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初めての夜

 俺が任された長浜がある近江には京極氏と言う名家があったらしい。

 浅井の勃興と共に、その力を失ったのだが、そんな家の傍流の娘の存在を聞きつけたサルが長浜の城主と言うオーラを放ちながら、その娘を手に入れた。



「何を言うか、自ら交渉したのであろうが。

 娘を手に入れる時には、お前の頭の中はいやらしい妄想に包まれておったではないか」

と、サルが言うが、無視、無視、無視。


 しかもだ。その家には落ちぶれた公家の娘と言う者が侍女にいたと言う事もあって、その場で二人もゲットしたのだ。



「言っておくが、公家の出と聞いた後は、俺からこの体を奪って、その公家の出の娘まで手に入れる交渉をしたのはお前だからな」

と、言う俺に、サルはこう言うのだ。


「たとえ落ちぶれた公家の娘とは言え、公家に違いはない。

 抱けるものなら、抱かねばならない」


 そう。そんなサルの執着心は、俺に予想外の経験をさせた。

 



 ねねには二人の娘たちの存在を隠し、密かに造り上げた二人の娘をはべらすハーレムの館。

 俺はついに、あんな事やこんな事をしてもいい女の子を二人も手に入れた訳だ。


 ちゃらら、ちゃっちゃっちゃー。


 元の世界では何人もの女の子を独占するような事は許されないが、この世界では許されるのだ。

 まじで、夢のハーレム。



 初めての夜。

 部屋の隅に置かれたろうそくの炎が揺らめく部屋に足を踏み入れた。


 それだけが目的か? と言っていいかのように、部屋の真ん中に敷かれた布団。

 そこに座るのは真っ白な着物を纏った公家の出の娘で、サルが名付けた名前がのの。

 ねねの一文字下かららしい。

 そして、サルが京極の娘よりも、こっちを先に食べたいと言うのだ。


 小柄で、顔立ちはまあまあ。

 俺的にはしてもいい守備範囲内。いや、そんな贅沢言ってらんない。

 何しろ、初めてなんだから。



「や、や、やあ」

 なんて言っていいのか分からず、そんな言葉をかけると、ののの前に向かい合って座った。


 女の子とこんな事を初めてする時は、どうすればいいんだ?


 いきなり押し倒すのか?

 甘い言葉をささやきながら、胸を触っていくのか?


 迷走する思考。

 ドキドキ高鳴る鼓動。


 次の言葉を発せられずにいる俺に、目の前のののも緊張、MAX。

 そんな表情がほのかな黄色いろうそくの明かりの中に浮かんでいる。



「えーっと」

 とりあえず、そう言って、ののとの距離を狭めるようにじり寄る。


 趣味は?

 なんて聞くのも変。


 初めて?

 なんて、聞くのも変。


 大丈夫、やさしくするから。

 なんて、言うのも変。


 どうすりゃあいいんだぁ。



「まどろっこしい男じゃなぁ」

 サルが言うが、俺としてもどうしていいのか分からないし、俺だって緊張はMax。

 そんな時だった。


 胸の奥に欲望の熱い衝動の疼きを感じたかと思う、俺の口から言葉が発せられた。



「ののぅぅぅぅ」

 そのまま俺はののの背後に周り、そのままののを抱きしめ、服の胸の隙間から、手を差し入れた。


 サルが俺の体の制御権を奪った。


 もとい。俺の体ではなく、サルがサルの体の制御権を取り戻したらしい。


 サルの欲望の前に、また俺は制御権を奪われた。

 俺に代わって、行動を起こしてくれた訳で、まあよしとしよう。


 そして、俺はそのやわらかな胸の感触を味わおうと、右手の感覚に神経を集中させた。


 が、何も伝わってこない!


 そうだった。

 視覚、聴覚はあるのだが、なぜだかサルに制御権を奪われると触覚は無いのだった。


 なんで、感じられないんだ!

 そう頭の中で叫んだ時、昔見たアニメのワンシーンが浮かんできた。

 そこに出て来ているキュウ○え。

 きっと、こんな説明を俺にしただろう。


「当たり前じゃないか。

 どんなにいくさで怪我をしたって、その痛みを君は感じずにいられるんだよ」と。


 いや。戦はいいとしても、あんな事や、こんな事は感じられなければ意味無いじゃないか。

 そして、きっとこうも言うだろう。


「単一個体の快感にどうして、そこまで大騒ぎするんだい?

 僕には意味が分かんないよ」


 いや、それが大事だろ。

 と言うのにだ、俺はののの柔らかな体の感触を味わえない。


 やがて、サルが裾から股間に手を差し入れたが、そこの感触も分からない。

 裾をまくって、あそこを露わにしたが、薄明かりの中ではよく見えない。


 そして、当然だが、サルはついにののにあんな事やこんな事をし始めたが、俺には何の感覚もない。


 視覚的に入って来るののの胸のふくらみと表情は、俺を興奮させ、このままだと興奮した気持ちのやり場の無い俺は、消化不良になってしまうところだが、聞こえてくる荒いサルの息遣いは俺をげんなりさせ、俺の欲望を中和している。



「うっ」

 そんな声を上げると、サルはののの上に覆いかぶさった。

 どうやら、終わったらしい。


「おーい!

 俺は何も無かったぞ」

 サルに文句を言ってみる。


「何を申しておる。

 お前にはねねがおるではないか」

「いや。ねねはさせてくれないしぃ」

「そんな事、わしは知らぬ。

 自分で何とかすればよいではないか」


 サルはそう言って、俺に譲る気を見せない。

 結局、俺の初めての夜は、俺にとっては何の意味も無く、ただサルの欲望を満たすだけの夜になってしまった。




 そして、サルは言った。


「やりたければ、わしからこの体を奪えばいいだけであろうが」


 なので、俺はそのつもりで長浜の城には帰らず、いくつもの夜をここでむかえたが、いつも空しくサルに制御権を奪われ続けた。


 サルの女に対する執着の深さには脱帽するしかない。

 このままだと、ハーレムを作っても、楽しい思いをするのはサルだけなのかも知れない。



 そんなこんなで憂鬱にならざるを得ない俺を、さらに憂鬱にする物が俺の下に届けられた。


 ねねが俺が他の女にうつつをぬかして、自分のところに戻ってこないと、信長にちくったのだ。

 その事で俺を折檻するような信長の書状が届けられた。


 もしかして、これはやきもち?

と、一瞬は思った。


「だったら、いいであろうのう」

 そんな俺にサルが言ったその言葉は「そんな訳ないだろ」と、暗に言っている。

 ねねがどうして、そんな事をしたのかは分からないが、俺もサルの考えと同じである。



 とにかくだ。サルに対抗して、いつかはあんな事やこんな事を自分の感覚でと思って、ここに居ついていたが、諦めて長浜の城に帰らざるを得なくなった。

ブックマークに、評価入れて下さった方、ありがとうございました。

頑張りますっ!

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