~涼~ 囁き
4月7日 春
桜咲く季節
……とは言っても、桜なんか榻の昔に散ってしまい、あるのは葉桜のみ。
そんな入学初日を俺は迎えた。
来生 涼 まだ15歳。
親の転勤都合で東京郊外にあるこの神崎高校に入学を決めたのは半年前。
学校の傍を流れる三日月川と割かし自由な校風が売りらしい。
倍率はやや高め。
俺にとってはのびのび過ごせれば何処でも良い。
そんな軽い気持ちで決めた学校だった。
*
サクラサク入学式。
どこの校長も同じような眠たい話。
顔なじみ同士のひそひそ声、エアコントロールされた心地良い講堂。
外は桜が散るぽかぽかな陽気。
どうぞ寝てくださいと言わんばかりのシチュエーションに俺は素直に従う。
掠れゆく思考に飛び込む、小さな声に耳を捕われていた。
『……俺さ……の先輩に聞いたんだ』
『何を?』
『川の向こうってあんまいかないじゃん? 穴場の店があるらしい』
『へぇ…?どんな?』
『カザハナっていう……「こらっ!そこ私語は慎めっ!」』
突然の叱咤は緩んだ講堂内の空気を一瞬にして引き締めた。
すっかりと眠気を削がれた俺は軽いため息をつきながら椅子に座りなおす。
カザハナ……ねぇ…。
なんの店だかも解らずじまい、ただその名前だけが耳に残った。
ようやっと入学式が終わり、気分も解放されその事もどこかへと消えていった。
始めてみました(ぺこり)
まだ使い方がよく解っていません。
亀ですが、お付き合い下されば幸いです。