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シェイド・パイオニア  作者: 夕霧ありあ
第一章 縁(えにし)を呼ぶ廃墟
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縁を呼ぶ廃墟 -3-

 ゼフィアが廃工場の屋内の中へと立ち入ると、ところどころコンクリがはがれた、無機質な廊下が続いていく。そんな廊下を少し進んだ先にあったのは、開きっぱなしの扉だった。

 扉の向こうに見えるのは、小さな制御室。そして、魔法を動力とする、大きな機械の類だった。役目を終えたそれらは、ただ静かに眠っていた。

 ひとつひとつ、ゼフィアは機械を調べていったものの、機械に動いている気配はなかった。

 音ひとつもなく、工場はとても静かだ。ただ、歩くときにブーツの足音が響くだけ。そんなブーツの音も、どこかに潜む魔物たちには聞こえていまい。

 魔法の気配を調べろ、という依頼ではあったものの、魔法が使われるであろうとまずはじめに考えられる、工場の機械たちが動いた形跡はなさそうだ。

 果たして、気配消しを使う意味はあったのだろうか? ゼフィアは考える。

 だが、まだ全ての場所を調べた訳ではない。あまり大きな工場でもないために、すべての場所を調べる事もできそうだ。

 ゼフィアは紙を取り出して、工場の見取り図を大まかに描きながら、工場の中を歩き回っていった。

 しかし、しばらく工場の中を見回ってみても、めぼしいものは見当たらずしまいだ。

 そんな中でゼフィアがたどり着いたのは、最も奥にあり、この工場でもっとも広い空間である倉庫だった。

 鉄材がむきだしになっており、この建物を支えている構造が見える。ところどころにさびが見受けられたが、なんとかそれらは建物を支えようと必死になっていた。

 目を引いたのは、倉庫の奥にそびえ立つ、数々の機械の中でただ一台浮いている、ゼフィアより頭ひとつ程低い高さの機械だった。

 ゼフィアは、女性の平均、それかやや高いほどの身長だ。だから、そこまで機械は巨大な訳でもない。しかし、その機械は、細部まで凝っていた。上部は、黒いドーム状の形になっている。

 何か手がかりになるものはないかと、ゼフィアは機械を見つめた。すると、機械の様子が一変したのだ。

 ドームのすぐ下にあるランプが点滅する。そして機械は大きく震え始め、耳をつんざくような音がした。たくさんの機械に紛れ込まれていて気がつかなかったが、これは警備用のロボットだったようだ。

 ロボットに気を取られているうちに、ゼフィアは魔物に囲まれていた。ロボットが起動音を放つことで、どこかに潜んでいた魔物が目を覚ましたらしい。

 魔物は、獣のようなものからガス状の得体の知れないものまで、様々な姿をしていた。

 このように、多様性をもった魔物の群れが現れる事は珍しい。魔物は単独で生活したり、種類ごとに群れを作る傾向があるからだ。一体どのようにして彼らは共存していたのか。それは、廃工場という空間が作り上げた生態系なのかもしれない。

 逃げようにも逃げられないこの状況。さあ、どう打開するか?

 ——水よ、刃となれ

 ゼフィアは手持ちの水筒を開けて、そう念じる。すると、水筒の中の水は次々と舞い上がり、刃物の形を作り上げた。

 魔法は奇跡の力ではあるが、無から有を生み出す事は出来ない。ゼフィアが使った魔法は、水を魔物に対抗する攻撃手段へと変えるものであった。

 ゼフィアはすっと、天井へと指先を向ける。それは、魔物に向かって進めという、水で出来た刃への命令。

 水の刃は、意志を持って魔物へ襲いかからんとばかりに突進した。

 刃は魔物に突き刺さると、もとの姿であるただの水に戻っていた。

 それでもまだ、生き残った魔物の数は多い。

 心臓の鼓動が止まらない。次はどう仕掛けるか、早く考えなくては。それがゼフィアの心に焦りを生み出した。

 そんな一瞬の隙に、魔物はゼフィア目がけて突き進む。

 次の魔法を使うため準備をしている間に、徐々に距離が詰められていく。ゼフィアは無事では済まされないことを覚悟した。

 そんな時、倉庫に現れたのは黒髪の男の姿だった。

「騒がしいと思ったら、ターゲットはそこに集中していたのか」

 男性にしては長めの黒髪は、下のほうで一つに結わえてある。長身に、鍛えられているのであろう引き締まった身体。機動性を重視した、使い込まれた防具を身にまとい、帯剣している。そんな彼は、まさに戦うことを生業としているいでたちであった。

 ゼフィアが魔法を行使しようとするその前に、男は剣に手をかけ、魔物目がけて走ってゆく。そして魔物に向かって、一閃した——。

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