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飛ばされ魔王のデタラメな毎日  作者: 遊希
いいえ、おそらく魔王です
12/15

011◇温泉旅館と黒い影


お久しぶりです皆さん。

自分は今年から受験生です。

亀更新となるのでご了承ください。


最初に言っときます。

この話は第二章のイントロダクション的位置付けです。内容薄いですが悪しからず。





窓際のカーテンが、生温さと涼しさを半々に含んだ風に吹かれて揺れる。そのカーテンが存在する、アークレイド帝国城の一室である魔王の執務室には、広い部屋にたった一人しか居なかった。

中央のソファにぽつんと座り、資料を睨んでいるのは白髪を生やした老人――もといディアブロ・アールバレストだ。質素を好むのか、国務大臣という地位に居ながらも式典や外交時以外の時には、よく南方の国で好まれている着物(どう見ても仁平や作務衣といわれるものだろう)を着用しているのが目立つ。本人は「普段着じゃ普段着、よいじゃろうカッコイイじゃろう」などと吐かしているが、わりと本気なのが不安だ。


そんなディアブロ老人は。


「はぁーあ、なんで儂も連れていってくれないんじゃろうかのう。ナンパしに行くんじゃろうか……」


トホホ、と漫画みたいに真っ直ぐ流れる涙を流しながら資料を整理していた。






一方、執務室の主の九条燎牙はといえば。





「……なぁ、なんか堅苦しくないか?」


「なにがですか?」


帝国の首都ラザス、その繁華街に彼の姿はあった。式典の時に着るような堅苦しい格好ではなく、いわゆる普段着と呼ばれるものだ。


「や、だってほら」


横にいたクゥ・リーベルに疑問形で返されると、燎牙は目線で問題を示した。


「なんか街のみんなが恐縮しちゃっててさぁ」


「それは当然でしょう。国の王が向こうから歩いてきて、気軽に「おっす」と片手を挙げられるヒトが居れば見てみたいですよ」


クゥの言うことはもっともだ。そんなやつは、余程の気違いか勇者だろうと思われる。勇者といっても、それはもちろん無謀という意味での“勇者”の話だが。


「だからお忍びにしたかったのに、なんでわざわざ“視察”だなんて形にしたんだよ」


今の地位はどうであれ、燎牙は元々「超」がつくほどの一般人だ。目立つことはもちろん、貴ばれるなんてことには慣れてはいない。だから、燎牙としては「目立たないように、目立たないように」としたかったのだが、それに反対する者達がいた。


「別によいではないか。リョーガはこの帝国の主なのじゃから、堂々としておけばよいのじゃ」


左隣りの少女が、クゥに同調するかのように発言した。

少女――エリス=ラル=ザイツォーヴァは、見た目は14~18歳くらいの大和撫子といった感じだが、彼女は龍神族という神様の一種であり、その年齢は実に8桁を越え――


「む、何か失礼な気配が……」


……ともあれ、神であるエリスがどうして燎牙とともに居るのかといえば、彼女が燎牙の「嫁候補」だからだろう。

燎牙のいう「嫁候補」が本当の嫁候補なのかは別として、エリスはその候補として燎牙の所へ居座り、また一人の女として燎牙を好いていた。


もちろん、「嫁候補」なのだから、エリス一人ではない。


「そうですわ、リョーガ様。リョーガ様の謙遜なさる所は素敵ですけど、もう少し魔王らしくシャンとしていただかないと困りますわ」


エリスの後ろに居る少女――ミュス・グレナレイトが、呆れたように発言する。彼女は二週間前の「あの事件」の中で、「嫁候補」になった(というか燎牙がそうしたのだが)一人だ。

弱冠16歳でありながら、南方の戦士が好んで使う片刃の剣の扱いでは国内トップレベルという才能をもっていたので、最近の彼女は「嫁候補+護衛」的な役割を担っていたりする。


「……へぇへぇ、わかりましたわかりました。ビシッとしてますよ、魔王だしな」


面倒くさそうに返事をして、燎牙は背筋を伸ばした。その姿に、「それでこそ妾のリョーガじゃ!」と嬉しげなエリスに「あ、あなたのリョーガ様とは決まっておりませんわよ!」と色めくミュス。

