表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/55

死兆星2

 死兆星が輝く夜空の下、出陣すると言うのは止めるべきなんじゃないのか?

 そう戸惑う俺に、背後から近づいてくる者の気配を感じた。


「死神かもな」

 サルが茶化すが、さすがにそれは信じていない。


 誰なんだ?

 そう思って、振り返るとねねがそこにいた。

 松明の明かりが照らし出すねねの表情は、きりりとしていて勇ましささえある。

 思わず、すがりたくさえなってしまいそうだ。



「ねねぇぇぇ」

 そうねねの名を呼んだが、ねねの視線は俺には向かう事も無く、まっすぐ正面だけを見つめている。

 やがて、真正面を見つめたまま、ねねは俺の横に並んだ。

 ねねが辺りをゆっくりと見渡し、僧姿の男に視線をロックオンした。



「御坊。

 それは吉兆でありまする」

 ねねはきっぱりと言い切った。


 なんで、そうなる?

 死兆星の事をねねは知らないらしい。


「なんと!

 ふっ!」

 男が嘲笑気味の声を上げた。

 死兆星をねねが知らぬ事を嘲笑っているに違いない。


 確か見えた者は死ぬと言われていたはずだ。吉兆な訳はない。

 名前からして、そうだろ!

 俺としても、僧の方に一票だ。


 ねねに死兆星について、俺が知っている事を言うべきか?

 戸惑いながら、視線をねねに向けてみる。

 ねねは自信ありげな表情のままだ。


「ねねにすがっておればいいではないか」

 サルが言う。


 頭の中で、死兆星の恐怖とねねへの信頼を天秤にかけてみる。

 ぐらぐらと揺れるだけで、どちらとも選べない。



「いいですか。御坊。

 秀吉殿の此度の戦の意味をご存じないのですか?

 秀吉殿はこの戦に勝ち、天下人になるお方。

 天下人たる者のいる場所。それは京に決まっておりましょう。

 それゆえ、秀吉殿はここには戻って来ないのですよ」


「おぉぉぉ!」

 戸惑い気味の俺とは違い、兵たちは天下と言う餌に食いつき、夜空を揺るがすのではと言うほどの喊声が沸き起こった。


 天下人。

 士気を高めるにはいい言葉だが、反面、信長の天下を横取りすると言う風にも取れる訳で、ずっと俺は避けていた。

 が、完全に兵たちはやる気になったらしい。


 とは言え、ねねの言葉は詭弁である。

 何しろ、相手は死兆星である。

 戻って来る、来ないではなく、死ぬと言われているのだ。



「ねねぇぇぇ」

 それは違うだろ。そう言う意味で、呼びかけてみた。


「言ったよね。大名にしてあげるって。

 そして、秀吉殿はなったでしょ。

 大丈夫。今度も勝つから。

 そして、天下人にしてあげるから、頑張ってね」


 ねねが近づいてきて、小声で俺にそう言った。


 確かに、ねねの言葉は色々と正しいと言う事は分かってはいる。

 が、ねねが完全で無い事も、救い出したかった信長を救えなかった事が証明している。

 今度も大丈夫だなんて、保証はないじゃないか。


 死兆星とねねを乗せた天秤は、兵たちとは違い俺の中では、未だに揺れ続けたままで、結論を出せていない。



「しかしじゃなぁぁ」

 そんな迷いを口にする俺に、ねねはとんでもない言葉を口にした。


「秀吉殿。

 お市様の娘。欲しくないんですかぁ?」


 まずい。そう思ったが、遅かった。

 胸の奥が熱く疼いたかと思うと、サルに体の制御権をまたまた奪われてしまった。


「マジか? ねね」

 サルがねねにたずねた。


 サルの思考と感情はぎらぎらとした欲望に満たされていて、俺の心の中にまでその熱さが届いている。


 あれほど欲しがっていたお市様。

 その娘とあって、かなり欲情している。

 が、相手はまだ子供である。

 ロリか、こいつはと思わずにいられない。

 恥ずかしいから、止めてくれと思う俺に、もっと驚くサルの言葉が届いた。



「三人ともか?」


 何と言うことだ。

 姉妹三人ともしたいと言うのだ。

 人間のすることか?

 ねねは、三人の姉妹をサルの餌にする気なのか?


 そう思っていると、視界に映るねねの表情が厳しくなった。

 嫌悪? 怒り? そんなものが混じり合っている感じだ。


「茶々様だけですっ!」

「一人だけか」

 サルはちょっとがっかり感。

 だが、俺はちょっと安堵感。


 当たり前だろ。

 三姉妹を相手にするなんて、人としてどうかと思わないでいられない。



「でも、茶々様を何突きもできますよぅ。

 いっぱい、いっぱい突けますよぅ。前からですか? 後ろからがいいですかぁ?」

「マジか? ねね。

 何突きもできるのか?」

「そうですよぅ。私の言うとおりにしてたらねっ」


 おお。

 この餌はサルには刺激が強すぎたらしい。

 サルの妄想のイメージが、俺の思考の中に怒涛のように流れ込んできた。

 前から、後ろから、激しく腰を振るサル。

 俺まで欲情してしまいそうになる。


 こんなサルが俺だとねねに思われるとちょっと嫌だ。

 そんな思考が俺のピンクな気分を落ち着かせた。


 かちゃ、かちゃと甲冑が揺れる音が聞こえるじゃないか。

 妄想に身を任せたサルが腰を振っている。


 兵たちを、ねねを前にこんな事をするなんて、なんちゃう、恥ずかしさ。

 そう思っている俺にサルの声が轟いた。



「よいか、者ども。

 これよりわしは光秀を討ちに、京に向かう」

「おぉぉぉ!」


 兵たちはサルが妄想に包まれて腰を振っている事など気づいていないようで、サルの言葉に喊声をあげた。


 意気盛んな兵たちの姿見渡した後、サルが陣貝を口にあて、思いっきり吹きならした。


 進軍の開始である。


 俺的には、ねねに与えられた信長の仇討ちと言う、新たなミッション。

 これはただのミッションではなく、信長を救えなかったねねとしての本当の意味での仇打ちでもあると思っていた。

 そのためにも、負けられない戦であり、山崎の地で俺は勝利を得た。

予約更新しました。


ブックマーク入れて下さった方いたら、うれしいなあ。

と、思いながら、お礼言っておきます。

いると信じて。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