E X◇風呂に入れない件について。
大変遅くなり申し訳ありませんでした。
それは、地球から飛ばされてからずっと疑問に思っていたが、やれ魔王就任だとか、やれグレナレイト領が大変だとか、とにかく忙しくてキチンと考えていなかったこと。
健康な日本男子としては、なくてはならない存在だし、多分女子ならば尚更、だ。特に夏など汗をかく季節は、これがあるとないとでは、大分違ってくる。
つまり、何がいいたいのかと言うと――
「風呂、入りたいな……」
「はい?」
「ん? いや、なんでもない……」
γγγγγγ
日本で言えば、ちょうど五月の終わりごろのような、少しじめっとしているがまだ風から爽やかさを感じられるくらいの――要は少し暑い季節が、アークレイド帝国に到来していた。
三日前にグレナレイト領で一悶着を解決してから、ずっと続く強い陽射しは、帝都ラザスにあるラザス城の主、九条燎牙に新陳代謝を要求している。
しかもなぜかそれに応えてしまう燎牙の体からは、少しずつ汗が出ていく。
まぁ、なんというか。
(……不快感マーックス。あー風呂入りたい)
燎牙としてはそんな感想を抱くばかりであった。
そもそもこちらの世界には、どうやら風呂の概念がないらしく、みんな暑くても寒くても、体を清めるのにと水浴びをするそうな。それを聞いたときは、寒いときのそれを想像して思わずブルブルと体が震えたものだ。
今までは、何かにつけて忙しかったので出来なかったが、今日辺りなら大丈夫だろう。
「よし、風呂を創ろうかな!」
「……フロ、ですか? なんですかそれ?」
「まあ、見たらわかるさっ」
「……そうですか。それで、何か準備が要りますか?」
事情というか風呂自体を知らないクゥは、頭の上にいくつも疑問符を浮かべている。まあむりもないだろう。
「いや、俺の沐浴場を改造するだけだから大丈夫だよ」
「はぁ……。それで、本当に何をなさるおつもりなんですか?」
「や、だから、創り終わればわかるからさ」
「……で、何をなさるんですか?」
一度こうなったクゥは、自分の聞きたい解答が聞けるまでしつこく尋ねてくる。昨日なんか、こっそり城下街に行こうとして捕まり、目的をはぐらかす俺に対して一時間も同じ質問をし続けたのだ。
結局こっちが折れて理由を話さなくてはいけなくなるのだが、それにしたって、いったいコイツをここまで突き動かす理由はなんなのだろうか。
「……創りながら説明するから勘弁して。説明しづらいからさ」
「はぁ、わかりました。では行きましょうか」
どうやら、今回は逃げられたようだ。全く、「気になる」ってのも難儀なものだな、聞かれる側にとっては。
などと心中で呟きながら、先に執務室のドアのノブに手をかけているクゥに続くべく歩きだした。
沐浴場は、燎牙の寝室の横の部屋だ。もちろん燎牙専用の部屋なのだが、屋内に作ったからか水を流す仕組みがない。
つまり、水は汲んで来なければいけないわ、終わったら水はどうにかして全部汲んで捨てなければいけないわで相当不便なのだ。
それに、ただの水浴びなので、いくら汗ばむとはいえ寒くなる。
改良する理由なら、いくらでも見つかるのだ。
そんな十二畳くらいの部屋、沐浴場を見ながら、どうやって改良するかを考え始める。クゥは、やることがないとばかりにぶらぶらしたり、城下街が展望できる沐浴場のでかい窓から景色をながめたりしている。
(まず、風呂場なんだから洗い場と浴槽がいるよな。給水設備と排水設備も必要か)
一般の風呂を思い浮かべ、必要な設備をリスト化していく。給水と排水については、魔法でどうにかするつもりだし、水はタンクでも創ってそこから流せばいいだろう。
(なら、水は循環させる構造が楽かな。そしたら浄化機関と煮沸機関が必要だな)
