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なんで俺がサルの下で働かなきゃならないんだよ!

 頷く俺をじっと見つめるねね。

 少し離れたところから聞こえていた、城壁修理の男たちの声が遠のいていく。

 俺とねねだけの空間。

 自分の胸を右の拳でどんと叩くと、俺は言った。



「お任せください。ねね殿」


 そして、目いっぱいの笑顔を向ける。


「その顔、怖ぇぇぇ」

 また、自分の顔だと言う事を忘れたかのようにサルが、頭の中で言った。

 猿顔を俺に押し付けた気でいるらしいサルの言葉は無視、無視、無視。


「藤吉郎殿も、信長様にいいところをお見せください」

 そんな俺に、ねねがにこりとして言った。


 ねねが俺に冷たくなってきている。そんな風に感じていたが、思い過ごし。

 そう思いなおして、浮かべた笑顔のまま、頭を下げた。


「あんな子供に頭を下げるとはのう」

 サルが言うけど、これも無視、無視、無視。

 このミッション、クリアしなければ、先に進まない。


 ねねの後姿をしばらく見送ってから、城壁を直している男たちのところに、歩を進めた。

 腕組みして、きっつい視線で、ギャラリーレベルの座り込んでいる男たちの背後に立つ。


 お前たちより俺の方が立場は上だ!

 最初から、その序列を明確にするためのオーラを作り出してみる。


「いやあ。その顔、怖いと思うよ」

 相変わらず、サルは他人事のように言う。


「うん?」

「なんじゃ?」

 作業を監視し、文句を言いたげな俺に気づいた男たちからざわめきが起き始めた。


「こいつ、知っておるぞ」

「おう、おう。うつけ殿の草履とりのサルだ」


 座って、ちんたらしていた男たちも立ち上がって、俺を取り囲み始めた。


「お前たち。

 これより、わしの命に従ってもらう」


 気合を込めて言った。

 本当は見下ろして言いたかったが、サルの背が低すぎて、見上げて言う事になった。ちょっと、カッコ悪いが仕方ない。



「なにぃ? お前がわしらに命令するだと?」

「なんで俺がサルの下ではたらかなきゃならないんだよ!」


 信長の小者と思われている俺の下で働くのは不満らしい。

 そんな言葉を口にしながら、男たちは俺に詰め寄って来た。

 ここで、怯むわけにはいかない。


「黙って聞け。

 わしの言葉は信長様の言葉だ」

 俺が命令する立場だと言う事を言葉だけでなく、感情的にも理解させるため、大きな声でそう言って、ずいっと一歩踏み出した。

 俺の纏ったオーラに、男たちが一歩退いた。


「そう言えば、さっき、こいつはうつけ殿と何か話しておったわ」


 俺と信長とねねが一緒にいた事を見ていたと思われる一人が言った。

 それを肯定する意味で、頷いて見せる。


「左様。

 わしは信長様より命を受けている。

 わしは信長様より、お前たちへの恩賞を約束いただいた」


 恩賞と言う言葉に釣られるかと思いきや、男たちは何の反応も示さなかった。

 男たちのノリが悪過ぎる。

 俺としては、これで燃え上がってくれるかと考えていたのだが、それは甘かったらしい。


 その時、俺の頭の中に、昔々にあったと聞くクイズ番組の光景が浮かび上がって来た。

 右手をぎゅっと握りしめ、力を込めると、大声で叫んだ。



「恩賞が欲しいかぁ!」

 そう言って、右の拳をまっすぐに空に向かって、突き上げてみた。


「おぉぉぉぉ!」

 そんなノリを期待したが、男たちは「なんだ?」的な表情で、お互いの顔を見合わせたままで、これまた反応が薄い。


「もう一度、たずねる。

 恩賞が欲しいかぁぁぁ!」

 そう言って、もう一度、右の拳を突き出す。


 反応を誘おうと、「ほれ、ほれ!」と言う合いの手と共に、何度か突き出すのを繰り返してみせる。


「おぅ!」

 ようやく、一人がそう言って、自分の右の拳を空に向かって突き上げた。


「そうじゃ、そうじゃ」

 俺が言うと、次々と拳を突き上げ始めた。


「もう一度、たずねる。

 恩賞が欲しいかぁぁぁぁ」

 そう言って、右の拳を突き上げると、全員が続いた。


「おぅぅぅぅ!」

 皆がやる気になっている。


 さっきまでのちんたらぶりとは違い、男たちの目に燃えるものを感じずにはいられない。

 俺はみなの気が乗って来たところで、言葉を続けた。



「よいか。

 皆が行っておる普請は城の普請じゃて、早急に終わらせねばならぬ。

 城壁がこれでは、ここぞとばかりに敵が攻めて来てもおかしくはないと思わぬか?

 みなで、この国を守るためにも、城壁を早く修理しようではないか」

「おぅぅぅぅ!」


 勢いのまま、男たちは右の拳を突き上げて、そう言った。


「これより、崩れている城壁を十の区画に分け、お前たちも十組に分ける」


 男たちが顔を見合わせてざわつき始めた。

 このざわめきはどちらかと言うと戸惑いの気分を含んだ感じだった。



「そして、一番早く修理を終えた組に、一番多くの恩賞を与える」


 俺の言葉に、ざわめきは収まりはしていないが、戸惑いではなく、今度はやる気に満ちたざわめきだ。

 その証拠に男たちの表情は引き締まっている。


「一番になりたいかぁぁぁぁ」

 俺が右の拳を空に向かって、突き出しながら、問う。


「おぅぅぅぅ!」

 男たちも右の拳を突き出して、答えた。


 その勢いのまま、俺は組み分けを指示して、城壁の修理を競わせた。

 後は凄かったとしか言いようがない。

 元々はギャラリーレベルの者たちが多数を占めていたと言うのに、全員が作業に手を染めて、城壁の修理を始めた。


 しかも、それだけではなかった。

 男たちは日が沈めば作業を止めるものと思っていたが、作業を止めなかった。

 まあ、一番になるには、他の組が作業をしているのに、自分たちだけ寝るわけにもいかないのは確かだ。


 あのちんたらと作業をしていた者たちと全く同じ者たちが、これほどまでに熱心に働くと言う現実に俺は驚かされた。

 そして、俺自身、信じ切れていなかった一昼夜での城壁修理が、マジで完了してしまったのである。


 ねねの助けもあってだが、ミッション完了である。

 と言うか、だからこその赤い糸でつながるねねなんだろう。


 そして、今度も俺は信長に「サル、大義」と、言葉をいただいた。

 それだけ。


 俺だって、「ほめてくれるなら、金をくれぇぇぇ」が本心だ。

 松下と言う男からもらった小銭、そこから出発して、金持ちになって、ハーレムを築くのが俺の目標なんだから……。

お気に入り、入れてくださった方、ありがとうございました。

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前回の続き、いかがでしたでしょうか?

感想などいただけたら、うれしいです。

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