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お市様、ふたたび

 自分の好きな子に、他の男子が下ネタ話をなんてのは、はっきり言って不愉快な気分。

 ましてや、ねねは俺の妻になるはずの女の子。


 他の男にあんな事やこんな事をさせる訳にはいかないのは当然として、下ネタ話でさえ笑って許す気分にはなれやしない。

 ここはびしっと言っておく必要あり。

 俺はそう感じた。


「何を申すか。ねね殿はわしのものになるんじゃからな」

 きっつい口調で、門番たちを窘める。

 門番の男が肩をすくめて、真面目な顔つきで、城門を背に正面に向き直った。


 効果あり。

 それを確信し、城内に先に進んでいるねねに目を向けると、立ち止まって、俺の方を見て、少し顔を赤らめている。


 うん?

 顔、赤いのはなんで?

 そんな気分で、にこりと微笑みを向けると、ねねは慌てて顔を背けて歩き始めた。


 小さなねねに今の下ネタの意味が分かる訳はない。

 きっと、「わしのものになる」と言った言葉を求婚と受け取ったに違いない。

 そして、それに照れている。

 うれしいじゃないか。


「いやいや。猿顔が怖くて、緊張して赤くなったんじゃろう」

 サルが言うが、無視、無視、無視して、にこにこ顔でねねの後を追う。


「ささ。ねね殿。

 わしの後についてきてくだされ」

 ねねに並ぶと、そう言って先を進む。


 そうは言ってみても、信長がどこにいるのか? それは俺も知らない。

 へたをしたら、城外に行っている事だってありえる。


 まずは馬小屋だ。

 ねねの先に立って、馬小屋を目指す。


 馬小屋は特に壁などで、内部を隔離する構造にはなっていない。近づきながら、馬小屋の中を横眼で確認する。

 一頭、二頭、……。馬は全て馬小屋の中にいた。

 少なくとも、馬に乗って遠乗りに行っていると言う事はない。


 ここはひとつ、前田か誰かに会って、信長に話をつけてもらわなければならない。

 信長もねねには興味を持っており、ねねが会いたいと言っていると言えば、断らないはず。


 周囲に目を向けながら、進んで行く。

 が、こう言うときに限って、頼れそうな人には会わない。


 そんな時だった。背後から、怒気を含んだ女の人の声が聞こえた。



「サル、こんな所で何をしておる」

「お市様じゃあ」

 頭の中で、サルが叫んだかと思うと、俺の意識からいくつかの感覚が奪われていった。


 さっきまで足に感じていた自分の体を支えている感覚。

 微かにそよぐ風が体を撫でていく感覚。

 次々に生きている事を実感できていた感覚が薄らいで行った。


 また体の制御権をサルに奪われてしまったらしい。

 そう悟った瞬間、俺の体はお市様目指して駆けだしていた。


「お市さまぁぁぁ」

 歓喜にあふれる声が俺の、もとい、サルの口から飛び出したかと思うと、お市様との距離がぐんぐん近づいていく。


「近寄るでない!

 何をしておるのかと聞いておるのじゃ」

 お市様の言葉に、さすがにサルも立ち止まった。


 お市様は数段高い位置から、険しい目つきでサルを見ている。尋問状態に俺は感じてしまう。


 ねねにいいところをと思っていたのに、これでは全く逆効果である。が、サルはそんな事お構いなしに、お市様と会えた事でハイテンション状態だ。



「浅野のねね殿が、殿にお会いしたいと言うので、連れてまいった次第で」

「ねねじゃと?」


 お市様の表情から怒りが消え、サル、つまり俺の背後に視線を向けた。

 サルの中では、お市様とねねを天秤にかけると、お市様の方に格段に傾くらしい。

 背後のねねに視線を向ける事もなく、お市様に視線はロックオンし続けている。


「ねね。顔を上げよ。そちの話は聞いておる」

「は、はははぁぁ」


 二人の会話から言って、ねねは平伏しているらしいが、相変わらず視線はお市様から全くぶれやしない。


「ねね。こちらに」

 そう言って、お市様が優しげな表情で手招きした。


「ささ、早う」

 温和な口調で、さらにねねを急かす。ねねは戸惑っているに違いない。


「はい。失礼いたします」

 ねねが近づく足音が聞こえてくる。

 そして、視界の片隅にねねが映った。

 それでも、サルの視線はお市様にロックオンし続けている。


「何を期待して?」

 頭の中でサルに問いかける。


「ばかもの。滅多に見れるものではないのじゃ。

 見れる時に見ておかねば、損と言うものじゃろう」

 サルが頭の中で、俺の疑問に答えた。


「サル、お前はもういい。とっととあっちに下がりなさい」

 そう言って、お市様はサルを追い払うような仕草をして、庭の片隅を指さした。

 一歩だけサルは後退したが、まだお市様をロックオンし続けている。


「ばかものはお前だろ。

 これ以上嫌われたら、怒った顔のお市様しか見れなくなるんだぞ。

 どうせなら、笑顔が見たくはないのか?」

 未練がましくしているサルに言った。


「そうじゃな」

 頭の中のサルの声は寂しげだ。

 お市様にロックオンしていた視線をそらすと、お市様が指さしていた所に目を向ける。


 その瞬間、俺の意識の中に足にかかる自分の体重、そよぐ風の感覚がよみがえって来た。

 再び制御権は俺に移ったらしい。


 いそいそとその場を立ち去り始めた俺の耳に、お市様の声が聞こえて来た。



「あそこから、上がってきなさい」

 どうやら、ねねは中に入れてもらえるらしい。

 信長に会わせる事はできなかったが、お市様と会えて、中にまで入れてもらえたのだから、信長に会える可能性は大きくなったはず。


 とりあえず、ミッション・コンプリート。

 一人頷く。


「いや、クリアしたとは思えんのだが」

と、サルが言うが無視、無視、無視。

 と言うか、邪魔したのはお前だろ!

 お気に入り、入れてくださった方、ありがとうございました。

 予約更新しました。


 次はいよいよ、桶狭間の戦いです。

 これからも、よろしくお願いします。

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