不思議な罪悪感(3)
「沙織、汚しちゃってごめんね」
吐いてだいぶすっきりした涼だったが、自分のせいで沙織の制服を汚してしまったこと、そして何より沙織の目の前で吐いてしまったことに落ち込んでいた。先生は念のため保健室のベッドでしばらく休ませることにした。涼はおそらく4時間目の体育で激しい運動をしたあとの給食だったので、胃が食べ物をうまく受け付けなかったのかもしれない。
優しく涼に目配せする沙織を、保健の先生はそっとベッドの隣の部屋に連れていき、いま持ってきた沙織の体育着を渡すと
「脱いだものは、このカゴに入れてね」
と言ってカーテンをさっと閉めた。
カーテンを1枚隔てたすぐ向こう側で涼の気配を感じながら、沙織はなるべく音を立てないように制服を脱いだ。そして先生が持ってきてくれたエンジのブルマーと袖に同色のラインの入った体育シャツに着替えながら、沙織は自分が悪いことをしたわけではないのに、不思議な罪悪感を感じていた。
《なんだろう、こんな気持ち、前にもあったような・・・》
沙織は脱いだ制服の入ったカゴを先生に渡した。先生は
「じゃあ洗濯して干しておくわね。薄いからたぶん放課後には乾いてると思う。先生はこれからちょっと留守にするけど、あとでここで着替えていってね」
と言って沙織を見送った。
沙織は教室へと歩いていった。すでに午後の授業が始まっていて、さっきまでざわついていた校内がすっかり静まり返っていた。体育の授業でもないのに、ブルマーのまま校内を歩くことに、沙織は恥ずかしさの混じった違和感を感じはじめていた。渡り廊下を吹き抜ける風が、沙織の太ももをくすぐった。校舎から垣間見える山の燃え立つ緑がまぶしかった。