【番外編】~蓬と颯一~
前編で出てきた颯一と蓬の日常です。
読まなくても本編には差し支えありません(ぺこり)
糖度高め?
喫茶風花の看板娘の蓬さん。
実は彼女には同い年の幼馴染がいらっしゃいます。
藍田颯一君。
同じ日、ほぼ同じ時間に産まれた双子のような二人。
近所という事や、二人の両親が仲の良い事からお互いの家に出入り自由。
放課後のアルバイトもやはり風花。
とは言っても颯一君は喫茶の方にはあまり顔をだしません。
出さないと言うよりは出せないのが正しい。
手先の器用な彼はお隣のグリーンショップ担当。
近所のおば様達のアイドル的存在になっていたのでした。
颯一君のいる時間を狙って店にやってくる常連さん。
わざわざ指名して花束を作らすお姉さん。
そんな訳で彼が喫茶店に顔を出すのは決まってグリーンショップが終わってから。
帰る前のほんのひと時。
カラ~ン。
カウベルは今日も同じ音で来客を告げる。
正確には客ではないが。
「お疲れ~」
「蓬もお疲れ様」
迷わずにカウンターの隅へと座る、いつもの定位置だ。
たった今淹れ終わったばかりの珈琲がマイカップで差し出される。
相変わらず、ジャストタイミング。
「ありがとう」
礼を述べてから、カップに口をつけた。
熱い珈琲が身体に染み渡る。
その暖かさが全身をゆっくりと解きほぐしていく。
思っていたよりも疲れていたんだなぁと、少し苦笑しながらカップを置いた。
ふと見るといつの間にか小さな皿にチョコレートブラウニが一欠け置かれている。
これもいつもの彼女の心遣い。
クッキーだったり、マフィンだったりと日替わりなのだけれど。
ありがたく口の中に放り込む。
ほろ苦いチョコの味が今はありがたい。
「だいぶ疲れてるね、少し減らしてもらうとかすれば?」
「まぁね。でも嫌いじゃないからね」
「ありがたいこって」
彼女特有の悪戯っ子のような笑い。
これが見たくてまっすぐ帰らず、喫茶によっているのだ。
無言の時間が流れる。
ゆったりとしたピアノの音。
閉店準備中の彼女がたてる音も耳に心地良い。
目を閉じていると自分もその一部になる。
けれど、そんな時間も長くは続かない。
ボーンとアンティークな柱時計が終わりの時間を告げる。
まるでシンデレラみたいだ。
心の中で苦笑しながら飲み終えたカップを持って立ち上がる。
「良いよ、そのままで」
「ご馳走様。店仕舞い手伝うよ」
「今日ぐらい早く帰れば良いのに……」
「いつもの習慣を崩す方が精神的に良くないの」
「そんなもんかねぇ?」
「そういうもんなの。……だからはい」
一口分だけ残してたブラウニーを彼女の口元へと運ぶ。
一瞬、躊躇する彼女。
それはそうだろう。
甘いものの苦手な彼女に差し出されるブラウニー。
解ってはいてもやはりいつもの習慣は崩せない。
引かない俺の手から渋々ブラウニーを食べる。
「……甘い」
もぐもぐしながら上目遣いで苦情を訴える。
そんな次にでる行動もいつも通り。
やっぱり一口分だけ残してあった俺の珈琲をひったくるように奪い、飲み干した。
満足した俺はにっこりと笑い、閉店作業に入る。
全てはいつも通り。
……過保護過ぎ、颯一……。