水を循環させれば、わざわざ水を足すような必要性もなくなる。浄化機関は、洗剤や老廃物、髪の毛なんかを消滅させて水を綺麗にして再利用できるように、煮沸機関はぬるくなったり冷たくなった水を再び温める為にそれぞれ利用する。
この二つは、魔法陣でなんとかすればいいだろう。
(シャワーや蛇口は、まぁ魔法陣で試行錯誤していくしかないだろうな……)
地球の、特に日本のような風呂には程遠いだろうが、これで風呂は創れるだろう。
「……よし、やるか!」
まず、部屋全体の改修から始めることにする。温度を逃がしやすい部屋では風呂とは呼べないし、冷たい壁なんて嫌だ。材質は木材でいいだろう、できれば檜のようなものがいい。
防水措置もかかせない。床や壁が腐食してしまった、なんてことは避けたい。
それから、明るさ。明る過ぎず暗過ぎず、夜の露天風呂のような風情溢れるぼんやりとした明るさが欲しい。
そんな感じで頭の中に必要な事項をまとめていく。これらの条件を元にして、燎牙オリジナルの魔法を創造してゆく。
その様子を横から見ていたクゥは、それに気づいた。
(リョーガ様、なんか今までで一番生き生きしてるなぁ)
表情こそ真剣そのものだが、だからこそ熱意が伝わって来る。
そんな燎牙の指示にあれこれ従いながら、クゥはなんとなくこの時間を楽しんでいた。
そして、
「で、出来た……!」
風呂は完成した。
沐浴場は、見事な純日本式温泉へと変貌した。
木目が美しい木の壁。
魔法にしたことで、明るさを調整できるようにした照明。
洗い場は、鏡はもちろんのことシャワーや蛇口も設置。スイッチを魔法にすることで、いちいちレバーを捻る必要がなくなった。シャワーノズルなどは「創造」の魔法により、壁と同じ木材から作成。桶や椅子などもわすれない。
複数で入ることを想定して(べつに嫌らしい意味ではない)、洗い場は三つ設置した。
給水と排水は、水の循環システムを創造した。排水溝から流れた水は、木のパイプを流れながら、途中の「浄化門」の魔法陣を通過しながら洗浄・ろ過をし、一旦貯水タンクに集められる。
給水時にタンクから出ていく水は、パイプの途中にある「煮沸門」の魔法陣を通過、温められて浴槽やシャワーや蛇口に届く。
この世界初の「水道」である。
そして、浴槽。
広めに作ったので、数人が楽に入ることができる。
水温は47度で、ちょうどいいくらいの熱さ。
だが、それらよりなにより――
「うはは、やっぱ景色がいいなぁー、この風呂!」
巨大なガラス窓で作られた絵画、とでも言えようか。ここからなら、アークレイドの地が一望出来る。やはり温泉はいい景色があると断然違う。間違いない。
そんな感じで、燎牙の憩いの場である風呂は完成した。
もちろん脱衣所も完璧だ、ぬかりない。
石鹸やシャンプーなどの類も「創造」で創った。柑橘系のような、爽やかな香りのするシャンプーは、自分でも自信作だと思う。
とにかく、一刻も早く風呂に入りたい。
「これはどう利用する施設なのですか、リョーガ様」
入浴欲求をくねくね踊りながら我慢していると、横から質問が来た。
「あっちで体を洗って、こっちのお湯に浸かる」
「……お湯に浸かる意味ってなにかあるのですか」
「……ああ、うん。いっぺん風呂入れ。そしたらわかるわい」
そう燎牙はいいながら、失敗したと思った。風呂の入り方知らない奴に「いっぺん入れ」はまずかった。というか墓穴掘った気がしてならない。
「なら、一緒に入って、風呂の入り方を教えて下さい」
……ほらな。
自爆したじゃねぇか。
後悔先に立たず、とは恐らくこういうことを指すのではないだろうか。もうため息しかでないな、こりゃ。
結論からいえば今回の混浴は、理性が働いてくれてどうにかなった。
クゥにはタオルを巻かせてみたり、なるべく見ないようにしたりととにかく自分の鼻からジェット噴射が出ないようにも頑張った。