唯一まともだと思っていたクゥも、なぜか「さ、最初に出会ったのは私です!」と応戦している。


「まったく、俺の周りのやつはこんなんばっかかよ……」


後ろでわーきゃーと騒ぐ女子にため息をつきながら、燎牙は城下街のメインストリートである、「ランザ通り」を東に下ってゆく。






そもそもの発端は、少し前に完成した温泉旅館「アカツキ」から届いた書状だった。


簡潔に述べれば、「アカツキの開業イベントも一段落したので、招待したい」という内容だろうか。燎牙としても、アカツキの露天風呂を作成しただけだったので、どんなサービスがされるのかは気になっていた。

そこで、前から行う予定だった「城下街ラザス」の視察を兼ねて、一泊二日のプチ旅行を計画したのだ。


もちろんその間の仕事は、ディアブロに丸投げした。「じじぃも連れてってはくれないのか!?」と涙ながらに頼まれたが、丁重にお断りして仕事を任せた。じじぃから何だか恨めしそうな目で見られたが気のせいだろう、多分。


尤も、別に男1対女3のハーレムで旅行するわけにもいかないので、先の事件の時働いてもらった近衛隊は連れてきてある。


「すいません陛下、旅行にまで連れていっていただいて」


「いや、いいんだよ別に。男がいないと俺が困るからなっ」


ニコニコ少年紳士のグレンから謝られたが、こちらにも打算があってのことなので気にされても困る。あと、この少年紳士はやたら顔が広いらしく、下街に入ってからよく呼び止められていた。


「まあ、確かに男一人だと寂しいですよね。お気持ちはわかります」


「だろう? 仕事さえなけりゃじじぃも誘って行ったんだがなー」


「まあアールバレスト様は代えが効きませんしね」


グレンは結構正確な返答をしてくれるので、会話が続きやすくて助かる。

コイツがいるから、変人揃いの近衛隊もまとまるのだろうか。


「さあ、あと少しで到着だぞ、お前ら」


気品のカケラも見られない集団を引き連れ、燎牙は旅館へ向かう。



その集団を物陰から伺う者達がいることを知らず。




旅館へ着くと、なぜか旅館前には絨毯が敷かれていて、従業員総出で迎え入れられた。ここまでやられると、うれしいどころか恥ずかしいばかりだ。やはりそこら辺が庶民的な精神なのだろうか、どうにももどかしい。


「ようこそお越しくださいました陛下。私は女将のニェルツェと申します」


絨毯の先端で美人がしゃべった。ニェルツェとなのった彼女は、まだ使い慣れない「女将」という単語をどうにか発音しながらも挨拶をそつなくこなした。流石に「ようこそお越しやす」とはいかないが、やはりコレを聞かないと旅館に来た気にならない。


「おう、世話になる。よろしく頼む」


「ご案内致します、どうぞこちらへ」


敷かれた高そうな絨毯を、先導しながら歩く女将ニェルツェ。その後ろ姿は、いつか想像していたとおりの若女将であり、おかげで予想以上に繁盛していると、少し前におしゃべりな建設責任者のガテンドラが伝えに来た。

本来なら、奴には会計課の仕事があるのだが、「アカツキ」建設にあたって予算の見通しや会計関係の仕事を与えて、「建設責任者」という肩書を付け加えた。すると、急に気が大きくでもなったのか調子に乗りはじめたので、この前報告に来たときに会計課へ戻しておいた。


通された部屋は、2階にある4~5人用の中部屋だった。確かに男の割合が増えた今、この位の広さがちょうどいいのかもしれない。

窓からは活気の溢れるランザの様子がよく見えた。というかカーテン閉めとかないとまずいなコレ、魔王がここにいることバレるわ普通に。


「いやー、この「タタミ」ってぇ床は初めてだがなかなかいいモンだな!」


「……香りが、よいな」


見た目はドがつくヤンキーのロステル・エリツィードは畳が気に入ったらしく、大の字になって寛いでいた。普段“喋らない笑わない”がデフォルトのアクロノス・ミュステルオンも畳に好評価のようで、わずかにだがうれしそうにしている。


