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飛ばされ魔王のデタラメな毎日  作者: 遊希
魔王、始めました
7/15

007◇近衛騎士と肉塊伯爵


お待たせ!


いやー、前回予約投稿に失敗して、


「やべぇストックないじゃんか!」


とか慌てたけど結局一ヶ月強も更新を遅らせた遊希です(笑)



まずはどうぞ(駄文失礼(^_^;)





ウェレイザ地方からの緊急要請。

あまりに急過ぎたそれは、経験のない新米魔王には重たい問題だった。


城門での報告のあと、急ぎ大臣たちを討議の間に呼び出しての会議を行おうとしている燎牙は、


(なんだってこんな時に!)


慣れない事態に、対処すべきかどうか悩んでいた。


届いた要請はこうだ。


「ウェレイザ地方グレナレイト伯領において、ロックフォール伯爵による占領あり。グレナレイト伯爵の突然死も関係している可能性あり。至急解明求む。  マティアス・エルリック」


ウェレイザ地方のグレナレイト伯領と言うと、かつて武人として名を馳せていたらしい、ヴォルア・グレナレイト伯爵が治める領地だった筈だ。

グレナレイト伯は温厚で、領民や他の男爵等への態度もきわめて紳士的、信頼の厚い善良な領主として知られている。


廊下を急いで歩きながら、


(討議の間って遠いな! 転移魔法とか考えとけばよかった………)


などと今更なことを考えていた燎牙は、横で早歩きしている巫女少女―――クゥに尋ねる。


「グレナレイト伯爵は、善良な領主だったのか?」


「ええ、そりゃあもう。税率の低いことでも有名でしたよあの方は。あと、槍を振るえば右に出るもの無し、とも呼ばれていました」


「そんなに強かったのか」

それは、惜しい人材をなくした………ってそうじゃねええええっ!!


「ああ、ならロックフォール伯爵は?」


「………あの方は、まさしくグレナレイト伯爵様とは真逆の存在ですね。私腹を肥やすことにしか目がない、という感じですかね。あとホントに私腹が肥えてます、気持ち悪いです」


「………正直だな、お前」


「ええ、私正直者なので!」


「自分で言うか、それ………」


ジャバル・ロックフォール伯爵。言うなれば、典型的な貴族タイプ。

私腹を肥やすために搾取を繰り返し、その非道さには先帝も手を焼いた、とか。


もう、なんというかだいたいの予想がついてしまうくらい対照的な二人で、はたして会議する意味があるのか、と思う。

「リョーガ様、間もなく討議の間に着きます!」


「ああ」


しかし、困っている領民がいるのなら、理由はどうであれその横行は止めねばならない。

正義感とはまた違う、魔王としての自覚に突き動かされる。

だからこそ、燎牙にはわかっていた。


(この事態を収束させることが、俺の魔王としての第一歩だ!!)








