表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/55

越前 朝倉攻め1

 人生は三歩進んでは二歩下がる。

 そんな歌を聞いたことがある気がするが、天下盗りも全く同じみたいだ。


 信長は足利義昭を推したて、将軍職につけた。

 実質的には力を持たない足利義昭なんて、ただの飾りであって、それを操る事で天下は信長のものになると思っていたが、そう簡単ではなかった。


 義昭は自分が傀儡になる気はなかったし、信長も義昭を後ろから操ると言う気もなかったらしい。


 表面上はもめてはいないが、裏では仲たがいが始まっていた。



 信長はそんな中、越前の朝倉と言う新たな敵を作る事になった。

 と言うか、元々織田家とは仲がよくなかったらしいが、ついに侵攻を開始した事で、完全に軍事衝突となった。


 朝倉攻めの緒戦は快進撃と言えるだろう。

 手筒山城、金ケ崎城を瞬く間に落としたのだ。

 が、俺はすんなりとそれを喜んでなんかいない。


 朝倉は浅井の盟友であり、この越前攻めも浅井には知らせずに行っているのだ。

 そのため、浅井が裏切り、背後を襲ってくる。

 と、ねねに教えられているからだ。


 しかもだ。

 ねねは俺にミッションを与えた。


 それは、お市様が送って来る小豆を入れた袋の謎解きと、撤退する軍の殿しんがりを務める事だ。


 すでに俺は知っている。

 殿(しんがり)なんて、ほとんど死を覚悟しなければならない。


 俺としては、ここで死ぬ訳にはいかない。

 ここで死んだら、元の世界の人生よりいい人生だったなんて事にはならないのだから。


 この世界での生活は生死の境が近く、言わばハイリスクな世界だ。

 だと言うのに、美味しいものも少なければ、楽しみも少ないローリターンな世界。


 普通に暮らしていても、元の世界の方がいいと言うのに、ハーレムどころか、俺はまだあんな事やこんな事をした事すら無い。


 一つくらいミッションをミスったとしても、挽回できるはず。



 ゆらめく篝火に満たされた小さな空間。

 織田の五つ木瓜の幔幕の中、信長の家臣団は上機嫌である。



「朝倉義景は今頃、腰を抜かしておる事であろうな」

「二つの城が、こうも早く落ちては打つ手もあるまいて」

「このまま一乗谷に攻め込み、朝倉など一揉みに揉みつぶしてくれようぞ」


 全く呑気である。

 信長は一人床几に腰かけ、静かに座っていて、上機嫌な家臣団たちとは距離を置いている。

 何か感じるところがあるのかも知れない。


 俺がねねから聞かされている話から言って、お市様から謎かけの品が届くのは今日のはずだ。


 事態が事態だけに、その謎解きは素早く終わらせ、さっさとここを引き払うべきだ。


 そう思うと、この場を片時も離れる訳にはいかない。

 まだか、まだかと俺の心ははやるばかりだ。


 それから、どれほどの時間が経ったであろうか。

 上機嫌だった家臣団たちも落ち着き始めた頃、幔幕の外がざわめいた。


 来た。

 そう感じた俺の勘は当たっていた。


 甲冑姿の一人の男が、幔幕の中に走り込んできた。


 その男の手に視線を向ける。

 その手には長さ20cmほどの円筒状の物が握られていた。


 元の世界のような照明輝く空間ではないため、くっきりとは見てとれないが、鮮やかな赤を基調とした柄の布で作られていて、両端を紐で縛ってあるように見える。


 ねねが俺に言った通りである。

 そして、あの中には小豆が入っているはず。



「しかし、不思議な女子(おなご)よのう。

 桶狭間の時と言い、なにゆえあの女子(おなご)はこんな事が分かるのであろうかのう」


 サルも感心している。


「それは俺を導くために用意された女の子だからだよ」

 もう俺としては、ねねの存在は不思議な存在でもなんでもない。

 そう言う存在だと確固たる思いを抱いていた。



「殿、お市様より陣中見舞の品との事でございまする」


 男がそれを両手で捧げるようにして、信長に差し出した。


 みんなはそれは何だ? 的な雰囲気で、視線をその陣中見舞の品に目を向けている。


 信長が紐を解き、中から小豆が出て来た時が、俺の出番。

 信長の動きを凝視して、その瞬間を逃すまいとする。


 信長は床几から立ち上がると、それを鷲掴みすると、片端の紐を解いた。

 中のものを自分の手のひらに出すと、ざーっと言う音とぱらぱらと乾いた音をたてて、小さなものがこぼれ出て来た。


 やはり小豆に違いない。

 信長が思案気な表情を見せた。


 なにゆえ、こんな少量の小豆をこんな形で送って来たのか?

 その意図を読み取ろうとしているに違いない。



「殿、手前はその贈り物の意味が分かります」

 そう言おうとした俺の耳に、信長の声が届いた。


「京へ帰る」

 そう言うと、信長は手のひらの上にあった小豆を、憎らしげに地面に投げ捨てた。


 えっ?

 その謎解き、もう気づいたの?


 そう思った俺の言葉は「殿、手前は」で遮られてしまった。


 突然の信長の言葉に、家臣団は色めき立って、信長の近くに駆け寄った。

 髭面の柴田が信長にたずねる。



「殿。どう言う事でござろうか?

 その小豆が何か?」


 柴田が視線を信長の顔と、信長の手に残る小豆を入れていた布の袋に行ったり来たりさせながら、たずねた。



「わしの大嫌いな小豆を入れた袋の両端を縛っておる。

 この敦賀平野で袋のネズミ。そう言う事じゃ」


 そう言って、手の中にあった袋をぽいと柴田に投げ渡したかと思うと、信長は俺に目を向けた。



「サル。自ら殿しんがりを買って出るとは殊勝なり。

 達者でいろ」


 信長はそう言うと、幔幕を後にして、数騎だけを従えて、闇の中に消えて行った。


 ええぇぇぇ!

 どう言う展開?

不在続きの最後の予約更新です。たぶん。

この間、お気に入り入れてくださった方、ありがとうございます。

(いたと、信じて……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