2.東京と死に行く街
高校生になったからと言っても、何が変わるわけではない。
相変わらず思春期は続いていたし、反抗期は脱しつつあったがまだ反抗心はくすぶっていた。中学生の頃に比べて少しだけ賢くなり体力がついただけで、俺は相変わらず俺だった。人間の本質というものは絶対とは言わないがほぼ間違いなく変わらない。それはろくな大人にならなかった俺が唯一、自分の頭で考えて結論を出したことだった。
「俺、卒業したら東京に行きたいんですよ」
俺は爺さん行った。爺さんは俺が子供だったときに比べると明らかに老いてきていて、俺の身体が成長したせいかもしれないがずいぶんと小さく見えた。
「ほう、どうしてまた」
「いや、やっぱり今の時代東京に行かなくっちゃ、何も始まらないっすよ」
東京には日本のすべてがある。
日本の文化と技術の集積地。
優れたものはすべて東京にある。東京は俺の憧れだった。
しかし爺さんは、俺を見てため息を吐いた。
「やめとけ」
ずいぶんとそっけない言い方だった。爺さんは俺の言うことならなんでも笑顔で聞いてくれていた。今まで爺さんは絶対に俺を怒らなかったし、俺がどんな話をしても、嫌な顔をすることなどなかった。
だから夢を否定されたことが余計にショックだった。
「あそこは、人が住むには少しばかし不自然すぎる土地だ」
爺さんが吐き捨てるように言った。
意味がわからなかった。
「意味わかんねえよ! なんでだよ!」
ガラにもなく乱暴な口調になるのがわかった。
「東京は、人が多すぎる。これ以上は自然の摂理に反する」
俺の口調に動じることもなく、爺さんは言葉を紡ぐ。
「東京にはビルがたくさんあるだろう」
「それが……」
「どうしてかわかるか?」
それがなんだ、と言いかけた俺の言葉にかぶせるように爺さんは言う。
「それはな、入りきらないからだよ。東京の面積に、あの人数は絶対に収まらない。収まらないからこそ、縦に、立体的に収納していくしかない。それは生き物として、とても不自然な形だ」
「俺はそうは思わない。ビルだって、人間の科学力が生んだものだし、科学を否定するのは、人間を否定することだと、俺は思う」
「否定はしないさ。ただ不自然だと言っているだけだ。人は地面に足を付けているからこそ安心できる。土や草の匂いを感じることで、川の音を聞くことで、人間は人間であり続けることができる」
爺さんの言っていることも、理解できないわけではなかった。
だけど納得はできなかった。
その頃の俺は、自分の住んでいる街に不満があった。
人口の漏出は止まらず、過疎化が進んでいる街だ。
商店街はシャッターが目立つようになった。
映画館なんかの娯楽もない。
電車はかろうじて走っているが時刻表はすかすかで、電車が走っていることの意味が見いだせないくらいだった。
自然だけ豊かだが、そんなことは俺には関係ない。
ここは死に行く街だ。
とにかく地元を離れたい、東京に行きたいと、当時の俺は願っていた。
「爺さんの言ってること、分からないわけじゃない。でも俺は、やっぱり東京に行きたい」
「まあ、そうだろうな。それも若さだ」
爺さんはにかっと笑った。いつもの人懐こい笑顔に戻っていた。
「悪かったな、変なこと言って。お前は強い子だ。東京で存分に戦ってこい」
爺さんの笑顔につられて、俺も笑った。
そして俺は、高校を卒業するとすぐに就職した。
東京の企業だった。
俺は地元を出た。