「皆、集まっているな」


討議の間に着くなり、人数を確認する。

集まっているのは、各大臣や騎士団長等の、国を動かす役人達だ。

騎士団長は役人ではないが、参謀長ジルウェ・オーゲンの部下として参加している。


もともと討議の間などというものは存在しなく、仮として来賓室の一つを改造して作らせた、急ごしらえのものだ。


そんな部屋に十数人入るのだから、少々手狭だ。


それでもなんとか全員腰を下ろした。


「さて」


燎牙は一息つく間もなく議題―――占領紛いの保護をどうするか、を説明する。


「今回集まったのは他でもない――――」


ロックフォール伯爵による、グレナレイト伯領の占領。領民への重税。グレナレイト伯爵の突然死。


内容をかい摘まんで説明すると、皆一様に考え込んだ。

その中、


「………リョーガ様、もう少し詳しいことはわかっておるのかな? 例えば、ロックフォール伯爵側の兵力とか、グレナレイト伯爵のご子息達の行方とか………」


国務大臣のディアブロが発言した。

なるほど役職通り、すばらしく頭が回るな、と燎牙は感心した。なんというか、冷静さを欠かない辺り宰相には相応しいようだ。


「いや、要請の内容しかわかってねぇ」


「ふむ、ならば真相を確かめるなら、直接出向くのはどうだろうかのう?」


「………!」


「っ、ディアブロ! それは魔王様の安全が確保出来んぞ! もしもがあったら―――」


「黙っておれ、ヴェリア! ―――さすればロックフォール伯爵にも逃げ場は無くなる。なにかごまかしたら取っ捕まえられるしのう」


ディアブロへの反論を本人に止められた、財務大臣のヴェリア・アンクトスは黙りこんだ。あの爺なかなかやるな、などと思ったのはまた別の話。


「―――なるほど、直接ねぇ。しかしディアブロ、それではヴェリアのいうとおり俺の安全は確保出来んぞ?」


「心配要らぬ。護衛には近衛隊を連れていけば問題は起きんじゃろうて」


ディアブロの近衛隊というキーワードにひっかかる燎牙。

お披露目とやらまでは見れない筈なので、その実力は疎か彼らの顔すら知らない。

「………そういや、近衛隊の実力はまだ見てないな。 …クゥ!」


「はい、なんでしょう?」


「近衛隊は強いか? 如何なる場合にも俺の安全が確保されるくらいには強いのか?」


クゥは暫し迷い、


「………はい、強いと思いますよ!」


やがて強く頷いた。


「多分」


「………多分てなんだ、多分て!」










燎牙のロックフォール伯爵への直接訪問というかたちで会議は終了した。


部屋から各々退室していく中で、


「ご安心下さい! 魔王様は私の部下に護らせていただきます!」


「………お前は護ってくんないのか?」


などというヴェリア財務大臣とのやり取りがあったり、文書の作成担当のビリオール一級書記が挨拶に来たりしたが、結局後片付けをメイド達に任せて自室に戻った燎牙に、久方ぶりの声がかかる。


『………最近我輩の出番少なくね?』


『知らんわ、そんなもん。猫がくったんじゃねぇの?』


「魔王の正装」を引っ張り出し、着替えながら会話をする。


………このコート着てると、どうも厨二らしさ満載だなぁ。


『まぁ、真っ黒だからな』


『漆黒といえ、漆黒と』


『どうでもいいわ厨二病患者め!』


ブーツの紐を締めながら、脳内で繰り広げられる………とまではいかないが、ともかくそんな不毛な会話を続ける意味はない。


ピアスを手にとる。


『で、何のようだエセ神様?』


『ああ、まあ、あれだ。今回は心配しなくても戦闘になるだろう。少なくとも向こうはやる気だ』


『ネタバレすんなよ………。まぁ、そんな気はしてたけどもさ』


『とにかく、死なんよう気をつけろよ?』


『了解、了解っ』


エセ神様の忠告を聞きながら、鏡を見て襟を直す。

その何気ない行動に、ふと懐かしさを覚えた。



鏡で髪を直していると、横合いからジジイが「どかんか馬鹿者ー!」と、ドロップキックをしてきて、「誰がどくかクソジジイッ!」と左手で受け止める朝は、もはや遠い世界の話だ。


クソジジイはちゃんとしぶとく生きてるだろうか。ぽっくり逝けばいいのに、などと思うこと数万回、遂に死ぬことはなかったクソジジイは、恐らくぽっくり逝くなどということはないだろう。



