叡山焼き討ち2
これも短めですけど、よろしくお願いします。
小一郎が驚いた顔をするのも当然だ。
俺にはねねと言う妻がいる訳で、あんな事やこんな事をした事が無いなんて異常すぎる。
俺とねねは実態は夫婦じゃないなんて、言う訳にもいかない。
どう取り繕おうかと思っている内に、小一郎はにやっとしたかと思うと、兵たちに声を張り上げた。
「皆の者、知っておるか。
この先の叡山の中には、兄者すら抱いたことの無い美女がおるんじゃ。
変じゃと思わぬか?
仏に仕える者が女子を連れ込むとは」
小一郎の言葉に兵たちが頷いている。
「しかもじゃ。そんな美しい女子を抱いておるだけではないぞ。
おぬしたちが飲んだ事も無いようなうまい酒に、鶏も食らっておる。
この中におる者たちは仏に仕える者たちではない」
誤解から出た言葉とは言え、小一郎の言葉に兵たちの迷いが薄らいでいる。
そう感じた俺が言葉をはさんだ。
「そのとおりじゃ。
そして、さっきのわしの問いを覚えておるか?
もう一つ、奴らが手にしているものがある。
それは薙刀じゃ。
薙刀は殺生に使う道具、武器じゃ。
仏に仕える者が、そのような物を持っていると思うか?
奴らは仏の道を騙る仏敵じゃ。
ゆえに、わしらこそが仏さまのお味方じゃ。
仏敵を滅ぼし、真の仏の力を見せようぞ!
仏は我らと共にある」
「おぅぅぅぅぅ」
俺の言葉に兵たちの士気が上がった。
その表情は引き締まり、迷いは消え去っている。
正義は俺たちにある。
そう信じ込めなければ、士気は上がらない。
しかも、小一郎が焚き付けた嫉妬心も相まって、兵たちは今にでも襲い掛かりたい勢いのオーラを放っている。
間違いなく勝てる。
それを確信した俺の背後に信長がやって来た。
「サルの言う通りじゃ」
俺以上の大声だけに、多くの軍勢の兵たちに信長の声が届いたに違いない。
注目は信長に集まった。
「この中にいる者たちは、酒を飲み、鶏肉を食らい、女を抱く、仏の道を騙る偽者たちじゃ。
仏はその者たちを討伐する我らに味方するであろう。
仏と共に、叡山に鉄槌を下すのじゃ」
「おぅぅぅぅぅ」
さっき以上の喚声が全軍から響き渡った。
それはまるで、叡山を揺るがすかのほどの轟きだった。
「サル、でかしただがや」
信長は小声で俺にそう言うと、軍勢に背を向けて、大きく息を吸い込んだ。
「かかれぇぇぇ。
男も女も、子供も関係ない。
中にいる者たちはみななで斬りにいたせや」
大きく吸い込んだ息を一気に吐き出しながら、大声で命令を下した。
「おぅぅぅぅ」
喚声と共に兵たちが叡山に攻めかかった。
俺も兵たちと共に、叡山の中に攻め込んだ。
広い敷地のあちこちに建っている建物に火を放つ。
木を多く使った建物は燃えやすい。
次々に赤い炎を吹き上げ、夜の闇をこがしていく。
叡山側も指をくわえて見てなんかいない。
薙刀を振り回し、鬼のような形相で、僧兵たちが迎え撃って来た。
それだけではない。
女子供が火を放たれた建物から、飛び出して逃げ惑っている。
信長の命は女、子供関係なく、この場にいる者、全てをなで斬りにする事。
自分たちこそ正義と信じる兵たちは、迷いも見せず、そんな女子供にも切りつけていく。
それはないだろ。
思わず、そう思ってしまうが、それを止める力は俺には無い。
「迷っていた兵たちにやる気を出させたのはお前じゃろうが」
と言うサルの言葉に、返す言葉が見当たらない。
迷い立ち止まってしまった俺の横を兵たちが、駆け抜けて行く。
屈強な僧兵たちとは言っても、信長の兵は本物の兵である。
その練度も違えば、武器も違う。
僧兵たちは次々に倒されていく。
そして、想像以上に女子供がいて、やはり屍の山を築いていく。
血の匂いと焦げ臭い臭いが入り混じった空間に広がる闇をこがす炎。
近くにあった建物が炎に焼かれ、崩れ落ちた。
その勢いで吹き付ける熱気が俺を包む。
その熱さに、顔を腕で覆ってかばう。
地獄だ。
あの世なんてものは信じちゃいない俺だが、これこそが地獄なんだ。
昔の人々が信じた地獄はこの世にあったんだ。
ちょっと不在で、連続予約更新です。
ブックマーク入れて下さった方いたら、うれしいなあ。
と、思いながら、お礼言っておきます。
いると信じて。ありがとうございます。




