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風花  作者: 草薙 承
~涼~
7/20

~涼~ 強制自覚!?

あれから風花の面々とはすれ違う度に挨拶や立ち話をする程度の仲になった。

蓬さんはすらっとした長身で綺麗、妙子さんはちまっと可愛い。

妙子さんはその明るさとちょっと……たぶんちょっと抜けてる所が可愛いらしい。

蓬さんはサバサバとした性格で、1年の女子から密かな憧れの的になっているらしい。

その身長差もあってかやたらと目立つ二人、校内ではちょっとした有名人だ。


野郎からもモテそうに思う。

だけどそんな感じがちっともしないのはきっとあいつの所為だ。


藍田颯一。


さらっとした髪。嫌味のない応対、何より……蓬さんの幼馴染で必ず傍にいる。

蓬さんにはそれが自然なんだろう、と見てて感じる。

本人達は否定しているがどうみても恋人同士。

そんな下級生の憧れ的存在である彼らと、少しでも親しそうに見えるらしい俺はやはり気になる存在らしい。

こういうのも七光りっていうのだろうか?

彼らとの関係を聞かれたり、仲介役、荷物配達人等々。

最初の頃はうんざりとしていたが、それも風花の常連になる頃には適当に誤魔化し、断る術を覚えた。



そして季節は暑い暑い夏へと変わっていく―――。




*




偉大な先輩達のおかげで期末はなんとか赤点にならず乗り切った。

風花様様だ。


明日から試験休み、そのまま夏休みへと突入する。

毎日30℃を越え始め、今日も嫌なになるくらい快晴。

その中、今学期最後の朝礼が行われている。


……長い。相変わらず校長の話は長い。

ただでさえだれてる所にこの長話。

高石の言葉を借りるならば『KY』。

空気読め、誰も聞いちゃいない。

先生ですら汗を拭きながら、時計をちらちらと見ている始末。

炎天下での15分間の演説で誰も倒れなかったのは奇跡に近いのかもしれない。


ようやっと朝礼が終わり、クーラーの入った天国の教室へ戻った。

流れ作業のような成績表配布を受け取り、確認。

まぁまぁ……かな。たぶん。そういう事にしておこう。うん。


暫く会う事もないだろうクラスメイトと教室で無駄話を咲かす。

入学して一ヶ月。されど一ヶ月。

その間にできた友人は思てったよりも嫌な奴も居らず、楽しかったと思う。

ふと時計を見ると14時過ぎ。

そろそろ腹も減ってきたしと断り、一足先に教室をでた。


暑さがピークな時間帯、道路には陽炎がたっている。

それだけで駅までの道程がうんざりしたものになった。

これは風花に寄って、飯食って涼んでから帰るのが賢い選択と言えよう。

と足を河川敷の方へ向けた。


川沿いはよく風が通り、涼しい。

ついついこちらの道を選択し、妙子さん達に見つかり風花に連行されるという場面も多々あった。


今日はもう皆店にいる頃だろう……と。

陽炎を追うように、いつもの橋を渡り始めた。

流れるような汗を吸い込んだシャツが体に貼り付き、一層の不快感を煽る。

この橋を渡れば目的地はすぐそこ、頑張れ俺……。


「……大丈夫?どうしよう―――電話した方が……」


小さな声が足元から聞こえる?

たぶん橋の下から……。

あの声は妙子さんだよなぁ?

