【番外編】~真幌~ 飯
またもや番外編です。
読まなくても本編には差し支えありません(ぺこり)
喫茶「風花」
駅から少し離れた所にあっても、地域密着型。
おまけに学校と駅の間にあったり、学割もあったりとで学生も多い。
そんな常連さんの中でも一風変わっているのがいる。
柊 真幌
神崎高校2年。
今どき珍しい勤労学生である。
細身の体にポニーテール、いつも木刀らしきものを片手に歩いている。
傍から見れば危ない人?
授業中は起きている方が珍しいのに成績は悪くない。
帰宅部でバイト三昧。
一昨日は道路の工事現場にいたとか。
昨日は駅前でたこ焼きを焼いてたとか。
今日はリアカーを引いて氷屋さんらしいとか。
いろんな目撃情報が入る。
そんな彼が決まって訪れるのが夕食時の風花なのだが……。
今日も一仕事終え、次のバイトに向かうまでの僅かな時間。
カカリラン♪……とカウベルが鳴る。
真幌特有の音がする。
何故だか解らない。
本人は至って普通に扉を押し開いてるだけだと言い張る。
何度か皆で検証してみたが、再現するのは本人にしかできなかった。
そんな変わったベル音も今では誰も気にしない。
「……腹減った」
今にもぶっ倒れ寸前の声あげながら、片手をあげてご挨拶。
ふらふらといつもの定位置の2人がけのテーブルへと着く。
「よっ」
蓬も短く応えただけ。
素早くカウンターの中で調理が始まった。
すでに刻んであった野菜の数々。
フライパンには細切れの豚肉がすでに投入され、ジューと小気味良い音をだしている。
待つこと数分―――。
「お待ちどう様」
ドンと目の前に置かれた肉野菜炒め。
優に2人前はある。それにてんこ盛りのどんぶり飯と味噌汁。
おまけに生卵。(本人希望)
デザートには本日のフルーツ付。(当店サービス)
「……いただきます」
徐に箸を持ち、礼儀正しく。
その後は冷めぬ内にと口へ運ぶ。
運ぶ……運ぶ運ぶ運ぶ運ぶ運―――。
ようやくお冷をコップに注ぎながら、いつもの食いっぷりに感心する。
目の当たりにしなければ信じられない量。
あれよあれよという間に細身の体へと入れていく。
野菜炒めとご飯を丁度に食べきり、味噌汁を流し込む。
最後に恒例の生卵をごっくん。
作法通りに箸を綺麗に置く。
その仕種だけで育ちはよさそうなのだが……。
「今日も旨かった。ご馳走様でした」
お冷も残らず飲み干し、人心地ついた所で手早く皿を集める。
おもむろに立ち上がり、物も言わずにカウンターに入り、魔法のように食器が洗われていく。
「それじゃ、バイト行って来る」
「ほい、ご苦労さん」
カラン♪
真幌がカウンターを出るタイミングで颯一が現れた。
両手には箱に入ったマフィンが5つ。
「真幌、これからバイトかい?」
「朝まで宅配の仕分作業のバイト」
「相変わらずだね。体に気をつけて」
「さんきゅ」
短い会話を交わし、またカカリラン♪と鳴らし去っていく。
滞在時間、僅か20分弱。
お代は毎末にまとめて、一ヶ月1万円、友人価格のなせる業。
「あ、これ持って行ってもらえば良かった」
「何それ」
「常連の松田さんから食べてって貰ったマフィンなんだけど……」
「それなら心配ないと思う」
カウンターに肘を付ながら、颯一の持っているマフィンの箱を指差した。
ポコンと不自然に空間が空いている箱。
そこには先刻までマフィンがあった事を物語っている……。
「……相変わらず素早い」
「油断大敵。歩く胃袋だよ?」
くすくすと笑い合う。
きっと明日も同じ。
腹ペコ青年がカカリラン♪とカウベルを鳴らすだろう。
歩く胃袋……。
まだまだ続く!?