01
大体の構想はできていますが、最後までうまく表現できるか不安です。でもとりあえず、書いていこうと思っています。
陰鬱たる雨の中、自軍の戦況をなだらかな丘の上から遠目で見つめる一人の男がいる。名をゼーラという。
約二百五十人の戦士団を率いている将軍で、戦場に出れば先頭を切り果敢に敵陣を突破する勇将であった。
――あった。
すでに過去形である。
彼の現在任されている部所は先方隊の後方支援。いや、後方支援といえば聞こえはいいが、実際は戦場の外に放り出されている孤立部隊といったほうが合っている。当然のことながら敵とはまだ一戦も交えていない。今回だけでない。ここ最近ろくに戦闘らしい戦闘はとっていない。
理由は二つ。一つは、今記したように、いつも戦闘地域から自部隊がかけ離れて配置されているということ。もう一つは、仮に戦場に赴き、いざ敵軍と戦闘になったとしても、その前にゼーラの同僚の将軍達が圧倒的な強さで敵軍を粉砕するので、彼には戦う場所がないのだ。
その彼の神がかり的な強さを誇る同僚を挙げるなら、まずは魔法使いイルーン。
戦場では人智を超える強力な魔法で敵に大ダメージを与えつつ恐怖を植え付けて士気を下げ、また知恵者の彼は本陣で皇帝の参謀として、いくさの作戦指揮を執ることも多々ある。
続いてサーガル。
魔剣士という兵隊を率いる将軍で、彼らは「魔闘気」という魔法とは別の特殊な能力を剣技に使用し、敵兵を倒す。またサーガル自身、緻密な統率で魔剣士団を指揮し敵軍に恐れられ自ら剣を取っても向うところ敵なしで、魔闘気を使用せずとも、剣単体での技量でも、このウーンサリス大陸で彼と互角に渡り合える者はもはやいないといわれている。
次は魔竜使いの竜騎兵グレートス。
今現在四名いる竜使いの頭領で、彼らだけで小国ではあるが一国を滅びしたこともある。
他にも妖魔兵団団長キャリツオ、魔法生物軍のネントス、暗黒神官戦士団のピスバークらが引き連れる強力な軍団が存在する。
そして、数、強さこれらが最大なのが、彼らを仕切る皇帝ヌベルの黒騎士団である。己の名を冠したヌベル帝国皇帝直属軍で帝国軍の中核をなす。
ヌベルの個人的武力の強さを背景に、騎士達一人一人が異様な自信を持って戦場に赴くため、敵はその雰囲気にのまれ戦意をくじかれ敗北する。
精鋭が揃っているのである。
このような者達が前線で戦っている以上、ゼーラが戦いに参加出来るわけもなく、後方で待機するほかないのだ。しかも彼は新参者。一年前彼ら屈強軍にいくさで敗れ投降した敗軍の将なのだ。
それを現在の主、皇帝ヌベルに拾われ今に至っている。
「わたしも戦場に出れば、戦功をあげられるのに」
ぽつりとゼーラは口にした。
それを彼の副官であるイラマスが聞いていてゼーラに近寄ると、
「ゼーラ様、辛抱です。間もなく我々も戦場で活躍する日がやってきます」
とあるじを励ました。
イラマスは、十年以上ゼーラと共に戦場を駆け巡ってきた間柄で、彼と一緒にヌベルの家臣となった。ちなみにゼーラ投降時、彼の直属の配下、約二百五十名全員がヌベルに降った。
「そうなるかな」
「なりますとも」
そうはいったもののイラマスも一抹の不安を拭いきれない。
もはや皇帝ヌベルに立ち向かえる勢力がウーンサリス大陸にはほとんどないといってよく、唯一対抗できる国は、ヌベル帝国の東に位置する国、ミデールしかないであろう。
あと数国地方の小勢力は存在するが、ヌベル帝国の軍門に降るのも時間の問題であった。
ゼーラは、イラマスがわずかに見せた不安の表情を読み取り、
「そうだ、そうなのだよ、イラマス。戦う場所は確実に無くなってきている」
と口にした。
「我々が戦功を挙げる場所なんてないのかもしれない」
イラマスは、雨に打たれるゼーラの後ろ姿をただ見ている。
その姿は何とも悲哀に満ちていて、十年以上彼と接してきたイラマスにとって初めて見る光景であり、雨という情景がより哀愁を際立たせている。
「わからんのは皇帝陛下だ。何のためにわたしを配下にしたのか。これならわたしを末席に加えなくてもよかったではないか」
ゼーラの語気が荒れる。
「ゼーラ様……」
イラマスが言葉を続けようとした時、遥か前方にある堅城名高いパレルモン城の本丸の最上階から火が出た。前日に隣国を屈服させ、その足でこの地にきたグレートス率いる魔竜団の仕業か、はてや味方の軍が城に火を放ったか、ここからでは確認できない。それぐらい前線とゼーラの陣に距離がある。
「終わったな」
そういい残すとゼーラは振り返り、天幕の中に入って行った。
イラマスはパレルモン城に目をやった。雨の中燃える城は、淡く光り幻想的で、イラマスは美しいとさえおもった。