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第一話

 十二王家が一つ――炎水家。

 新たなる天帝の直属の配下たるかの家に大戦時代から仕え、一際多大なる功績をあげた萩波は炎水界でも広大な領土と大勢の民達を任された。


 そうして、つい先日。

 三ヶ月もの長い時間をかけて辿り着いた領地に、建国宣言を行った。


 新たな国は、『凪国』と呼ばれた。

 それは、時化と凪を司るそれから由来された国名である。


 そうして、この世界の王達の中でも一、二を争う実力者である萩波の下、大戦中から付き従い現在は上層部となった者達を中心に国造りが開始された。


 ちなみに、本来ならここでどのように国造りを進めていくかが話し合われるのだが、凪国上層部は即座に動き始めていた。


 第一は、安全な衣食住の確保


 もちろん他にも色々とやらなければならない事はあったが、実はこの時点であらかたの事は済んでいたのだ。


 それは此処に辿り着くまでの三ヶ月。

 萩波と上層部は野営地点に辿り着く度に、民達の下へと訪れた。

 その数は膨大だったが、出発前の期間からある程度の下地は出来ていた。


 また、民達も全てが個神行動していたわけではなく、同じ村、同じ職業、家族、親戚と、ある程度の集団となり集まっていた事もあり、そこには必ず長となる存在が居た。

 その者達にまずは話を通し、そこから萩波達は正確な神数と男女、大神と子供の数確認を行うと共に、それぞれの特性を把握していった。

 すなわち、誰がどんな技術を持っているか、自分達の率いる民達はどんな事に得意な者達がどれだけ居るのかを纏めていったのである。


 更に、民達自身にも頼み、彼らを手足のように使い効率をあげていった。


 と同時に、誰に話を持ちかければ伝わりやすいか――その流れも見極めていったのである。


 そして、彼らが自分自身で持ってきた財産――すなわち、天帝達から与えられたものとは別に、焼け出された時、または保護された時、移り住む時に持ってきた財産を確認し、全てリスト化した。


 それにより、領土に辿り着いた時には半ば半分の作業は終わっていたといってもいい。


 そうして、領土に辿り着くと同時に、衣食住の確保を効率良く行う為に民達に指示した萩波は、同時に民達の代表者達にも辞令書を出した。


 すなわち、移動中に見極め、また萩波達の手足となって働いてくれたそれぞれの長達に民達の代表者としての正式な地位を与えたのである。

 その為に、誰が能力があり、民達から信頼を得ているのか注意深く審査したのだ。

 

 そうして、王と上層部の指示は民達の代表者から民達に伝わっていくという連絡経路が確立されたのだった。


「目標は五年です。五年で、ある程度国を安定させます」

「五年?!」

「それ、難しいと思うよ」

「せめて十年は必要です」


 萩波の宣言に上層部は目をむいた。

 たった五年でどれだけの事が出来るのか、というのは当然の不安である。


「十年もちんたらしていられませんよ」

「でも、安定した衣食住の確保だけでも大変だ。それに、農作業するにはまず畑の開墾が必要だし、漁には船が必要だ。そしてそれらを造るにもその道具をまず造らなきゃならない」


 宰相となった明睡の言葉に萩波が淡々と告げた。


「それは既に技術者達に頼んでいます」

「いや、それはそうだが、まず材料が必要だと」

「確かに一から造るには時間がかかります。しかし、民達が持ち込んで来た物もあるでしょう。それを補修なりすればいいのですよ」

「そうはいっても、それはごく僅かだ。民達全ての衣食住を補うには少なすぎる」

「不眠不休で働いてもどうか」

「ですから、民達全員に働いてもらいます。もちろん、老神も子供も」


 萩波の言葉に、上層部が驚いた。


「おいおい、それは」

「子供も働かせるなんて」

「そうでなければ、いつまで経っても子供達は自由になりませんからね」

「萩波?」

「いつまでも生活が苦しければ、それだけ子供達も働き手として働かされます。そうならない為には、辛くとも今を頑張って生活を向上させ、子供達の手を必要としなくても生活が維持できるようにしなければなりません。それに、子供は未来を担う者達。それなりに教育だって受けさせる必要があります。しかし生活が大変では、誰が大切な働き手を学校に行かせるでしょうね」