などと、どうでもいい記憶を掘り起こしてしまった燎牙は、ふと笑う。

そんなクソジジイに比べ、自分は何をしているのか。

………遠い異世界で何やら統治ごっこをしながらの、豪奢な生活。なんだかこんなところをクソジジイに見られたら、「たわけッ!」とぐいっと連れ戻される気がする。

だが、まぁ意味のない生活をしている気は毛頭もなく、寧ろ毎日意味ありげな行動しかできない。出来てないだけだが。



『頼りにしてるぜ、神様?』


『当たり前だ! 我輩に任せておけ!』


何をだよ、と飽きれながら、燎牙は部屋を後にした。










馬車乗り場から馬車に乗った燎牙達は、帝都ラザスから、ウェレイザ地方グレナレイト伯領を目指す。

時間は1時間とかからないようで、向こうへ2時過ぎには着きそうだ。


「で、お前が近衛隊長なんだな?」


「はい、近衛隊隊長のグレン・ハイランデルです、陛下」

燎牙は、目の前に座る、ニコニコと笑う男――というか美少年――を見た。

このグレンという少年が近衛隊隊長らしい。

らしいのだが。


「なんか覇気を感じねぇよな、グレンは」


グレンからは、まるで覇気というものが感じられず、へらへらとした印象が強い。

ニコニコと笑うさまは、あどけない少年のようでもある。

こんな変なやつに近衛隊隊長が務まっているのだろうか、いや怪しい。

だが、クゥが嘘をつく理由がないので、なかなかグレンという存在を見極められずにいた。


「………そう怖い顔をなさらないでください陛下。私は強いですよ?」


「自分で言ったらダメだろうが………」


相変わらずニコニコとしているグレンに思わずため息をつく。


「すいません、隊長いつもこんな感じなんです」


グレンの隣の、栗色の髪の少女が謝った。

なんというか、健気系少女という感じだろうか、謝り倒すキャラなんだろうなと燎牙は思った。


「この子は、キュロット・セイルラーズ。私の部下です」


よ、よろしくお願いいたします! と再び頭をさげるキュロット。

なんだろう、いままでにないキャラに思わず癒されるなコレ。


「あの、陛下?」


「ん、なんだグレン?」


「今回我々は、護衛ということでよろしかったですよね?」


「ああ。わざわざお披露目式の前に対面したんだ、期待してるぜ近衛隊」


「「はい!」」







「リョーガ様、間もなく到着になります」


クゥに言われ気がつくと、辺りは田畑が広がっていた。

のんびりとした、田舎を思わせるこの場所こそが。


「ここが、グレナレイト伯領か」


「はい、そうなります」


見れば、遠くの畑には、農夫たちが働いているのが見えた。見えた全員が、どこかやつれ、疲れた様子を感じさせる。

これも搾取の影響なのか。


「…………」


この日、初めて王都以外の場所で働くヒトを見かけた燎牙は、その農夫たちの現状にいらついた。


『まあ、それが地球とは少し違う世界だ。地球でもかつてはあったことだが』


『………そうだけど』


そうだけど。


『やっぱり魔王としてなのか、それとも俺としてなのか、心底腹がたつわ』


『その心は隠しておけよ? 下手にボロをだすと取り返しがつかなくなるからな』


『わーっとるよ』


怒りは隠して、馬車がだんだん大きな屋敷に近づいていくのを眺めることにした。






γγγγγγ






燎牙が屋敷に着こうとしていた頃、当の本人――ジャバル・ロックフォール伯爵は地下にいた。


本来な罪人を捕らえておく地下牢。

その牢内には、二人のヒトが捕らえられていた。


ジャバルはその内、男の方の牢を覗き、なかの男に話し掛けた。


「ヴォルアの財産はどこだ?」


「………知ら、ない、……と、言っ、てる……だろう?」



男は、随分衰弱しているのか、とぎれとぎれで弱々しい声を放っている。

だが、もし健康だったなら、その体は騎士のように鍛えられた肉体であったとわかる体つきをしている。

あまり長くない金の髪は、優美さを持ち、貴族を思わせる。


対するジャバルは、一言でいえば肉塊。

貴族としては、なんら珍しくもないスタイルだが、一般的に言えば不健康なほど太っている。

禿げ上がった頭は脂でテカり、なんの冗談か、口髭はくるくると渦を巻いてある始末。