本来はタオルは使わないことを教えてやると、彼女はひどく赤面していた。そりゃ恥ずかしいだろうな。
普通は同性同士で入るもんだ、とも教えたら治ったが。むしろ風呂が大好きになっていたが。
風呂から上がり執務室まで戻ってくると、火照った体に窓から吹く風が気持ちいい。暑いのとは、また別の意味でも赤くなっていた顔も冷めてきている。
風呂作成はなんだかんだありながら、成功した。次は、温泉旅館でも建ててやろうかな。温泉旅館なら、やっぱり若女将がいるかな。ムチムチの若女将がいたら、少なくとも男連中は客になりそうだな。
などとやや邪まな妄想を繰り広げながら、ふと窓の方から入口の方へ振り返ると、ちょうど部屋へ入ってきたクゥと目が合う。
「「…………」」
お互い、なんだか気まずい。いくら部下だからとはいえ、女の子と一緒に風呂に入ることはなかなか無い。燎牙としては、せっかく冷めてきた顔の熱が再び篭りそうなので、クゥの顔をあまり見たくはなかった。ただ、別に嫌いなじゃないと心の中で言い訳することだけは忘れない。
「リョーガ様」
「な、なんだっ?」
だが、いくら心で言い訳していても現実は甘くない。たかだかクゥに声をかけられただけで、思わず声が上擦った。
「……その、少し申し上げにくいのですが、ええと――」
「あー、うん。なんだ、言ってみろよ」
しかし、一瞬見たクゥの顔は至極真面目な、というか少し困ったような顔をしていたので、燎牙は気まずい気持ちを押しのけて聞く態勢をとった。
「……その、お風呂の件なのですが」
「……あ、ああ」
「他の女の子達がみんな興味津々なんです」
「………は?」
結論から言えば、クゥの発言内容は「他の女の子も風呂に入れてあげたい」というものだった。そりゃあ確かに一人だけいい香りがしてたら、女子は気になるのだろう。
だが、俺の部屋の風呂は狭いし、そもそも他の人を入れる気もない。
だったら、作るしかないのだろう。
(別に俺が作らなくても、ノウハウだけを教えれば作れそうだしな)
燎牙は、その風呂のノウハウを作成する作業の大変さを想像して、ため息をついた。
そのため息をどう受け取ったのか、目の前のクゥが若干焦ったのが見て取れた。確かに、このタイミングのため息は、「呆れた」という意味にもなりえる。実際は、単にめんどくさがりながらの「はあ、まぁやりますかー」的なため息だったのだが。
「クゥ」
「は、はいっ!?」
「……ちょっとビビりすぎだろ」
まさしく飛び上がる勢いで、更に声が裏返りながらクゥは返事をした。ここまでくると、もう滑稽としか言えない。
「風呂作りを事業にしよう。帝国中に風呂の習慣をつけさせる、それでいいな?」
「……えっと、つまり?」
「風呂のノウハウをまとめる。職人に仕事をさせる。その一環で、城にも男女別の浴場を作る、ということだ」
「はい、大丈夫です! ありがとうございます!」
燎牙の言葉を聞いたクゥは、ホッと安心したのか笑顔で頷いた。
二日後。
昼下がり、喧騒が絶えない城下街の大通りを燎牙は歩いていた。
一応お忍びということで、一般人然とした格好をしていたが、いつばれるか不安で仕方がない。しかも、城下街でも「下街」と呼ばれる、いわゆる一般民や旅人の街である。
城下街には二つのブロックがあり、貴族や大商人などが住むのが「上街」、一般民などは「下街」と分かれている。「上街」はわりと閑静で上品、綺麗さが漂っているが、「下街」は喧騒と活気と人情が街を支配している。
要は、そこに住む人の違いが街自体の違いに繋がっているのだろう。
そもそも、どうして「下街」まで下りてきたのかといえば、単なる観光というわけではなく、重要な仕事があったからである。
