不思議な罪悪感(1)
「仕舞われた記憶」でも書いたように、私の通っていた幼稚園では、おもらしした子は男女を問わず、その日一日ブルマーのような形をした毛糸のパンツを穿かされていました。それは誰が見ても一目でおもらししたと分かるもので、私はそれを穿いている子のことを可哀想に思いながら、心のどこかでそれを穿かせてもらうことに憧れていました。
やがて自分がおもらししたとき、自分もそのパンツを穿かされました。というか、たぶん穿かされたのだと思います。記憶は飛んでいて定かではありませんでしたが、大きくなってから体育祭の前後など、ブルマーのまま授業を受けることがあったとき、ふとそのときの思い出がふと心をよぎることがあったからです。私はなぜかうれしくて、心が昔にタイムスリップしたような、やさしい気持ちのまま授業を受けていたのを覚えています。
そんなふうに、過去と現在の間で気持ちを交錯させながら、おもらししてしまったことが彼との距離を縮めていく、そんなちょっと恥ずかしいけれど素敵な恋の物語を想像して書いてみました。
それは保健委員だから、という理由だけではなかった。そして、それがすべてのはじまりだった。
給食後に急に吐き気を催した涼を、沙織は支えながら保健室へ歩いていった。幼稚園の時の同級生でしばらく離れ離れになっていたが、この学園に入って再会したふたり。優しくて、快活なしゃべりでいつも沙織を笑わせていた涼が、いまは顔色を青くして黙っている、その異変を沙織は黙って見ていることができなかった。
保健室までは吐くのを我慢した涼だったが、保健室の暖かい空気に包まれた途端、安心したのか急にこみ上げて立ち止まった。口もとを手で押さえてうつむいた涼を支えようと、沙織が思わず身を乗り出した瞬間、涼の手の隙間からさっき食べたばかりの給食があふれ出してきた。それは夏服になったばかりの沙織のブラウスとスカートを汚した。
保健室の先生がキャスター付きの洗面器を持ってきて涼の前に置くと、やさしくそして強く、涼の背中をさすった。
「涼くん気持ち悪かったのね、もう大丈夫だから・・・、ゲエしていいのよ。はい、ゲエ」
先生のやさしい言葉に促されるように、涼はしばらくうつむきながらだんだん下あごをしどけなく開かせると、
「げっ・・・、げえぇぇ・・・」
と喉を鳴らしながら洗面器の中にたくさん嘔吐した。沙織は涼の肩を黙って支え続けた。口もとを汚しながら、沙織の目の前でさっき食べたばかりの給食を、気持ちよさそうに戻していく涼を見て、
「うっ・・・」
沙織も思わずこみ上げそうになり、口もとを片手で押さえた。でも程なく涼の嘔吐が治まったので、沙織は吐かずに済んだ。