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高松城水攻め2

 沈まぬ高松城を前に、俺はやきもきしている。


 相手は巨大な毛利であって、そうたやすく勝てる相手ではない。

 それだけに、官兵衛は重要不可欠な人材だと言うのに、ねねは官兵衛を姫路に呼び出した。


「手早く済まして戻ってくるように」

 ねねの依頼を断る事はできない。この戦場よりも、重要な何かがある。

 そう言う事だと自分を納得させながら、官兵衛にそう声をかけて見送った。



 官兵衛が姫路に向かうと同時に、隅々まで青空だった空が一面グレーに染まり、大雨が降り始めた。


 あの男は晴れ男だったんじゃないのか?

 そう思うほど、官兵衛がいない日々、雨が降り続き、マジで俺の目の前に人口の湖が出現し、高松城は水に沈んだ。


 おそらく、兵糧もだめになっていて、最早戦う力は無いと言えるだろう頃、官兵衛が戻って来た。



「官兵衛。

 どうじゃ」

 降りしきる雨の中、堤の上に立ち、水没した高松城を前にして、官兵衛に感想を求めてみる。


「これほどまで見事に沈むとは。

 いやはや、秀吉様には運も、天も、お味方されているようで」

「いやいや。官兵衛。

 そなたが、見事に仕上げてくれたゆえじゃ」


 そう言う俺にサルが文句をつける。

「ここに堤を築くのは官兵衛の考えであろうが、おぬしはマジで川を無くそうとしたではないか」

 サルの言葉は無視、無視、無視。


「こうなってしまっては、毛利も手がありますまい」

 官兵衛が言う。


 毛利の軍は着陣していて、小早川隆景、吉川元春の軍勢がひしめきあっている。風の向きによっては、軍勢のざわめきさえ聞こえて来る距離。


 開戦を決意すれば、それはすぐに始まり、両軍は激突する事間違いなし。


 だが彼らにとって、一番大事な事はこの城の者たちを救う事である。

 が、それは力では実現できない事を毛利も悟っている。


 戦となれば、決着をつけるのに日を要する。

 しかも、雨で足場はぬかるんでいて、こちらは堤の上に陣取っている。

 場所的には俺たちが優位。


 しかも、水没した城の方は一刻を争う状況であって、ここで戦で時間を費やしている場合ではない。

 その事を官兵衛も一瞬にして、読み取っての言葉だったのだろう。



「して、ねねは何の用であった?」


 そう。

 俺が気になるのは、この戦いの現状よりも、何のためにねねが官兵衛を姫路に呼び戻したのかである。


 俺の問いかけに、官兵衛の表情が一瞬強張ったのを俺は見逃さなかった。

 かなりの話と、俺は読んだ。



「それはお方様より、他言無用と命ぜられておりまするゆえ」

「わしにも言えぬ事なのか?」

「今は」


 一体、その内容が何なのか気になって仕方ないが、今はねねと官兵衛の二人を信じる事にした。


「分かった。

 ところで、もうじき毛利より安国寺恵瓊が和議の交渉にやって来る事になっておる。

 ついてまいれ」


 そう言って、堤を後にし、安国寺と面会の場に向かった。

 毛利としても、この場で衝突する事は望んでいない。

 しかも、信長出陣の情報は伝わっており、一刻も早く城の者たちを救いながら、和睦したいと言うのが本音のはず。

 すなわち、この交渉、俺たちの方が有利なのだ。

 



 本陣の一室。

 廊下とつながる障子は開かれたままで、その部屋の中央に紫衣に身を包んだ小柄だが、体格のよい坊主頭の男が胡坐をかいて座っていた。


「やあ、やあ。恵瓊殿。

 ご足労であった」


 ちょっと、横柄に声をかけて、その横を通り過ぎて、部屋の奥まで進んで行く。


「さてと、恵瓊殿。

 今日も降りしきる雨。

 時はもうあまりございますまい」

 そう声をかけながら、恵瓊の向かいにドカッと座る。


「信長様、着陣の前に交渉を終わらせねば、毛利もただではすみますまいのう」

 座ってからも、恵瓊に圧力をかける。


「されば」


 恵瓊がそう言って、この辺りの国が大雑把に描かれている地図を広げた。

 そこに目を向けると、恵瓊が懐から筆を取り出し、線を描きいれた。


「備中、備後、美作、因幡、伯耆の五か国を織田家に割きまするゆえ、高松城の者たちの助命をお願いいたしまする」


 毛利は中国十か国の覇者。

 それが五か国を割くと言うのだ。

 最初から、最大のカードを切って来たに違いない。

 ここからさらに条件を上げさせることはできないはず。


 領土的には問題ないし、俺的には飲むに十分な条件と言えるが、問題は信長である。

 将の命は奪わなければ、勝利と認めてくれやしないはず。


 俺としては、人の命を奪うのは嫌だが、この世界はそう言う世界。

 あの城の城主 清水宗治もその覚悟くらいできているはず。

 それこそが、この時代の将と言う者。

 ある意味、無責任な統治者たちを戴いていた俺の元の世界よりも潔いし、男らしい。



「恵瓊殿。

 兵たちはかまいませぬが、清水殿はだめですなぁ。

 それこそが、いくさの決着でもありまするゆえ」

「いや、しかし」

 恵瓊が身を乗り出した。

 きっと、五か国も割くと言うのは、清水の命を思えばこそなんだろう。ある意味、毛利の方が俺の世界の考えに近いのかもしれない。


「わしはともかく、信長様がそのような曖昧とした勝敗の決着に納得されると思うてか?

 あの方はそのような決着をお許しにはなりませぬでなぁ」

 本心ではないが、強がって言う。


 恵瓊としても、手が無いのか、黙り込んでしまった。

 官兵衛もじっと目を閉じて、黙り込んでいて、沈黙が三人を包む。


「清水殿と話されてきてはいかがかな?」

 沈黙の時を破ったのは官兵衛だった。

「分かりました。

 しばし、時を下され」


 そう言って、恵瓊はその場を去ると、小舟に乗って高松城に向かった。



 清水宗治、毛利との間を行き来し、恵瓊が持ってきた結論は、清水宗治は自刃するゆえ、他の将兵の命は救ってほしいと言うものだった。


「そればこそ、将の鑑である。

 わしとて、人の命を無駄にしとうはないゆえ、それで十分じゃ。

 他の将兵の命、必ずお助け申そう」

 そう俺は恵瓊に返し、和議は成立し、後は誓詞の取り交わしと、清水の自刃を待つばかりとなった。

予約更新しました。


ブックマーク入れて下さった方いたら、うれしいなあ。

と、思いながら、お礼言っておきます。

いると信じて。ありがとうございます。

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