二日前に決心してから、まず燎牙は風呂についてのノウハウをまとめ、それを「国家事業」とした。
体を清めることはいいことだ、という概念はもともとあるのだから、それと娯楽を結び付けて商業が行える。それが発展していけば、国力増強にも繋がるだろう。
というわけで、城内に早速男女別の大浴場をつくらせ、それを城勤めしている大臣たちやメイドたち、兵士たち向けに開放した。はじめは大臣たちが「兵士と一緒に体を清めるだと?」などと文句を垂れてきたが、「入りたくないなら結構」と切り返すとあっさり了承した。
女子連中はメイドや料理人がほとんどなので、文句らしい文句はなかった。
というか、
「あんないいモノがあるとは知らなかった」「肩の痛みに効きますなぁ」「もう肌がツヤッツヤですよ! お風呂っていいですね!」「冷えた体には最高だ、ずっと浸かっていたくなるな」「あの、しゃんぷーっていう液体はいい香りがしますねっ!」等々……。
好評しかなかった。
正直、びっくりである。
温水に浸かる習慣は、彼らにとって異文化なのだから、批評はあるだろうと思っていたのだが見事にひっくり返されてしまった。いい意味で。
何はともあれ、風呂の文化を広めるべく、一般民の層に巨大な温泉旅館か銭湯でもつくろうかということになった。銭湯の方は、城内につくったときと同じでよかったので職人達に任せたが、温泉――特に露天風呂なんかは少し構造が異なるので、燎牙自ら創ることになった。
「リョーガ! 妾も風呂とやらに入ってみたのじゃ!」
「ああ、クゥと入ったらしいな。どうだった?」
「ダルコから聞いてはおったが、アレはいいものじゃな!」
「そうか、そりゃ何よりだ」
道中、同じく地味な格好に紛したエリスと会話したりしながら下街を進む。
やがて着いたのは、どこか和風な趣を持つ旅館「アカツキ」だ。もちろん名前は燎牙が決めた。クゥに名前の由来を聞かれ、「夜明けという意味。風呂文化発祥の旅館になるだろうから、文化の夜明けみたいな感じ」と答えたが、正しかっただろうか。なんか約一名首を縦に振りまくって、「さっすがリョーガじゃっ!」とか言っていたやつがいたが、気のせいだろうか。
まだ幾つか建材が運びこまれ、内装などがイメージ通りに進んでいる。要はまだまだ未完成なのだが、それでもその異彩放つ見た目に惹かれて多くの見物人が外に集まっていた。燎牙達は彼らの間を通ってきたが、正体がばれなかったのが不思議なくらいである。
燎牙達が到着したと聞いて、旅館建設の責任者がすっ飛んできた。いや、実際に翼で飛んできたのだが。
「おはようございます陛下! 私はアカツキ建設事業の責任者のガテンドラといいます! 本日はよろしくお願いします!」
「ああ、よろしくよろしく」
ガーゴイル(と聞いただけで、翼が生えた人間にしか見えないが)のガテンドラは、地球の商社マンもかくやという勢いでヘコヘコしだした。そんなに畏まらくてもいいのになぁ。
ふかふかとした廊下を歩きながら、露天風呂を設置する予定の場所へと向かう。廊下のランプや、窓にも一工夫凝らしてあり、なかなか風情あるつくりになっていた。和紙はさすがに燎牙が再現したものを職人たちが真似して作ったが、それ以外は大方ガテンドラ達に任せてある。それでこの出来だ、きっと彼らは腕がいいのだろう。
一階の中央、ちょうど凸のような形になっている旅館の出っ張った部分に露天風呂を設置する予定らしい。露天風呂といえば景色が大事なのだが、事前に岩を置いたり植林したり風呂と同じ原理で川をつくったりしてある。あとは露天風呂だけ。
広い脱衣所を抜け、何もない空間へ出る。ここからは一人作業だ。
燎牙は深呼吸をすると、露天風呂の創造に取り掛かった。
「おおっ、これが露天風呂ですか! 素晴らしいものですなぁ!」
などとガテンドラが騒いでいるが、お前は風呂にすら浸かったことないだろう。
