~涼~ 出会い
桜も散り若葉が生い茂る頃、学校にも慣れ制服のネクタイも緩くなった。
それなりに仲の良い友人もできたし、勉強もまだついていけてるし?
当たり障りのない毎日。
当たり障りのない生活。
別にそれが嫌って訳でもないけど、何か物足りない気もする。
それが何かなんて俺自身に解る筈もないけど……。
センチメンタルな気分を抱えた自分に浸る為、
友人の誘いを断り、夕暮れ時の水面川へと足を向けた。
まだ5月。
春陽気が真っ盛りと言えども、川を吹き通ってくる風は冷たい。
そんな空気の中で風の匂いを嗅いだ。
少し耳が痛い、身が引き締まる気がする。
すぅっと深く息を吸い込み……
胸の奥でもやもやとする何かを振り切りたくて、いきなり大声で叫んでみた。
「うわああああぁぁぁぁっっ!!」
「うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
へっ!?
数秒遅れの奇声、周りに反響する物はないよな…?
しかも俺より高い声?
反射的に声のした方へ視線を向けると……、
両手で胸を押さえた女の子が草むらに座り込んでいた。
―――完全思考停止。
我に返った時には、人間って一瞬で処理できない事があると本当に全ての思考が完全停止するんだな。
と変なとこに関心しつつ、視線の先にいる女の子に釘付けになっている。
両サイド高目に結んだおさげ。
くりっとした目。
小学生……いや、中学生くらいか?
俺がそっちの趣味の人だったらドキッとしてたかも。
「あ~びっくりしたよぅ、もうっ!」
抗議の声と共に彼女の視線が上目遣いに合わさる。
少し潤んでるように見えるのは涙目になってるせいか?
「悪い。まさか人がいるとは……。」
戸惑いながらも素直に謝ってしまった。
びっくりしたのはこちらも同じなんだけど、まぁきっかけは俺だし。
「うんん、こちらこそごめんね?あんまりにも気持ち良くて気づいたら寝てたみたい♪」
にぱっと笑いながら立ち上がり、ぱんぱんと払う姿もちまっとしている。
150cmはなさそうな身長は、雰囲気とも見合っていた。
「寝てた……んだ?」
「うん。だから起こしてもらえて良かったかも。起きたら真っ暗でしたじゃ困るし」
「なら良かった……のか?」
いちいち戸惑う俺。マイペースな彼女。
確認するような俺の反応に、気にする事もなく近くにあった鞄を拾い上げた。
「うん♪ありがとねっ!バイバイ♪」
それだけ言うと小走りに川下の橋の方へと消えて行った。
その姿が消えるまで目が離せなかった、というか唖然としたままだったと言うのが正しい。
あっという間の出来事、俺は暫くその場に佇んだ。
すっかり暗くなりつつある風景に何かがひっかかる。
なんだこの違和感は……なんだろう?
消えていった彼女の姿を反芻させる。
……………。
「……あれ、今の制服」
呟きと同時に脳裏に浮かぶ彼女の姿。
「うちの制服じゃん!?」
完璧に年下だと思っていた。
良かった、変な事言ってなくって、一気に脱力した何とも言えないため息を漏らす。
また学校で見かけそうだ。
そんな予感がした。
さっきまで抱えていたもやもや気分もいつの間にか消えていたが、そんな事は頭からすっかりと抜け落ちていた。
まだまだ続く……。