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死兆星1

ちょっと短めですけど、よろしくお願いします。

 備中より播州までの道々、あたりの農民たちが食料に水を用意していて、駆け続ける者たちにも、随時水分、食料の補給が可能だった。

 陽がくれれば松明が用意され、道々を照らし出し、夜の行軍さえもそれほど難儀する事もなかった。


 全ては官兵衛が手配していたおかげである。この準備がなければ、もっと時間を要したはずだ。

 とは言え、駆け続けた兵たちが姫路に着いた時はぼろぼろだった。


 馬で駆けた俺も、へとへとだし尻も足も痛い。

 姫路の城に転がり込むと、悲しげな表情のねねが待っていた。



「どうした?」

 転がるようにして、ねねの前に進みながらたずねた。


「信長さまが……」

 その声は涙声で、瞳には涙さえ浮かんでいる。


 ねねは全てを知り、俺たちが中国から引き返す策を授けた訳で、俺たちはねねの手のひらの上で遊ばれている存在なんじゃないかと思い始めていただけに、ねねの姿は意外だった。


「知ってたんだろ?」

 俺の言葉にねねは浅く頷いてみせた。


「だったら」

 俺の言葉はそこで止まった。

 少なくとも人が死んだのだ。なんで泣くの? と聞くのは人としおかしい気がした。


「助けようと思ったの。

 でも、できなかった」


 そう言ったかと思うと、俺の胸に飛び込んできてねねは泣いた。

 俺の事を避けていると言っても過言でないねねが、自分から俺に飛び込んできた。

 それだけ、弱っているのだろう。


 そっと、ねねの頭に手を置き、撫でてやる。

 どうやら、この世界はねねに操られている訳でもなく、ねねは俺をサポートするために色んな事を知っている。ただ、それだけだったのかな。

 そう一人納得した時、最後の言葉がでてしまった。


「かな」

 ねねはびくっと反応したかと思うと、俺を涙目で見上げた。


 サルが女の人を抱く事はあっても、俺自身が女の人を抱きしめた事は無い。

 やわらかな感触だけでも、衝撃的な経験だと言うのに、涙目で見上げられ、俺の鼓動は高まってしまう。


「なに?」

 ねねが不思議そうな顔で俺を見上げたかと思うと、両手で俺を押しのけ、一瞬首を傾げた後、何度か首を今度は横に振った。

 何か思った事を振り落とそうとしているかのように。


「おぬしの胸に飛び込んでしまった事を後悔して、その感触を振り落としておるんじゃろう」

と、サルが言うが、無視、無視、無視。


 ほんのひと時と言えど、幸せな瞬間だった。


「信長さまの仇、討ってもらいますよ」

 まだねねの声は涙声だったが、力強さが戻っていた。


「ああ。

 それが俺の仕事なんだろ?」

 俺はそう言って、大きく頷いた。

 


 それから、俺は忙しかった。

 京近くの武将たちに「信長様も、信忠様も落ち延びられ、無事である」と言う嘘の情報と、自分と共に明智光秀を討とうと書いた書状を送りまくった。


 俺と共に毛利を攻めていた武将たちにも、同じ話をした。

 彼らの多くは正確には俺の部下ではない。

 信長の部下であって、俺と共に毛利を攻めていただけであって、俺に従う理由は無いと言えば無いのだ。


 それらが功を奏したのか、俺のところにいる武将たちも俺と行動を共にすると言ってくれたし、明智につく武将たちが増えたと言う情報が無いどころか、俺につくと言ってくれる武将たちが多かった。


 所詮は謀反、主殺し。正義が無い。

 正義の無いところに、人は集まらない。



 そして、いよいよ姫路での準備が整い、いざ出陣である。


 甲冑に身を包み、軍勢の前に進み出る。

 いまや聞きなれたかちゃ、かちゃと言う甲冑の音が静寂の空間に響き渡る。


 空はまだ日の光を迎えておらず、星々のきらめきに満たされている。


 松明の炎が映し出す軍勢を見渡す。

 兵たちの表情に、備中から駆けもどってきた疲れは見えない。


 いける。

 そう確信し、声を張り上げた。


「これより京に向かい、上様の仇、明智光秀を討つ」

「おぉぉぉぉっ!」

 巻き起こる喊声に、うんうんと頷く。


 俺が言うのもなんだが、この戦、官兵衛が言ったように、天下に近づく戦である。

 その事を口にする訳にはいかないが、みんなその事を感じ取っているはずだ。


 横から進み出てきた兵の一人から、出陣の陣貝が俺に手渡された。

 これを吹きならせば出陣である。


 さあ、吹くぞと、陣貝を口元に近付けた時、男の声がした。



「秀吉様、お待ちくだされ」


 声の方向に目を向けると、僧姿の男が立っていた。

 この軍の八卦を行う男である。


 元の世界では占い系のものは信じてはいなかったが、この世界に飛ばされてからは、人智の及ばぬ力の存在と言うものを信じずにはいられない。


 男に頷いてみせると、男が北の空を指差した。



「ご覧あれ!」

 北の空に目を向けてみる。

 そこに何があると言うのか?


「普段は見えるはず無き北斗七星の横に輝く蒼い凶星。

 それが輝いておりまする。

 本日、ご出陣なされれば、二度とこの城にお戻りになる事はあるまいかと。

 日を改めるがよろしかろう」


 慌てて、目で北斗七星を探した。

 ひしゃくの形をした北斗七星。

 その横に寄りそうように輝く、小さな蒼い星。


 俺の記憶の中に、「死兆星」と言う言葉が蘇ってきた。

 確か見えた者は死ぬとか言うものだったはずで、名前から言って不吉極まりないじゃないか。


 俺の心の中は動揺し始めた。

評価、ブックマーク入れて下さった方、ありがとうございました。

これからも、よろしくお願いします。

そして、今、一時的に前作の検索対象除外を外しています。

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