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幻想譚   作者: 国分
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戦闘軍団◇

どうして、冒険者をやっているの?


どうして、ねぇ


言いたくないなら、別に無理に言わなくても


いやいや、言いたくないとかじゃないさ


そ、そう?


冒険者であるのは、私が『国無し』だからだよ


正式に手続きとか、しないの?


する必要は無いかな


どうして?


私にはもう国があるから?



~ ある旅路の欠片 ~

傭兵とは、国民の権利を得ている戦闘専門の商人であった。騎士に護衛を依頼する事が難しく、元々は家を継ぐ事が出来ない次男以降の者達や家の為に商人達へ奉公と言う名の『使い捨て』の売りに出されていたのだが、ある時に誰かが期間的に『自身の腕』を売りにして成功し、その噂が商人達へ広まったが為に次々と『傭兵貸出し』商売を始めたのが、傭兵稼業の始まりである。

傭兵の利点は、冒険者と違い、商品の身元が明確である事と、利用がしやすい事であるが実質は『国内冒険者』とも呼ばれていた。

ちなみに、冒険者の利点は金が安くて、死んでもその冒険者の持ち物を得られる事、傭兵よりも魔物との戦いに慣れており確実に依頼を果たす事である。

それも昔の話である。今は一つの軍団に纏められ、ティリアリアから入団した者は国民権を得られる為に、昔の呼び名で呼ぶのは。


「おい、国無し!ふざけんなよ?テメェみてぇな、武器を振り回すのが取り柄の野郎が、首を突っ込むんじゃねぇよッ!」

「ッだと!?国有りの甘たれが何を言ってやがるんだ。あぁッ!」



別に不思議でも無いが、軍団の中だけである。



腹部の傷も動くのに支障が無くなった為に、晴香はグラハムにやる事があるからと部屋から連れられて、この町の『戦闘軍団』の支部へと訪れた。

一般的な民家よりも大きな一軒家の前には、晴香が習った事も見た事もない。

けれども、暫く眺めると何と書かれているのか頭に浮かぶ日本語で『魔を穿つ剣(ニシュ・タマラ)』と書かれた看板を、物珍しく眺めて木製の扉を開けた瞬間。



怒声と男達の囃し立てる声が、晴香を襲った。



「こんな時に、あの野郎共が」


思わず立ち止まった晴香の後ろで、グラハムが苛立った舌打ちをして家の中へと、靴を荒々しく踏み鳴らして進み。


「喧嘩なら町の外でやりやがれ!」


喧嘩をしてもいない、囃し立てていた一人を凄まじい威力で殴り飛ばしたのだ。


「ぇえええ!?」


殴られた男はそのまま周囲を巻き込んで人垣を割り、喧嘩をしていた二人の男がグラハムの姿を見てく凍りついた。


「グラハムだ」

「ヤベッ…!」


周囲も彼を見ては、倒れた仲間を助けずに二人の男から距離を取る。グラハムが拳を鳴らして近付いて行く背中を眺めて晴香は、『あ、これは死んだ』と悟る。


「よぉ、俺達がぶっ殺すのは魔物と仕事の時だけだろうが。魔物として今ここでくたばるか?」



人間もカテゴリーに入れるんだ。

やる事があるって、殺る事って意味だったらしい。



グラハムの言葉に周囲も息を潜めて身を震わせて、それが実に彼の言葉の信憑性を高めている。晴香は少しだけ、きっちり三秒間。

考えて足を一歩後ろに動かしすと、開けたままであった扉を無言で閉めた。

その後、直ぐに何かが割れる音と家具類が派手に倒れた音や男達の悲鳴とグラハムと思わしき人物の咆哮。



このまま、逃げても許されるかなぁ。



未だに続く扉の向こうの地獄絵図の作製作業の破壊音に、晴香は扉に手をかけたまま考える。



今、逃げたら鬼が追いかけて来そう。

開拓した地獄から、絶対に来る。



逃げるにも逃げれずに晴香は立ち尽くし。一度、扉へと誰かがぶつかったのか大きく震えたが、それを境に全ての音が消えた。

足音も呻く声さえも一切の音が無くなった中で思わず、息を飲み込んだ晴香の音が嫌に響いて、恐怖を駆り立てられた晴香は、じりじりと危険から逃げる為に後ろに足を動かす。


「シモーヌ、居るか?馬鹿共はぶっ飛ばしたから入って良いぞ」

後一歩、今まで居た部屋へと走り出そうとした晴香へ、扉から顔を出したグラハムが気まずそうに顔をしかめて声を掛けてしまった。


「は、ははは…解りました」




父さん、母さん。

私は五体満足で家に帰れないかもしれないです。


悲しくも無いが込み上げる涙を乾いた笑い声で隠し、晴香は扉を広げて待つグラハムに覚悟を決めて。

人生で初めて指先にまで全力で神経をすり減らして忍び足で歩み、逃げ腰になりながらも室内に顔を覗かせた。


「…ぅぁ…」

「ちと散らかったが、馬鹿は踏んで良いぞ」


背中を勧めるかの如く押されたが、晴香は無言で何度も首を左右に振った。



散らかったレベルじゃない。



最初に見た家の中は、男達の輪で中心は見れてはいなかった。しかし、晴香は絶対にこれは違うと自信を持って断言出来る。

まず、十人は囲める円卓が見事に割れて半分が正反対の場所にある事。

もう一つがグラハムよりも大きいであろう棚が、理由は知りたくないが三人を下敷きにして中身だろう紙が大量に散らばっている事。おまけに紙が赤くそまっているのがある。

何より、先程まで野次を飛ばしていた筈の彼等が殺人現場の死体の様に床に力無く横たわって、一部は下敷きになっていた事だ。


これは、殺人現場だ。



反射的に身体を反転させた晴香の目の前には、グラハムが腕を組んで扉が閉じられている。


「暫く魔物を相手にしてねぇと、仲間を相手に殺し合うが…まぁ、気の良い連中だ。何かあったら、俺に言え」


晴香の頭を撫でて、床に転がる死体。いや、僅かに生きているあの世への旅人候補をグラハムは文字通り蹴散らして家の中を歩く。



つまり、だ。



混乱する頭で必死に考えて、晴香はゆっくりと周囲を見渡した。



彼に何かを言えば、誰かが死ぬ。



「…あー…血で読めねぇ。シモーヌ、文字は俺が書いても良いか?」

床に散らばった紙を指で挟んで暢気に尋ねるグラハムに、晴香は拳を握り締めて。


「遺書は自分で書きたいです」


もしかしたら、これから使う可能性のある紙をグラハムに要望したのだった。





本当に必要が無かったんだ


だって、私にはもう既に国があるのだから


それに国民権なんて持ったら、自由に旅が出来ないのでしょう?


それは、嫌だな


だって…持ったら、君に出逢えなかったかもしれない


あぁ…でも、そうだね


もし、道が違えば手続きが面倒でも


君と生きてもみたかったな

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