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風花  作者: 草薙 承
~涼~
4/20

~涼~ 浮く気持ち

蓬:キク科の多年草。山野に自生。


家に帰って振り返ってみても今日は一日、いや半日色々あった。いやあり過ぎた。

何気なく家にある辞書から『蓬』という単語を引いた。

あんまりないよな……どんな意味で親は名前つけたんだろう。

今時の痛い親なんだろうか?俺なんかが考えても解る訳でもなく。


ベットの上で寝返りを打つ。

目を閉じても気持ちが落ち着かず、またすぐ寝返りを打つ。

昼間とは違ったもやもやが俺を支配する。

でも少しだけ、今までのもやもやと違って嫌なものではなかった。




*




それから何度か店に行ってみようかと神無橋までは足を向けた。

結局橋を渡る事はなかった。

先輩達のいる店。

たかが一回携帯を届けた位で再び訪れるには理由がなさすぎて行かれなかった。

理由なんて気にしなければ気軽にいけるのだろう。

あそこは喫茶店だ。珈琲を飲みに来たと言えば、快く迎えてくれるはず。

けれど、その言い訳は俺の中のプライドが何故か許さなかった。




*




最初の出会いから数週間。

俺の中ですっかり風花での事も思い出さなくなってきた頃。


今日も今日とてかったるい一日が終わった。

そろそろ置き勉がしたい……。

置き勉が禁止って、中坊かよ、俺ら。

まだ見回りしてるらしいとの情報が入っている為、うんざりしながら教科書を鞄へと詰めていると後ろから声がかかった。


「おい、涼! 今日暇か?」

「暇っちゃ暇」

「んじゃ、ちょっと付き合わねぇ? 良い店あるんだ」

「いいけど……どこよ?」

「それは行ってみてからのお楽しみぃ~~」


にひひと笑うクラスメイト。

高石 卓(たかいし すぐる)

クラスでもお調子者というか、ひょうきんなキャラクターで付き合いやすい奴だった。

何度かゲーセンやカラオケに他のクラスメイトとつるんで行った事もあるので、今日もどうせそんな辺りだろう。

パチンと鞄の金具が閉まった音が鳴る。

それがOKの合図と受け取った高石は「行こうぜ」と先導するように教室をでた。


河川敷沿いの道を歩く。

そろそろ6月になるのに雨は一向に降る気配はない。

梅雨入りはまだ先そうだ。

高石の話す話に話半分聞きつつ、空を眺める。

隣のクラスの女の子が競争率が高いだとか、あいつはもてそうなので要注意だとか。

きっと他の奴だったらもっと食いついて話しに乗るんだろうな。

誘った相手が俺なのが悪い……と普段なら他の奴に任せるのだが、今日はそうも行かない。

なんせ俺一人だ。

諦め半分、開き直りつつ足を繁華街に向ける。


「涼、どこ行くんだよ。こっち!」

「駅前こっちだろう?」」

「誰がゲーセンだの、カラオケだのって言ったんだよ。こっちこっち!」


手招きする手に素直に方向修正。

あれ、この橋……。

覚えある橋、この辺の橋で青い縁なのは神無橋だけだ。

確認の為、渡った橋を振り返ればやはり神無橋。


まさか、な……。

高石と風花の雰囲気はどうみてもミスマッチだ。

なんとなくこいつには知ってて欲しくないという気持ちが歩調をゆっくりにした。

気持ちとは裏腹にグリーンショップが見えてくる。

喫茶店の看板も見える。


俺の祈るような気持ちを察する事もなく、高石は喫茶店の中を覗いた。


「……いるいる♪ ここだよ、ここ!」


うきうきと扉を開ける高石に俺は言葉もなかった。


カラ~ンと前と同じカウベルがなる。


「こんちはぁ~! 今日は友達連れてきましたー!」


声の調子で高石のテンションが解る。

何故そんなに高い……。


「いらっしゃい」


聞き覚えのある、大人っぽい声。

久しぶりの彼女……蓬さんの声だ。

耳に心地良いその声を脳内まで響かせた。


「涼? どうした、入れ入れっ、早く~!」

「……ああ」


対照的なテンションでペコリと会釈しながら入る。

前と同じ店なのに、前と違った雰囲気。

シックな感じはなく、学生が気安く入れそうな感じだ。


「あっれ~? 涼君だぁ♪」

「本当だ、いらっしゃい」


あの時と同じ二人、妙子さんと蓬さんが笑顔で迎えてくれた。

覚えていてくれた嬉しさと気恥ずかしさが入り混じる。

釈然としない顔の高石がぼそぼそと何か言ってたが聞こえない振りをかます。

前と同じ席に水が置かれた。

そこに座れと言う事なのだろう、俺達は素直に従う。


「ひっさしぶり~♪ 元気だった?」

「そんなに久しぶりですかね? まぁそれなりに……?」

「それは良かった! こないだはありがとねー!」


にぱっと笑う、相変わらずの妙子さん。

例えるなら夏のひまわりみたいな明るさか。

こっちまで華やかな気分になれそうだ。


「二人とも何する?」

「俺コーラよろしくっす! 涼は?」

「カフェオレ」

「畏まりました」


支度を始める蓬さんが背を向ける。

その隙に高石が顔を近づけて小声で高石が話しかけてくる。


「涼、ここ知ってたのかよ。っていうか、二人とどういう関係? ありがとうって?」

「……ノーコメント」


たいした理由じゃないが、高石に詮索されるのも気分悪い。

それにお前の悔しそうな表情が、無駄に意地悪したくなる。悪いな高石。

ちっと舌打ちが聞こえたのでお相子だ。


「お待たせ、何の相談?」


くすっと笑いながら、コーラをだす蓬さん。


「相談なんかじゃないっすよっ」


慌てて離れた高石の顔が微妙に赤くなる。

……なるほど。

友達を連れてくる事で自分の株をあげつつ、普段から女子の話に興味のなさそうな俺を誘ったという訳か。

安牌だと思い込んでたのが運の尽き。残念だったな高石!


と勝ち誇っても、別に蓬さんと妙子さんと何があるという訳じゃないんだが……。

落ち着け俺。

淹れたばかりのカフェオレ飲んで心を落ち着けた。


今日は淹れたてのカフェオレにありつけた。

珈琲にうるさい訳じゃないけど、ここのは美味い。

というか、俺好み。

珈琲の濃さ? ミルクの割合? 豆の違い?

なんだろう??

素人の俺に解るはずもなく。


「涼君は全然学校で全然会わないね? 高石君とは良く会うのに」


今日はレモンシュカッシュ? の妙子さん。

氷をぐるぐると回し、足をブラブラしている。

やっぱり年上には見えない……。


「そうだね、二人は同じクラス?」

「そうっす!」


蓬さんの問いに率先して答える高石。

傍からみても必死すぎるだろう。

半身になって俺と彼女らの間に壁を作る。

あからさまだな……。

まぁ、元々会話は得意じゃないので高石お任せした。

喫茶再びっ

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