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ブルマーの追憶(2)
やがて板書を終えた先生が、教科書の物語を静かに朗読しはじめた。それは幼稚園のときに先生が絵本を読み進めていく情景と重なった。
ひとり静かな廊下を教室へと歩く沙織。保健室で穿かされたブルマーから伸びる長い両脚が心もとなかった。席に着くと、スカートやズボンを穿いているみんなのなかで、自分だけがVのラインのブルマーを穿いていた。それから絵本のときも、運動場でのお遊戯のときも、ふと目を落とすと自分だけがブルマーだった。
それは、みんなからひと目でこの子はおもらししたんだと分かる、恥ずかしい格好。
《そのとき涼はどうしていたのだろう?》
幼稚園のとき涼と遊んだ記憶はあったが、そのときの涼の姿が沙織の記憶にはなかった。
《私が恥ずかしいときに、涼くんはどこにいたの?》
記憶の中で、沙織はまるで助けを求めるかのように、涼のことを探し続けた。