趣味としては最悪で、好かれる要素は無いに等しい。



そんなジャバルに話し掛けられた――尋問された――男、ソルファ・グレナレイトは、どこか虚ろな目をジャバルに向けた。


「あれ、は……領民のため、の財産だ………。貴様の……ような、小悪党ごと、きに……渡してく、れる金、など……ない!」

「………フン、まぁいい。どのみち探させているところだ、直に見つかるだろう。貴様はそこでくたばっているがいい」


ソルファの宣言を鼻で笑うと、ジャバルは扉の方を向いた。

どたどた、という足音とともに、彼の前に執事が現れた。


「伯爵様にお客様がお見えになっておりますが、如何致しましょう?」


その発言に、ジャバルは少し驚く。

そんな約束はしていなかったし、自分に会いに来る客など片手で足りるような数だ。

まさかこのタイミングで弟が来たわけでもあるまい、などと考え、


「………誰が来たんだ?」


と、彼は少し機嫌が悪いように装って尋ねた。


「そ、それが、魔王様がいらっしゃってまして………」


「………はぁ?」


なので、あまりにも予想外な客人に、ジャバルは咄嗟に対応出来なかった。






γγγγγγ




「………遅ぇ」


応接室に案内されてから随分たつのに、今だにこの領地を占領した当の本人が現れないことに、燎牙は少しいらついていた。


「ま、まぁ、彼にも事情があるのではないでしょうか」


横のクゥがフォローに入るが、そもそも魔王を蔑ろにしなければならない事情とは何なのだろうか。

あれば是非とも知りたいところだった。


「陛下、あれじゃねっスか? 便秘になっちまったとか」


後ろに控えた近衛騎士のうち、やたら不良っぽい男、ロステル・エリツィードが冗談をいう。


「おい、陛下になんて口をきくんだ」


その横の、どうみても子供(男の子)にしか見えない騎士(魔導士だが)、サマルグ・リューロレイが窘めた。


「ああ? んだよチビッ子?」


「僕は17歳だ! 子供じゃない!」


サマルグは、その低い身長がコンプレックスだった。

だから、「チビ」発言にむきになって反論する傾向があった。

要は、高圧的な態度のわりに中身はガキっぽいのだ。


「………その辺にしといてね、二人共」


騎士達の真ん中に立つグレンにニコニコと言われ、二人は顔面蒼白になりながら黙った。



どうやら、グレンの笑みにはかなりの威力があるらしく、事情が知らない人が見れば美少年の笑顔に、思わず見とれてしまうが、知る人が見ると恐ろしいものなのだろう。

燎牙自身は、まあ別に恐くねぇけどなー、などと楽観的だったが。



やがて、先程対応してくれた執事が戻ってきて、その後ろから肉屋がやってきた。

肉屋――ロックフォール伯爵は、やや申し訳なさそうに、


「すいません、最近便秘気味でして………」


などと、吹き出したくなる(この場合、後ろのアホがだが)言い訳をしながら何度もペコペコした。


「別に構わない」


燎牙は笑いそうになるのを堪え、どうにか平静を装い返答する。

事件の核心がつけるのだ。こんなところでミスをして、魔王への一歩を遠ざけるわけにはいかない。燎牙は、伯爵が椅子に腰掛けるのを見ながら、そう思った。





………ええ、バトルまだですよ。

なにしろ文章とペース配分が下手くそなので、全然おもしろくないかもしれません(T_T)


が、次回からはバトルも始まりますし、まだまだ続きますので(始まったばっかりやって!)応援よろしくお願いします!





燎「そんなわけで次回予告だ」


グレン「どーも、グレンです!」


燎「出たよニコニコ紳士系少年騎士!」


グ「それ僕のあだ名ですか陛下ww」


ロステル「グレン隊長、紳士系とか呼ばれてますけど?」


グ「うん? まあいいんじゃない?」


ロ「………まあいいっスけど」


燎「………」


グ「………」


ロ「………」


神「………なんだコレ?」



クゥ「そ、そんなわけで次回は作者の宣言通りバトルが始まります!」


燎「こっちとしてはめんどいし、あまり嬉しくもないんだがな………」


ク「◆008◆をお楽しみに!。」


神「………誰か我輩に反応しろよ」




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