奇跡の夜 ~THE END~
夜。それもただの夜じゃない。
徐々に周りが明るくなっていく。
その原因は、夜明けじゃない。
光る『何か』が空間を満たしていく。
それと同時に、僕は分かった。
――これが……人間の『可能性』。
「そうだ。これだ。」
僕が振り向くと、黒一色の服装の彼――鏡 京谷がいた。
両手を広げ、笑いはじめる。
「人間の『可能性』。人間が夢を見る理由。なぜそれを不自然に思わないかという理由。全てはこれにある。」
夜の公園。光は公園のみならず、見渡す限りを満たしていた。
京谷は語る。
「全て、精神だけの世界で起こった『本当の事』なのだ。そこまで考えて思った。人間は、本当は具現化かそれに基づく能力を持っているのではないかと。」
「それで……人間の精神を集めた訳だね……。」
僕は静かに、しかし怒りを込めて言葉を発する。
なぜ、怒りを込めたかというと、不愉快だから。
一瞬でも光を神秘的だと思ってしまった自分を恥ずかしいと思う。
この光は……。
「そうだ。夢は肉体と精神が離れた際に発生すると私は思っている。だから、肉体を消し、精神だけ切り離す必要があった。不可能だろう。そんなこと。肉体を消せば精神もろとも消えるからな。だが……。」
公園の砂場に落ちていた刀を拾う。
刀を僕に向ける京谷。僕はポケットに隠してあるナイフを握る。
「津山一族のこの『物質殺し』が不可能を可能とした。物質なら全てを殺す――いや、この表現は正しくないな。正確には物質なら全てを消し去る。裏を返せば、物質以外は消さずに物質を消せる、となる。」
京谷が刀を背後のブランコにむかって、一振り。
その瞬間、ブランコは消滅した。
言葉では言い尽くせない、不気味な光景。
それに、光に満たされた背景。アンバラスにもほどがある。
「光も一応物質ではあるのだが、この光は別物のようだ。いくら斬っても消えない。」
光に満たされた空間を素早く京谷が引き裂く。
しかし、少し揺らいだだけで、変化はほとんどない。
「鏡 京谷。」
「ん?」
我慢の限界だった。
うれしそうに光を堪能する京谷。
平然と他人を利用した京谷。
そして……何より頭に来たのは……。
僕は走り出す。
ナイフを取り出し、殺意を込める。
京谷は肩をすくめて、刀を構えた。
完全に素人の構え。だが、下手には攻撃できない。
なぜなら、彼の刀に触れた瞬間に消されるから。
でも、後先構わず僕は走る。
頭に思い浮かぶのは……。
光がよりいっそう強くなる。
それが、一つの物語の終わり。
そして、ムゲンの物語の始まりだった。