 ある意味正論の発言に上層部が黙った。


「それに、ここには思ったより物資があるのも事実でしょう?」

「それは、まあ……」


 再構築されたが、以前の天界の大地が何も残っていないわけではない。

 そして、以前の天界の物資が何もないわけではない。


 萩波達が王都として認定したのは、暗黒大戦の初期に滅んだある国の都だった。

 かなりの廃墟化が進んでいるが、それでも建物は思った以上に残っている。


 このような場所は他にも幾つもあった。

 何も無いところからの国造りは時間がかかる。


 それを見越して、現天帝と十二王家が世界の崩壊と共に消えゆく物資を回収し、神力でまだ崩壊していない大地へと予め飛ばしておいたのである。

 その為、崩壊した大地に比べて残っている物は思った以上に多かった。


 もちろん、これは他の国にも共通する事だった。

 ただし、より広大な領土を得た国の方が、その再利用出来るものがあるように予め割り当てられているのも事実だが。


 凪国の王都は、この古代の王都を再利用する方向性で決まり、既にその改築、改修工事が始まっていた。

 とはいえ、ここに古代あった国の建築技術はよほどしっかりしたものだったのだろう。

 その最たる物は、現在萩波達の居る王宮であり、内装はボロボロだったが、柱や外壁などは未だにしっかりとしていた。

 だから、当然のように王宮の改築、改修は一番最後にまわされた。


 ようは、雨風しのげるだけで十分だ――というのが、萩波達の言い分である。

 そして現在、改修、改築中、または新しく住居を建てている間の民達の生活場所としても解放されていたりする。


 もちろん、それでも当然足りない部分は、王宮の近くにテントを張って生活してもらっているが。

 だが、たぶんこの王宮の広さは炎水界でも五指に入るだろう。


 それほどの、大国が昔、この地にあったのだ。


「それに、建物はここだけではないでしょう」


 ここは王都の部分。

 たぶん探せば、まだ他にも朽ちた建物はある筈。


「まあそれは探索の最中に探せば良いとして、衣食住の住の部分はこのまま進めましょう。次は食の部分です」

「そうそう。農作物は畑とかの開墾が必要だし、それには樹を切って山を切り開かなきゃならない」

「それには事前の調査が必要だし」

「漁業には船が必要だ」

「酪農をするにしても、餌が必要だしな」


 そちらに知識のある上層部が淡々と問題点をあげていく。


「まあ、開墾部分はもう少ししたら何とかなると思うけどね――住居部分で木を切り出しているし」

「根とか石とかの除去は大変だけどな」

「食事は暫くは魚釣りと狩り、果物とかの採取だな」

「穀物類の種はあるんだろう?」

「ある程度の数は、な。天帝陛下と十二王家が逃げる民達にできる限り持って逃げるように命じてたし。ああ、家畜とかの類いも」

「それに、種子や苗は特殊な保存がされているから、すぐに植えなくてもある程度は持つ。まあ、数年ぐらいは」

「ああ、人間界に居た神々が施してくれた技術か」

「けど、それでも植えてすぐに生えるわけじゃないし、ある程度の数を確保するには時間がかかる」

「魚の養殖も必要だろう」

「養殖場所はどうするんだ」


 更にヒートアップする場に、萩波は頬杖をつきながら告げた。


「とりあえず、食もその流れで良いでしょう。衣服の方はどうです」

「そっちも食と同じだな。まあ、当面の衣服はあるから、それらを再利用しまくれば少しは保つ」

「それで良いです」

「……本当に五年でやる気か?」


 明睡の質問に、萩波が笑った。


「当たり前です。その為には、皆には死ぬ気で働いてもらわなければ」

「お前な……」

「まあ、でもそこまで心配する事はありませんよ。だってそうでしょう?」


 萩波の浮かべる笑みに、上層部が息をのむ。


「誰だって暗黒大戦前には戻りたくないでしょうから」


 ようやく終わった大戦。

 解放の時。

 新たなる生活。


 不安は多いが、それ以上に平穏な未来を願い続けた神々。


「無駄口を叩いている暇はありません。他にも、治安の維持、教育水準、経済、探索、色々とやるべき事は沢山あります」

「……やれやれ、俺達が休めるのはいつの事やら」

「時が来ればイヤでも休めますよ。それに……天帝陛下と十二王家様のご配慮もありますからね」

「……」

「本来なら何も無い、いや、もっと何も無い状態から始めなければならなかったにもかかわらず、思ったよりも沢山ある状態なのは全てあの方達のおかげですから」


 この古代王国の廃墟後もそうだし、民達に財産を持って逃げるようにさせたのも天帝達。

 そして、大戦時代の中、自分達に仕える各軍に自給自足と貯蓄を通達したのも、天帝達である。


 だから、物資は、ある。

 思った以上にある。


 そして、それらを工夫し、分け与えられた民達と協力すれば、死ぬ気で働けば、無理だと言う年数でも建国が、大戦からの復興が可能だろう。


「今まで死ぬような思いは何度もしていますからね。死ぬ気でやる事など簡単でしょう」


 そんな萩波の言葉に、上層部達がやれやれと苦笑する。


「それに、今は大戦が終わって間もないから、それこそ必死にやるか」

「その通りです」


 そうして、建国から五年が経とうとした頃には、ある程度の国の形が整った凪国は、他のどの国よりも早くに国を安定させたとして炎水家からお褒めの言葉を承る事となった。



 そして――凪国に五度目の冬が来た。


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