橋の下を覗き込むとに動く影がみえた。


「もしかして、妙子さんそこにいますか?」

「えっ、誰!? 神様!? お願い助けてっ! 蓬がっっ」


ちょっ!と突っ込みそうになった俺も切羽詰った妙子さんの声に釣られ、慌てて橋の下へと滑り降りる。

土手の砂利がざざっと音を立てて崩れ、砂埃が舞った。

最初、視界に飛び込んだ座り込んでる蓬さん。

次にその傍でおたおたと今にも泣きそうな妙子さんだった。


「涼君!? あれ、涼君神様? あれれっ?」

「大丈夫ですか!? 今、上でしゃべったのは俺ですよ」


抑えても少し呆れ声が混じってしまう。

それでもそんな問答をしてる場合でもないので、しゃがみこんで蓬さんの覗きこむ。

橋影の中でも顔色が良くなさそうだ。


「涼君、あのねあのね、蓬が貧血っぽいのっ!」

「大丈夫だって。少し涼めば治るよ」


真っ青な顔でいつもの苦笑をする姿が余計に辛そうに見える。


「ここじゃあ、涼むどころじゃないですよ」

「だよねぇ……だから今、颯一君に迎えに来てもらおうかと思ってたとこなんだ」

「俺が連れて行きますよ」


即答。

考えるより、先に言葉がでていた。


「えっ……でも……」


目をぱちくりっとさせ戸惑う妙子さんに俺は珍しくきっぱり言い切った。


「迎えに来てもらうより、断然早いです」

「うん、じゃぁお願いっ」


蓬さんに近づき、手を握った。

こんな暑さなのにひやっと感じるほど手が冷たい、貧血なのは間違いなさそうだ。


「立てますか?」

「大丈夫だってば」


振りほどかれない手を少し引っ張りあげる。

重さが腕全体にかかる前に、空いてる方の手を肩へと添えた。


「大丈夫じゃないですよ、その顔色。それにいつまでもここに居たって俺達が心配で動けないです」


2~3秒の沈黙の後、蓬さんが自分で体を起こす。

判ってもらえたのだろうと、お姫様抱っこをしようと背中に手をまわし膝裏に手を入れようとしたが、蓬さんの体が逃げる。


「いや、さすがにそれはっ。大丈夫」

「でも……」

「肩、だけ貸してもらえれば歩けるから」

「解りました。妙子さん鞄お願いします」

「うんっ!」


体を支えるように腰に手を回し、ゆっくりと移動する。

この炎天下の所為なのか、辺りに人影はなかったのは良いのか悪かったのか。


「ごめん、涼……」


具合の悪い所為で語尾が小さくて、いつもの”君”聞こえなかっただけの事だろう。

”涼”と呼び捨てにされた名前に思わず心臓が跳ねる。


「具合の悪い時はお互い様ですよ」


平静を装いながら歩く道のり。

不謹慎さと動揺している気持ちが複雑に入り混じった。


橋を渡り終えるとすぐにレンガ造りの家が見えてくる。

店の前には人影、きっと藍田さんだろう。

向こうもこちらに気づいたようで、慌てて走り寄ってきた。

やはり遠めに見ても、蓬さんの異変に気づくのか……。

ちりっと胸が痛むだ。


「蓬!?」

「颯一君、蓬貧血みたーい!」

「妙子……そんな叫ばなくて……」


苦笑するしかない蓬さんに俺も少し同情した。

俺達の元へ駆け寄った颯一さんは蓬さんの顔を覗き込んですぐに俺から引き離し、さっと俺が未遂で終わったお姫様抱っこを完了させていた。


「ちょっ、颯っっ」

「病人は黙る」


有無言わさぬ藍田さんに蓬さんも大人しくなった。


「妙子ちゃん、来生君ありがとう」


言うや否やくるりと踵を返し、レンガの家へ消えていった。

一瞬の、本当にあっと言う間の出来事だった。

俺も妙子さんも言葉を発する暇もなかった。


唖然とはまさにこの事を指すのだろう。

小さな溜息をこぼし、なんとも言えない気持ちに整理をつける。

俺の時はあんなに抵抗したのに……。



そういや妙子さんの反応がない?

不思議にった俺は横の妙子さんに視線を向けた。


―――えっ?


いつもの彼女にない空気を纏っているように見えた。

二人が消えた扉をじっと瞬きする事なく睨んでいる?

唇はを小さく噛み、鞄を抱えた掌はぎゅっと拳が作られ白くなりかけている。

俺はどうして良いか解らず、唯、唯、彼女をじっと見ていた。

すぐに妙子さんは目を閉じ、何かを堪える仕草をしてからこっちをみてニコッと笑った。すでにいつもの顔。

今のあれは一体……。


「やっぱり颯一君には敵わないよねぇ」


戸惑う俺に妙子さんは構わず続けた。

別に俺と話がしたい訳ではないらしい。


「男の人って良いなぁ……こういう時には助けられるし、いざっていう時は頼れるし。―――何より普通だよね」

「普通?」

「うん、男と女で並んで歩いてても、手を繋いでても別に変な風にみられないでしょう?」

「そりゃ、まぁ……」

「だから普通」


まだ理解できない俺に妙子さんが大爆弾を投げつけた。


「蓬は気づかないだろうけど……同じ穴の狢同士仲良くしようね♪」

「狢……俺と妙子さんが?」

「そう、涼君。蓬の事好きでしょう。だから狢、同志とでもいっとく?狢って狸だよったらね。私そっちの方がいいなぁ…… 」


ふふふっっと笑う妙子さんが焼きついた。

きっとあれはまさに恋する乙女って奴なんだろう。

そこまではなんとか理解できた。


ちょっと待て、俺が蓬さんを好きだって?

頭をハンマーで殴られた感じがした。脳内がぐるぐる回る。

いや、有り得ないだろう。俺が!?

自分で思っているより衝撃が大きかったらしく、妙子さんと何を話してどう帰ったなんて覚えていない。


今まで自分自身で気がつかなかった、いや無意識に避けてきたんだろう重大事項をいとも簡単に暴露してくれた。

しかもそれだけじゃなくてご丁寧にライバル宣言? 違う、報われない同士、仲良くしようとまで言った。


理解できない。

消化しきれない事が多すぎだっっ。

夏休み初日、俺は知恵熱で寝込んだ。

その間、ぐるぐると思考は回り続け、一週間かかって熱が下がった頃に俺は「蓬さんが好きなんだ」という事実だけが残った。

妙子爆弾投下!

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