戦闘軍団2◇
商人達は、常に強欲であれ。
財産に強欲であれ。
他者に強欲であれ。
世界に強欲であれ。
これが、幼き頃より代々商いを継ぐ血統が教えられる。
『飢えの強欲』である。
~カーナン家の改革の書 第一章~
一体、他人から見たらどう見えるのだろう。
まだ天に召されなかったらしい男達が、のろのろと起き上がりグラハムから「情けない」と叱咤され、時には蹴られながらも片付けるのを手伝い。晴香は誰かが仲間と運んできた小さめなテーブルに、グラハムと向かい合っている。
犯人と被害者なら納得するけれど。
これもどっちが、どんなとかで意味が変わるよね。
「とりあえず、シモーヌの話だが『ジャパン』って土地名は見つかってねぇ」
「…はぁ」
「滅ぼされた国の町か村だったら、正直に言うが見つけられる可能性は、非常に低い」
「…はぁ」
多分、同名であってもそこは違います。
目の前のテーブルが小さいからか、通常の大人よりも大柄なグラハムは見ていてアンバランス過ぎてしまい、そちらに晴香の意識が向けられてしまって集中が出来ない。むしろ、今までの出来事から軽く現実逃避をしていた。
「しかし、国無しの冒険者は村であろうが滞在期間ってのがあるんで…延長すんのも面倒だ」
「…はぁ」
パスポートみたいなものだろうか。
期間を過ぎるとどうな…あれ、何か想像出来る。
「だから、シモーヌには入団してもらう」
「…はぁ」
入団かぁ、お笑いだったらまだ気楽だろうけど。
「…はぁ!?」
大きな手が晴香に一部分が赤くなった紙を差し出し、そこで漸く晴香の意識が現実に引き戻されて、やっと気付く。慌てて晴香は差し出された紙をグラハムへと押し返しながら真っ青な顔を左右に高速で振った。
「わ、私には到底戦う事が」
「いや、俺もシモーヌに魔物を駆逐して来いと野に放ちはしねぇんだが」
「じゃぁ…戦わない…?」
「…まぁ、一緒に狩りには行くから安心してくれ。とりあえず、ここら辺の魔物は上級だがイケるだろ」
グラハムの微笑みに晴香もふわりと穏やかに微笑み返して、もう一度。今度は力を込めて、紙を彼へと返却する。
イケるね、あの世へ。
グラハムが晴香の顔を見て、首を傾げると腕を組んだ。
「そうか…上級は無理か」
心から残念だとグラハムは項垂れている姿に、晴香は苦笑しつつも早くも先程の決意が砕けて無くなってしまうそうになる。
「…じゃぁ、地味な処理の仕事になるが…これは面倒だぞ?」
「面倒でも、安全なのが良いです」
「安全か…まぁ…安全か」
何で二回も言うのだろうか、この大男は。
首を捻り、考えながらも唸るグラハムの『安全』が信用出来ない。米神から嫌な汗が伝い落ちるのを拭わずに、晴香は口を開く。
「…あの、どんな仕事なんですか?」
「おぅ、それは…あれだ。売買だ」
人の?
「傷を癒したジジィが持ってた石があるだろ?あれを買い取りして売るんだよ」
「…ぇ、ぁあ!あの石ですね!?良かった!」
「これなら出来そうか?」
「ぇえ!やらせて下さい!」
「じゃ、決まりだな」
異様にやる気を見せる晴香に、グラハムも嬉しそうに顔を綻ばせて、未だに片付けをしている一人の男に顔を向けた。
「おい、買い取りの奴を呼んで来い」
「あ?何を言ってるんすか、グラハムさん」
男は割れた皿を片手に呆れた様子で、不思議そうに男を見つめ返す二人に対し。
「ナルの野郎なら、一週間前に此処の主が」
皿を持った手で己の首をゆっくりと、横に横断させた。
「ったく、情けねぇな。今は誰だ?」
「喧嘩した奴のどっちかっす」
「…このまま、新しいのに変えて問題ねぇな」
「ちょッま!待って!お待ち下さい!タイム!お願い、そこは待って!」
このままでは、非常に危険な道を進まなくてはならなくなる。晴香が男が口を開くよりも早く叫んで止めると、二人の意識が集まったのに安堵し。
「ごめんなさい、まずはこの『戦闘軍団』から詳しく教えては頂けないでしょうか?」
「…え、グラハムさん。この嬢ちゃんに話してないんすか?」
「設立は言ったが…話して無かったか?」
腹の傷が再び広がるかと思った。
「しょうがねぇ、グラハムさんは何でも纏めて話しちまう。良かったら、俺が説明するっすよ」
「おい、俺だって」
「じゃぁ『戦闘軍団』は幾つあるんすか?」
グラハムが男から目を逸らす。
それを合図に男は手に持っていた割れた皿を放り投げて、テーブルへと意気揚々と歩み寄ってテーブルに片手を押し付けた。
背後で割れた音と仲間の文句も、男は聞こえないフリをして晴香に片手を伸ばす。
「よろしく、嬢ちゃん。俺はサーウェイ・マクスっす」
「あ、どうも私はしもぬ」
「おい、テメェ。シモーヌに勝手に汚ねぇ手で触ろうとすんじゃねぇ、もぐぞ」
「グラハムさん、心配性っすね。誰もシモーヌ嬢ちゃんを狙ってねぇから、睨まないで欲しいっすよ!」
「シモーヌが魅力ねぇって言いてぇってのか!?捻り切るぞ!」
「グラハムさん、面倒っすね…説明始めやす」
…あれ、名前…。
片手を上げたまま、晴香は目の前で話の輪に入れようとしない男二人を見つめ。力無く差し出したままの手を数回握りしめた。
この世でもっとも恐ろしい?
そりゃぁ、俺なら魔物よりも商人だ。
あぁ、断言するね。
俺の知り合いが、滞在の延長によ。
丁度、持ち合わせが無かったんで商人の護衛を受けちまったのさ。
…あぁ、帰って来たのは、一人だけだ。
アイツが昔に手に入れて大切にしてた。
そうだよ、あの商人。
色の濃くてデケェ命輝の欠片が欲しくて、アイツじゃ倒せねぇ魔物と戦わせたんだよ。
しかも、自分は助かる為に捨て駒用意してな!
売り買いならまだ危険はねぇんだが。
本当に、俺は商人達が魔物に思えてならねぇ。
~酒場の冒険者の話~