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墨俣一夜城2

 元の世界風に言えばフローリングのリビングダイニングに駆けあがり、不機嫌そうなねねの前で立ち止まった。

 ねねの機嫌はおいておいて、言葉を続ける。


「殿より、墨俣築城を命じられてしもうた」

 赤い糸でつながるねねは、これまでにも素晴らしいアイデアと、未来を読むかのような力で、俺を導いてくれた。

 今度もきっと。

 そう期待する俺の目の前で、ねねは小首を何度も傾げながら、思案気である。


「やっぱ、子供には無理じゃったんじゃ」

 サルが言う。

 そんなはずはない。俺の人生を切り拓くためのねねだ。


「ねね。どうすればいいんじゃ?」

 サルの言葉を打ち消したくて、勢いよくねねに叫ぶように言った。

 俺の言葉がうるさかったのか、ねねは再び不機嫌そうに、むっとした表情を浮かべたが、その不機嫌さをすぐに消し去り、俺に諭すように語り掛けて来た。



「あのね。どうすればいいかと言うと」

 さすがはねね。

 そう思ったところで、ねねの言葉が止まったかと思ったら、一回頷いてから、言葉を続けた。


「どうして、失敗してるんだと思うかな?」

 ねねの口から出たのは意外な言葉だった。

 なぜに質問?


「そのような事も分からぬのでは、策など考えられる訳あるまい」

 サルがほれ見た事かと言う口調で言うが、俺は猿顔の男より、かわいい女の子の方を信じたいし、立場的にも赤い糸のねねを信じる。


「美濃勢が攻めて来るからじゃろ?」

「どうして、攻めてくるのかな?」

「あんなところに出城を造られたら、困るからに決まっとろうが」

「うーん。相手に原因を求めてもさ、こっちは何もできない訳だから、こっちの原因を考えてみてよ」


 何が何だか、分からない話術にはまっている気がする。

 ねねの言いたい事が全く分からないし、実は策を持っているのかどうかすら分からない。

 黙り込んでいる俺の耳に、ねねの言葉が続いて届いた。


「5回Whyを繰り返すのよ」

 ほわいって、なんだ?

 英語のホワイトなら知っているが、何だかカタカナ語っぽいが、俺には分からない。

 サルも知らない言葉らしいので、ねねにきくしかない。


「ほわい?」

「ごめん。どうしてを繰り返してみて」

 どうしてを繰り返す事に意味があるのかどうか分からないが、とりあえず、繰り返してみる事にした。


「どうして失敗するのかと言うと、造っている間に敵が攻めてくるから。

 どうして造っている間に敵が攻めてくるのかと言うと、敵が攻めて来るまでの間に出城を完成できていないからじゃ。

 どうしてそうなるかと言うと、出城を作るには時間がかかるからじゃ。

 どうして時間がかかるのかと言うと、かかるもんだからじゃ」


 どうだ。俺の点数はアップしたか?

 とりあえず、信長のミッションの前に発生したねねからのサブミッションをクリアした気分で、胸をそらしてみせた。


 そんな俺に、ねねは口先を尖らし、不機嫌な表情で言った。


「4回で終わっちゃってるし、かかるもんはかかるじゃ、解決になんないしぃ」


「ミッションクリア失敗じゃの」

 ねねの言葉に、サルがそう言って、頭の中で笑い始めた。

 ねねの言葉より、サルの態度に腹が立ち、むっとした口調でねねに返す。


「じゃが、かかるんじゃから、しかたあるまい」

「だから、どうして時間がかかるのよっ!」

「そう簡単にできるもんじゃないんじゃ」

「だから、どうして簡単にはできないのよっ!」

「ねねは知らんのかも知れんが、やらなきゃいけない事が多すぎるんじゃ」

「ふぅぅぅぅ」


 ねねが大きく息を吐き出したかと思うと、右手の人差し指を突き出し、俺に向けてきた。

 それを縦に振りながら、きつい口調で言った。


「そうよ。それが問題なんじゃない。

 でしょ?

 解決するには、やらなきゃいけない事を減らせばいいのよ」


「なるほど」

 俺の元の世界でも、時折ある話だ。

 それは時間短縮ではなく、費用を削るためのもので、手抜きと言う。

 適度に手を抜けば、それなりに早くできあがる。

「おぬし、まじあほうじゃろう」

 サルが俺をばかにするが、無視、無視、無視。

 ねねに分かった事をアピールするため、左の手のひらを右の拳でポンと叩いて見せた。


「分かったぁ?」

「すべき事を減らす。

 つまり、手抜きと言う訳じゃな」


 俺の言葉に、ねねががっくし感全開で、体を前のめりに倒れ込みそうな仕草をした。

 どうやら、外したらしい。

 サルの笑いが大笑いになって、頭の中に響き渡る。


「あんたねぇ。手を抜いてどうするのよ。

 そんな城、役に立たないんじゃないの?」

「じゃあ、どうしろと言うんじゃ?」

「何も、全部そこで造らなくてもいいでしょ」


 なるほど。

 今度こそ、分かったぞとアピールするため、再び左の手のひらの上を右の拳でぽんと叩いてみせた。


「別の場所で造って、運び込むのかぁ」

 ねねがうんうんと頷く姿を見て、俺は安堵した。


 これで、ねねの俺へのポイントはアップしなくても、減りはしないはず。

 が、ねねのアイデアは現実的ではなさすぎだ。


 俺の時代で言えば、レ○ブロックでブロックのお城を作って、それを運べばいいと言うような子供発想の延長線上の考えに違いない。

 実際にはあのような大きなものを運ぶなんて、できやしない。


 とは言え、そこをぐさっと突くと、ねねを否定した事になり、嫌われてしまうかも知れない。

 穏便な表現で、ねねにその事を伝えることにした。


「じゃが、ねね。運ぶと言うのはちと大変じゃぞ。

 城を運ぶとなると、一体何人必要となるやら。

 それにじゃ、城が通れるような街道は無い。家々を潰して進まねば」

「はい?」

 俺の言葉に、ねねが少し高めの驚きの声を上げた。


 あれ?

 外した?

 ちょっと状況を分析するため、二人の会話をプレイバックし、その言葉を検証してみたが、二人の間で、何がずれているのかよく分からない。


「ねね、じゃと思わんか?」

「思いませんっ!

 どうして、完成させたものを運び込む必要があるんですか!

 ある程度作り上げたものを墨俣に送り込んで、そこで仕上げの組み立てをするんじゃない!!

 いいですか!

 木でできているんですから、水に浮くんです。

 稲葉山よりも上流の山で木を伐採して、そこである程度組み立てたものを、長良川に流して運ぶんですっ!

 それを墨俣で回収して、ささっと柵と櫓をくみ上げるのぉ!

 城を囲む柵と櫓を完成させれば、敵も簡単には攻め寄せる事ができません」


 子供の発想とは柔軟過ぎる。

 これは意表を突く作戦である事くらい、俺にも分かる。


「おおっ。流石はねねじゃ。

 それはいい考えかも知れん」

「かもじゃありません。これで成功です。

 蜂須賀殿と語らって、ぜひご成功をおおさめください」

「いつも頼りにしておるぞ、ねね」


 俺の言葉に、笑みを浮かべるねね。

 やはり、ねねはこの世界で俺が人生を切り拓くのに必要な女の子だ。


「じゃが、これはただの女の子であろうか?」

 サルが言うが、無視、無視、無視。


 ねねはそう言う立ち位置なんだから、当然なんだよ。

 俺はそうサルに言い返した。

お気に入り入れて下さった方、ありがとうございました。

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