表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/55

墨俣一夜城5

 敵の攻撃で、一度は恐怖に包まれた兵に人足たちだったが、敵の攻撃にも動じない俺の姿を見て、下がりかけていた戦意を持ち直していた。

 下からの信頼なくして、人を率いる事などできやしない。

 そう納得する俺に、サルが言う。


「何を言うか。

 怖ろしくて、足が動かなかっただけではないか。

 まあ、小一郎を誉めてやろうぞ。

 気づいてか、気づかずにかは知らぬが、あの言葉で持ち直したのじゃからなぁ」

 全く、俺の心を読む嫌な存在である。

 これまた、サルの言葉は無視、無視、無視。


 辺りを見渡すと、兵たちは俺の命令を待っている。

 攻撃の準備は再びできあがった。


「放てぇぇぇ」

 俺の一言で、兵たちの反撃が開始された。


 火縄銃の銃声と、硝煙。

 渡河中の敵兵の何人かが川の中に倒れ込む。

 その上を襲うのは、弓兵たちが放った矢。

 これでまた、次々に敵兵たちが倒れていく。


 とは言え、敵の数は生半可じゃない。

 岸に上がり、柵に向かってくる敵兵たち。


「槍隊、かかれぇ」

 柵に取りつき、柵を倒そうとする者たちに、味方の槍が突き刺さる。

 血しぶきが舞い上がり、鬼のような形相で倒れていく敵兵たち。

 味方の兵たちも、鬼のような形相で敵に襲い掛かっている。


 ここにいるのは、人ではない。

 兵なのだ。


 兵とはつまり、自分の大切なものを守るため、敵と自分の命を賭して戦う者たち。

 ゆえに、その形相から人の気配は消え、鬼のようになる。が、その奥には自分が守りたいものへの愛が燃え上がっている。

 その証拠に死を覚悟した時、守りたかったものの名を呼ぶのである。

 俺は、この時代に来て、そう思うようになっていた。


 そんな者たちを死に近づける訳にはいかないし、そうさせない事が俺の仕事でもあるとは分かってはいる。

 分かっている事と出来る事は違う。

 俺の思いとは別に、俺の兵たちも次々と傷つき、倒れていく。

 もっと、この墨俣の防御力を高めなければならない。


「死にたくなければ、櫓をさっさと組み上げろ!」

 人足たちに向かって叫ぶ。


 逃げ惑っていた人足たちの何人かが、持ち場に戻って作業を始めた。


 その形相も悲壮と言うより、鬼のようにも見える。

 敵も味方も、みな自分の生死がかかっているのだ。


 桶狭間の戦いで初の戦体験をしてから、二度目の本格的な戦体験。

 今でも目の前の光景に恐怖を感じずにいられないが、あの時ほど全身を恐怖に包まれてはいないのは、俺がこの世界に徐々に慣れてきているからかも知れない。

 とは思ってみても、体は恐怖で動きやしない。

 そんな時、再び上空から弓矢が襲ってきた。


 目の当たりにする大勢の人の死と、上空から襲ってくる弓矢の恐怖が俺にとどめを刺した。

 身動きできなくなったのは体だけでなく、今度は思考回路も停止した。

 真っ白になって行く思考。


 が、敵の放った弓矢は柵に取りついた味方に当たらぬよう、後方に狙いを定めているようで、俺の頭上を越えて行った。



「弓兵は敵後方の弓兵を狙え。

 槍隊は柵に取りついた敵兵を狙え。

 鉄砲隊は渡河中の敵兵を狙え」

 俺の口から、そんな言葉が出た。


 サルの仕業のはず。

 どうやら、俺の思考が完全に停止してしまったので、サルに制御権が移ったのだろう。


「行けやぁ」

 サルの言葉に、味方の兵たちが一斉に敵に襲い掛かる。

 柵に取りつこうとする敵兵を槍で突き刺し、鉄砲を撃ち込み倒していく。


 が、数に物を言わせた美濃勢は倒しても、倒しても、その後方から次々に敵兵が現れてくる。


 対岸に陣取っている敵の弓兵を、味方の放った矢が襲う。

 敵の弓兵も、俺たちに向けて打ち返してくる。


 その繰り返しは終わりがあるのだろうかと思ってしまう。


 そんなめげそうな俺とは違い、サルはせわしなく動き回り、色んな指示を出している。


 ある意味、この時代で生きて来ただけに、こんな事に慣れっこなのかも知れない。


 そんな時だった。

 敵兵の動きに乱れが起きた。


 今までは全員が一心不乱に攻めたてていたと言うのに、動きを止める者や、後ずさりする者が出始め、柵にかかる圧力は減少した。


 なんだ?

 サルも敵の異変に気づいたようで、動きを止めた敵兵の視線が向いている俺たちの後方に、目を向けた。


 そこには五つ木瓜の旗印をはためかせた信長の大軍勢がいた。

 俺は信長に墨俣への築城の開始を、今日行うと伝えていたので、信長が援軍として着陣したらしい。


 一方対峙するべき美濃勢はと言うと、すでに俺との戦いで多くの戦死者を出し、体力的にも限界が近づいている。

 着陣したばかりで、気力も体力も十分な織田勢とぶつかれば、結果は見えている。



「退けぇ。退け、退けぇ」

 敵の将と思しき男が、大声を上げた。


 さっきまで生死がかかった戦いに、鬼のような形相で攻めかかってきていた敵兵たちから、戦意が消えた。

 代わって現れたのは、生への執着とも言える死への恐怖から逃れようとする狼狽気味の表情だ。


 慌てふためいて、川を渡り、対岸の向こうに逃げ出していく。

 逃げるとなると人のもろさと言うものが現れるのだろうか。

 そんな思いと共に、俺の体を安堵感が包む。


 その瞬間、膝から崩れ落ちた。

 足の力が失われたのは、突然、体の制御権が俺に戻ったからだ。


「兄者」

「藤吉郎殿」

 小一郎と蜂須賀が駆け寄って来た。


「疲れただけだよ」

 そう言って立ち上がると、信長の声が聞こえて来た。


「サル、でかしたぎゃ。

 城を完全に造り上げよ。

 その城はそちに任せるでな」

 織田軍の真ん中で馬に乗ったまま、信長は大声を張り上げていた。


「へい」

 立ち上がり大声で返したのを確認すると、信長は軍を率いて引き揚げて行った。



 墨俣の城は徐々に完成度をまし、美濃勢も近づけぬものとなった。

 俺のイメージの中にある城にはほど遠く、しょぼい砦のようなものだが、とりあえずは城持ちになった訳だ。


 ちゃらら、ちゃっちゃっちゃー。


 とは言え、まだきれいな女の子たちをはべらすハーレムは遠すぎる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