表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シェイド・パイオニア  作者: 夕霧ありあ
第一章 縁(えにし)を呼ぶ廃墟
6/27

縁を呼ぶ廃墟 -4-

 ゼフィアはただ、男の剣さばきに呆然とすることしか出来なかった。

 目の前に見えたのは、血溜まりと既に息のない魔物の姿だった。

 魔物の亡骸を見渡してみても、残っていた傷跡は、ただ一つだけ。

 彼の一振りは、正確に魔物の急所を狙っている様子だった。剣に詳しくないゼフィアでも、それぐらいは読み取れる。

「お前、この場を離れろ!」

「は、はいっ」

 男の声で、ゼフィアは我に帰る。ここにいては邪魔だ、という響きが含まれていたような気がした。

 出来るだけ、魔物から遠くに離れようとする。魔物の一部は、そんなゼフィアを追おうと走り出す。

「ついてこないで」

 機械の物陰に隠れようとしても、魔物が気付かない訳はない。

 ゼフィアは逃げつつも、魔法で応戦しようとした。

 術式をじっくりと解いている暇もない。彼女がその場凌ぎで使ったのは、護身に使う、初歩的な炎の魔法だった。

 小さな火の玉を幾つも背後に作り、魔物に向けて発射する。走るゼフィアの背中は、じんわりと熱を感じていた。

 そんな中で、ゼフィアは何かを思い出した。離れろと言われたためとっさに離れたのはいいが、何か大事なことを忘れている気がした。

 そう、それは、警備用ロボットのことだ。

 黒髪の青年は剣を手に、魔物と戦っている。だが、ロボットを剣で相手にできる訳が無い——!

 ゼフィアはとっさに元いた場所へと戻ろうと駆け出していた。

 癖のある、長く伸ばした赤い髪がふわりと揺れる。

 自身の目的とする調査はまだ行ってもいない。それに、男は魔物を退治するためにこの場所へと足を踏み入れたのだろう。

 利害関係は一致した。だからこそ、この戦いには早く決着をつけなければならなかった。


「数が多いか……って、どうして戻ってきたんだ!」

 男は次々と魔物を斬ってゆく。その一連の流れは、まるで水流のごとく。

 そんな中でも自身が戻ってきたことに気付くなんて、どれだけ器用なのだとゼフィアは薄々感じていた。

「少し、考えがあるの」

 ゼフィアは自身に無力感を感じながらも、手を貸しても余計なお世話になるだろうかと考えていた。そう、ゼフィアが持つ魔物に対抗できる手段は魔法しかないのだから。

 だが、この魔物を根本から倒すには、ロボットをどうにかする必要があると思った。

 魔物もロボットも、どうすれば対処できるか——。

 考えを巡らせて、ある魔法を行使するという方法を思いついた。

 ゼフィアは逃げる中で、手のひらに収まるほどの大きさの電池を取り出した。それを彼女は、ロボットに向かって放り投げる!

 電池は放物線を描いて、追いかける魔物の群れの中の一匹に当たった。

 少し狙いを外したが、それでも問題はなかろう。これから行使するのは、広範囲の魔法なのだから。

 ゼフィアは電池へと魔力を送る。彼女が使ったのは、電気の魔法だった。

 魔物やロボットを狙って、電流が流れる回路を魔力で作り上げる。そして、それを電池へと解放。

 火花はすぐに弾け飛ぶ。あっと言う間に、電流は回路中を駆け巡った。

 ゼフィアが作り上げた魔法回路は、ショート回路の威力を利用したものだった。

 魔物たちは皆麻痺している。中には、既に息絶えている個体もあった。

 そして、彼らを呼んだロボットはぴくりと動かなくなった。

 ああ、これで終わったのだ。ゼフィアが安堵した途端、

「怪我はないか」

 そう、男は口にしていた。

「大丈夫よ」

 きっぱりとゼフィアは答える。男が長身であるためか、ゼフィアは彼を見上げる形となっていた。

「ならいい。だが、魔法使いが一人で立ち入るべき場所ではなかろう」

「研究所から、調査の依頼を受けていたのよ」

「研究所? ……ってことは、学者の類か。護衛を雇うとかそんなことは考えなかったのか」

「護衛なんて、雇える訳もないわ。お金だってかかるだろうし、信用できるかもわからないもの」

「お前の言い分は分からなくもないが、自分の実力ぐらい、自覚しておけよ」

 しばらく沈黙が続く。

 何か口にするべきだろうか、とゼフィアは考えたものの、どんなことを言えばいいのかが分からなかった。彼女はもともと口数の多いほうではない。

「あの……この機械、調べてもいいかしら?」

 だが、沈黙を破ったのはゼフィアだった。ぼそりとそんなことを呟いて、彼女はロボットのほうへと向かう。

「おい、罠かもしれないぞ!」

「ここに、魔法の気配が感じられると聞いたのよ。もしかしたら、この機械が勝手に魔法を使っていたのかも——」

 ゼフィアがロボットに手を触れようとした、その時。

「キンキュウソウチガ サドウシマシタ。ジュウビョウゴニバクハシマス」

 無機質なロボットのアナウンスが鳴り響いた。それは、この工場に降りかかる災いの宣告。

「まだ動いていたって言うの……?」

 ゼフィアはそんな中で確信した。爆弾を仕込むまでしても、このロボットは仕組みを知られまいとしているのだと。そして恐らく、特別な魔法で動いているのであろうと。

 魔法使いも、魔法技術者も、自身が開発したものの技術を簡単に盗まれちゃたまらないからだ。

 だがそう考えても、このロボットが工場に放置されていることが不思議だった。人目につかないし、よっぽどの物好きでない限り立ち寄らない場所ではあると思う。けれども、そこにロボットを置いた意図がわからなかった。

 光を消していたランプは、ゆっくりと、不吉に点滅し始める——。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