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幻想譚   作者: 国分
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魔物の王◇

人間という生き物は、非常に稀な存在である。


何故なら、人間は命輝を操り魔術を使い。

体内の魔力が高ければ己の魔力を使い、魔法と成す。


どんなに少なくとも、魔物には命輝として現れる。

なのに何故、人間には命輝が現れないのか。


高い魔力を持つ者は、 老いが遅く魔物に狙われやすい。

これは何故か?


魔物は命輝を失えば、灰となるが。

人間や生き物の命輝を持たない存在は肉体が残り、腐る。


何故か。


そして、魔物にも最近の研究にて知り得た事がある。


それは



~バックデイナの研究資料の端~


ぼんやりともやの掛かる意識の中で、自身の体内から溢れ出た血液の海にうつ伏せに横になりながら、死を感じ取っていた。



死にたくない。



血が少なくなった為か、指先が冷たく感覚がない。無意識に震えるそれは、大きな熱い何かに強く包まれた。


「大丈夫か!?しっかりしろ!」


声を聞いた瞬間、少女は胸の奥から込み上げる安堵に涙が止められなかった。



助かる。

助けて。



「意識を保て!名前は?…おいッ!」


一度安らぎを得た少女は、糸が切れた人形の様に身体を自由を失い。意識を手離そうとするのを声が、必死に阻止をしようとする。



名前、言わなきゃ。



「…し…も、ぬ…」

「シモーヌか!?シモーヌだな!しっかりしろ、シモーヌ!」



あぁ、原因は自分でしたか。



晴香は本当に忘れていた記憶が、何故か今になって脳裏に浮かび上がるのに、投げやりで納得した。


そうか、それなら仕方がないだろう。

でも、何で死にかけだったのだから。

後で確認をしてはくれなかったのか。



納得はしたが、承諾は出来なかった。晴香が半目になって目の前の『国民権承認書』という、金で一輪の百合に似た花と門が描かれている指触りが非常に良い白い紙を、今度はゆっくりと一文字ずつ声に出して読む。


「シモーヌ・ダイン。年齢15、性別女性。親族関係、父親…グラハム・ダイン」

「年齢、もっと若かったか?」



取りあえず、何処から言えば良いのか。



買い取りの仕事とは、その名前の通り命輝の買い取りをする受付だった。入団者には僅かな月に支給される援助金があるが、軍団員の多くは魔物を狩り。その命輝をこの『受付』にて換金する。


つまりは『稼ぎたいなら魔物を狩れ』との事らしい。実にこの武闘派軍団らしいと、説明を聞いた晴香は感心した。別に、脳筋とか思ってはいない。


受付の主な仕事は、命輝の買い取りとその保管。そして、その貯まった命輝を軍団の本部から来る『魔を奪う杯』へと売る事。簡単な作業ではあり、命の危険はなさそうな仕事なのだが。


「これだけ!?」

「すみません、この色の命輝は他の方も多く持って来ていまして」

「おいおい…命を賭けて狩ったんだぞ、嬢ちゃんは戦わねぇだろうが。魔技だって使いまくったんだ」

「す、すみません」



やはり、命の保証がある仕事では無い。



目の前でテーブル越しでも、苛立った柄の悪い男に凄まれては晴香も恐ろしい。買い取り表を見直したが、これ以上に買い取り値を上げる事は出来かねてしまう為、晴香は素直に頭を下げる。


「ごめんなさい、やっぱりこれ以上は上げられません!」

「はぁ?俺の言った言葉が聞こえないのかよ」


男が腰の剣の柄に手を伸ばす、それに晴香は顔を青ざめた。俺の背後の存在を見て。


「俺達が稼いでいるから、嬢ちゃんだっておまんまを食えるんじゃねぇの?それとも、嬢ちゃんは俺達の敵のユフクスか?」

「ほぉ、受付が最初から俺達の事を考えて値切ってねぇのにいちゃもんつけやがるのか」


もう一度言おう、命の保証がある訳では無い。



男が背後からの声に、錆びた機械の様にゆっくりと首を動かすと。グラハムが今にも男に拳をお見舞いしたい、といった表情でそこに居た。


「テメェがいちゃもん付けやがるから、後ろは待たされてるんだが…どうした、首が動かねぇのか?」


自身の背後には誰一人として存在していない、グラハムが少しも動かない男に、悪人めいた笑みを浮かべて手を伸ばした瞬間。


「キャァアアアア!」


まるで暴漢に教われた娘の様に、男は悲鳴を上げてなりふり構わず逃げ出してしまった。思わず、犯人のグラハムでさえも驚いて肩を跳ね上がらせる程に。


「…えっと…お金、用意しておきますねー…」

「シモーヌ、あんなの忘れちまえ」


既に姿は見えないが、晴香は口に両手を添えて声を出すのに対し。グラハムは腰に手を当てて首を左右に振る。


「あいつ等、シモーヌが他の奴等よりも甘いから自惚れてやがるんだ」

「え、でも…やっぱり、配られている換金表は…」

「受付は給金が少ねぇから、紐を縛って懐に入れちまうんだよ」


それ、犯罪です。



顔をしかめた晴香にグラハムは笑って彼女の頭を撫でる。いつも力加減を間違え、首が折れそうにだと不安になってしまうけれど、晴香は嫌いでは無かった。

まるで、兄の様な存在のグラハムが居たからこそ、晴香は心も身体も無事に過ごせているのだから。


「グラハムさん、今日は何かあったのですか?」

「ん…やっと届いたんだ。ほれ」


そうして、渡された一枚の紙によって冒頭の晴香の忘れかけた記憶が蘇る。



腹部の傷も医師が驚く程に跡形も無くなり、受付係として手探りで武力的にもグラハムや他の団員に助けられながらの45日間。話を聞いて、グラハムが晴香を見つけてから実に78日目にして。

晴香は、異世界で何故か父親が出来た。




魔物にも知能がある事だ。


素晴らしい。

命輝がより濃く、大きな物である程に魔物は賢い。

そして、老いが遅いのだ。


今は倒されたナンツィアの黒き竜も、実に永い時のお伽噺とされていたが。

実在していた、何という事だ。


では、魔物と生き物の違いは何だというのか。


そもそも、魔物はどうして生まれてくるのか。


ユフクスを見た事がある者はいるだろうか。


あれこそ


―これ以上は文字が乱れて読むことが出来ない―



~地下のノートの一部~

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