「隊長、普通のお風呂と温泉はどう違うのですか?」


「んー、それは実際に入ってみないと僕にもわからないなぁ」


城のお風呂ではしゃいだらしいサマルグは、温泉に興味津々なのかグレンに質問をしていた。サマルグよ、ワクテカしすぎてるぞお前。しっぽ生えてたら絶対左右に振ってるぞ。

グレンはグレンで「知らんものは知らん」的な反応をしていた。

窓にカーテンをして宿泊部屋の入口に向かいながら、燎牙は彼らに声をかける。


「おぉい、温泉行くぞ温泉」


「よ、待ってました!」


跳び起きたロステルが囃す。そういえば、確かにこの面子だとコイツが一番ノリがよさそうだ。


「はしゃぎすぎて風呂場でこけたりすんなよお前ら」


「はーい」


城の風呂で騒いだその後、見事なたんこぶを作ったらしいサマルグが返事をした。


廊下をぞろぞろ歩きながら、一階中央の男湯を目指す。

そういえば、女子連中はどうしてるのだろうか。


「案外すぐに入浴してたりするんじゃないですかね」


「まぁ、そうかもな」

グレンの予想に、それも有り得るかもしれないと燎牙は頷いた。





その頃、女子はといえば。


「……温泉というのはいいものですねぇ」


グレンの予想通り、先に入浴していた。

女湯の「ナデシコ」は、男湯の「マスラヲ」よりも曲線美にこだわり、全体的に橙色のイメージになるよう配色してある。露天風呂からは男湯と同じ景色が見られるが、男湯とは高さのある壁で仕切られている。


「……確かにラザス城のお風呂とはまた違う良さがありますね」


素が出たのか、普段「謝り役」の二つ名がつくほどペコペコしてるキュロット・セイルラーズも、落ち着いてまじめなコメントをしていた。

その隣で、ミュスは「体がお湯に溶けていきますわー……」と有り得ないくらい定番の一言をつぶやきながら岩にもたれている。


本来ならば、コレが温泉でのあるべき姿だろう。


だが、


「温泉とはこんなに素晴らしいものなのか! 泳げるぞ泳げるぞー!」


と、エリスが露天風呂に駆けていき、


「あ、エリス様待ってくださいよー!」


と、近衛隊の元気印ことリヴァエル・ミュステルオンが追う。見事な子供精神というのか、頭の中が幸せなのか。今日は「アカツキ」を貸し切っているからよかったものの、すでに泳いでいる二人は恥ずかしいことこの上ない。

だが、それが許されるところに、落ち着き組三人の心の広さが伺える。実際は恥ずかしいとか特に思っていないだけかもしれないが。


しばらくのんびりとしていると、男子連中が入ってきたのか急に隣が騒がしくなってた。何を言っているのかはわからないが、はしゃいでいるのが女湯まで伝わってきている。


「リョーガ様達はどうなってるんでしょうかねー」


欠伸をつきながら、そんな風にクゥは呟いた。





「いいかお前ら! 温泉は泳ぐ場所じゃないんだからな! 静かに入れ!」


「「はーい……」」


一方燎牙は、風呂場に入るなり駆け出した(精神的な)ガキ二人にげんこつをお見舞いし、床に星座させて説教をしていた。


「サマルグはともかくとして、ロステルが騒いでどうすんだよ。お前は大人だろうが」


近衛騎士として働いてはいるものの、実際のところまだ少年であるサマルグは百歩譲って仕方がないとして。見た目がまるで荒くれ者のようなロステルが、風呂場に入るなり「ヒャッホウ!」と、どこぞの配管工よろしく跳んで騒いでいるのは非常に見苦しい。というか呆れる。


「まぁまぁ陛下、せっかく温泉に入るのですから、二人を許してはもらえないでしょうか?」


流石に自分の部下なので、グレンが二人へ助け舟を出した。まぁ確かに一理はある。燎牙としてもムカムカしながらお湯に浸かりたい訳ではなかった。


「……まぁ、お湯の中で泳いだりすんなよ? また叱るのは面倒臭いからな」


見れば、アクロノスは既に入浴準備万端といった様子でわくわくしており、燎牙は思わず吹き出した。





あれだけ跳ぶな騒ぐな泳ぐなと注意はしておいたものの、いざお湯に浸かると不思議と皆が水を打ったように静かになり、辺りをお湯が流れる音が支配する。

自分で創っておいては何だが、


「この露天風呂、いいなぁ」


としか言いようがない。

しばらく温泉に浸かってなかったこともあるが、それ以上に景色が絶妙過ぎた。森をイメージして植えた木からは何か体に良さそうなイオンが出ていそうだし、山の険しい激流をイメージした川はもはや自然そのものだ。そこへ無骨ながらも趣深く、まるで山の岩肌にあるかのように岩石で創られた露天風呂。

