さ・ま
俺の、いやサルの視界の中心に映っているのはお市様。
確かに美しい顔立ちだが、今は優雅と言うより、ちょっと険しさの方が勝っている。
そんなお市様を見つめる目に涙が浮かんでいるのか、視界の中のお市様の姿が揺れぎみでさえある。
「天下を目指す者が、光秀のような汚い手を使っては人はついてきませぬ」
お市様はそう言い切ったかと思うと、視線を門番たちに向けた。
「私が命じます。
門を開け。この者たちを通しなさい」
ねねや俺たちの言葉には従わなかった門番たちは一礼し、城門の大きなかんぬきを外し始めた。
かんぬきを外すと、門番たちが城門を開いていった。
「行くがよい。
二度と会う事はあるまい」
「お市様。ありがとうございます」
ねねが一礼して、城門の外に向かい始めた。
サルはと言うと、お市様の言葉が衝撃だったらしく、しばらく立ち止ったままお市様とねねに視線を行ったり来たりさせていたが、慌ててねねの後を追い始めた。
「ねねぇぇぇ。どう言う事じゃ?」
俺的には話聞いてなかっただろ。
空気読めてねぇだろ。
と、言いたいところだが、そんな俺の思考など、寄せつけもせず、自分の世界に浸ったまま、ねねに問いかけた。
「なにゆえ、お市様はわしではなく、勝家を選んだのじゃ?」
どうして、勝家を選んだのかと言う質問なら、理解できる。
が、「わしではなく」はあり得ない質問だ。
どう見ても、嫌われていただろと思わずにいられない。
そんな真っ当な俺とは関係なく、サルはねねの前に回り込んで、そう言いながらねねの両肩を掴んだ。
その両手をピシッ、ピシッとねねが払いのけながら、小声で言った。
「だからぁ。
私はお市様ではなく、お市様の娘って言ったでしょ」
どうやら、ねねはこの事も知っていた気配だ。
そして、きっと茶々をこのサルが手に入れるに違いない。
そんな先の事は関係なく、サルは目の前の事が大事らしい。
俺に伝わってくるサルの動揺と焦りは生半可じゃない。
「しかし、じゃなあ。
勝家はお市様を嫁にできるんじゃぞ!
わしはできぬというに」
そこまで執着すると言う事は、茶々だけでなく、その母親であるお市様ともしたかったらしい。
三人姉妹ともしたかった事を考えると、このサルはかなりの変態サル確定だ。
そんな変態が俺だなんて、思われたくはない。
と言って、今の俺にはどうしようもない。
サルの女性に対する執着パワーは大きい。
それが高貴な女性となるとさらに巨大になるが、お市様が絡んだ時は無限大と言っていいほどに感じられる。
「でもねぇ。よく聞きなさいよぅ。
お市様はね、お年をめされているんですよぅ。
しかも、お子を産んでるんですよぅ。
まっさらさらじゃないんですよぅ。
お茶々様は、お市様よりずぅぅぅぅっと若いんですよぅ。
それも何も知らない、誰も手を付けていない」
無限大と思っていたサルの執着パワーがさらに膨らんだ。
無限大に無限大を掛けたいくらいだ。それでも、同じ無限大だろなんて、野暮な話は無しだ。
それくらい、俺の意識を侵食するサルのエロパワー。
ねねはさらに言葉を続けていく。
「まっさらさら、生娘ですよぅ。
き・む・す・め・お・ちゃ・ちゃ・さ・ま」
高貴な娘というだけではない。憧れのお市様の娘。それも何も知らないまっさらさら。それを自由にできると言う餌は、無限大にまで膨らんでいたサルの欲望を大爆発させた。
頭の中は何も知らないまっさらさらで、若々しい茶々の姿を思い浮かべ、あんな事やこんな事をし始めた。
そんな妄想でピンク色に染まったサルの頭の中。
そこに巣食う俺は好色のサルにうんざりするしかない。
サルは妄想に恍惚感さえ抱いていそうだ。
そして、サルの欲望はお市様から離れ、茶々一点に向かった。
その妄想を実現させるため、ねねの言う事を忠実に実践する。
サルの硬い決意が伝わって来た。
つまり、これから茶々を手に入れるまで、サルはそのためだけにねねの言う事を疑問の持たず、忠実に聞く子猿になると誓ったのだ。
ねねはサルを扱うのがうまいとしか言いようがない。
京に戻った俺はねねの指示に従い、信長の葬儀を大々的に行った。
葬儀に用いた信長の遺骨に関しては本能寺近くの地中より掘り出したもので、ねねが言うには本物の信長の遺骨だと言う事だった。
葬儀の間中、ずっと涙を流していたねねの姿を見れば、その話は間違いないと俺は感じた。
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