燎牙達は、ただひたすらに自然との一体感でも感じられそうな風呂に浸かった。



もちろん、彼らがのぼせたのは言うまでもない。




その夜。


温泉旅館アカツキの対面の家屋の、その屋上に人影があった。

影は全部で8つ。全員が黒ずくめで、注意深く旅館の方を窺っていた。


「おい《01》、本当にあの旅館なのか?」


「確かだ、《07》。だいたいお前だって《04》と耳にタコが出来るくらい聞き込みしてたではないか」


先頭にいた黒ずくめが、右にいた奴に声をかけた。どうやら、彼らはコードネームで呼び合っているらしく、いくらか統率された動きからある程度鍛えられた組織であることがわかる。

聞かれた《01》という男は、煩わしそうに答える。どうやら彼が指揮をとっているようで、よくみれば彼らは《01》を中心にして立っていた。


「……そうはいうが《01》、ここからどうするのだ?」


「んん? 寝静まってから急襲するしかあるまい。相手には近衛騎士とかいうやつらが護衛についているらしいが、まぁそんなのは目じゃないだろう」


問題は対象の方だ、と彼はため息混じりに言う。


「なんだあの調査結果は。“個人で黒龍級撃破”だと? そんな超人は大陸にも片手で数えるくらいしかおらんだろうが」


「ああ、あれは俺も驚いた。なんでも、ドラグリア石で龍化した奴を一撃で倒したらしい」


「《06》ホントかそれは!?」


《06》が語った、たまたま耳にした話は皆に緊張を走らせる。実際、オズライア大陸では、龍とは「絶対に勝てない存在」とイコールであり、もちろんそんな存在に勝てる輩など滅多にいない。


「おい《06》、作戦に支障をきたすような与太話をするな。そういうのは、帰ってから――」


《01》が《06》を窘めようと口を開きかけたところで。



ゾワリ、と彼らに悪寒が走る。



反射的に皆が背後を振り返ると、一人の少年が立っていた。目立たない、くすんだ金髪をした美少年だ。


「ええ、本当ですよ皆さん。ウチの王はたった一人で龍を殺しましたよ?」


「……何者だ」


《01》が落ち着きながら答えると、金髪美少年は口を開いた。笑顔で。


「僕ですか? 僕は、アークレイド帝国近衛騎士隊隊長のグレン・ハイランデルといいます。よろしく」


尤も、と言ったところでグレンはことばを止める。そのまま背中に手を伸ばすと、一本の短い棒を取り出した。


「皆さんを帰すつもりは毛頭ありませんが、ねッ!」


グレンが魔力を込めると、棒はたちまち彼の愛槍ライデンに変わる。


そのまま体の回りで振り回した後構えて、黒ずくめ達へと肉薄した。





その頃。


「おいアクロノス。グレンどこいったんだ?」


「……トイレと聞き及びましたが」


トイレにいつまでも行ったきり、なかなか帰ってこないグレン。燎牙は、「あいついねぇとガキ共がまとまらんなぁ」と思いながら、広間でドンチャンしてる連れを眺めていた。



アカツキでの夜は、更けていく……。








まぁ、今回からは第二章ということでちょいと豪華(?)な顔触れですね。



∀∀∀∀


04「おいお前ら、なんか俺達扱いひどくねぇか?」


06「確かに枠がちっちぇえよなー。いくら悪役とはいえ、もうちょっと話は無いのかよなー」


01「おい、静かにしろ!」


04「なんだよ01。やけにピリピリしてんなぁ」


07「何してんだ01? さっきからカチャカチャと――」


01「さっきから煩いなおまえら! 俺は「暗黒魔法少女バスタード☆ナナ スペシャルバージョン」の腕を修繕してんだよ! 邪魔すんなよ!」


他「ええー……」



ダルコ「さて、最近出番が無い我輩が時間予告してやるぞ! 迫り来る刺客の危機に、敢然と立ち向かうグレン。彼は燎牙に感づかれる前にすべてを終わらせられるのか? 時間、012話もお楽しみにな!」


01「ああーッ! なおんねーよナナちゃあああああんッ!」


他「ええー……」




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