完成した露天風呂は、我ながらなかなかの出来だと自負できる。本当は紅葉なんかがあるとより一層美しいのだろうが、これで露天風呂としては十分なくらいだろう。
洗い場やシャワー機構などは自室のものと同じにしてあるが、シャンプーや石鹸はガテンドラが旅館オリジナルのものを開発させているようだ。
そして、
「んー、やっぱり露天風呂はいいなぁ」
最後は実際に入浴してみて、どんな感じか確かめる。というかもう完成なので、大してかいてもいない汗を流すことが目的だったが。
水温はやや熱いくらいにしてあり、じんわりじんわりと温かくなってくる。一番の特徴は、温泉らしく各種効能をつけてみたところだろうか。肩凝りや傷にいい成分を、人体に無害なようにして配合してみたのである。
さらに、多くの人が入浴すると徐々に温水が減っていくと考え、タンク部分に「精製」の魔法陣を追加しておいた。ようは、温水の自動補填だ。
男女別の露天風呂なので、間に高い間仕切りを用意した。当然だが、頑張ればエロガキが覗けるレベルの高さにしてある。
温水といえば覗き、というガキのためにも一応用意してみた。
こうして燎牙の仕事は終わり、入浴タイムに突入したのである。
『我輩も入りたいなぁ』
「お前は駄目だ、神だし」
ちょうど伸びをした瞬間に頭に響いた声に、焦ることもなく釘を刺す。
右手中指に嵌まっている指輪の中でダルコがシュンとしているのを感じながら目を閉じる。
その時だった。
「待ってくださいお頭ッ!」
「どこへ行くんですか!?」
などという声につられて川の方を見ると、植林した木々の間からまるで忍者のようなやつがこちらに向かって全力疾走してきていた。その後ろには、先程の声の主たる忍者のようなやつらが、やはり全力疾走してきていた。
……なんだろう、この面倒ごとが起きそうな予感は。
呆気にとられていると、先頭の忍者の顔が見えた。
短髪で色黒だが、女だ。
目は何故か爛々と輝いているが、その輝きは濁りを含んでいる。口からはよだれが垂れていて、なんか危ない香りがする。
というか、もうアレだった。
「ち、痴女か!? まずいやばい貞操が!?」
燎牙は遠くからでもわかるその雰囲気から、とてつもなくやばいモノを感じた。今すぐ逃げなければ。
しかし、それを許してはくれないらしい。痴女は露天風呂と木々の間にあった川を、全力で跳び越しながら叫んだ。
「強い漢の香りがするで御座るゥゥゥゥゥッ!!」
目が完全に据わっている、こちらに向けて。ロックオンというやつか。
「あ、アカン。逃げられない!」
彼我の距離およそ20メートル、相手が忍者だと一瞬で詰められてしまうだろう。
こうなったら仕方がない。
燎牙は、立ち上がりながら魔法陣を頭の中に構築すると、全裸なのも気にせずに言い放つ。
「捕縛!」
その瞬間、忍者(女だからくのいちだが)の眼前に光の網が出現し、搦め捕る。何故か器用にぐるぐる巻きになり、そのままの勢いで洗い場まで飛んで行き、激突した。
「えーと、つまりお前は単に変態なんだな?」
「ち、違うで御座るよ陛下! 拙者は単に強い漢に惹かれやすいので御座る!」
くのいちを捕まえた後、ぞろぞろ追ってきた忍者から事情を聞き、旅館の一室で形だけでも尋問をすることになった。
「まさか陛下がこんなところにいるとは知らなかったで御座るからして、悪気があったわけではないで御座る」
「でもお前が俺を見る目は、間違いなく変態の目だったぞ」
「すいません陛下、お頭は猛者フェチなんです。強い男を見ると鼻息荒くしてすっ飛んでいく困った人なんです。どうかお許しいただけないでしょうか?」
くのいちの部下なのか、銀髪の男が彼女のフォローをした。全くフォローになってなかったが。
別に怒ってるわけではないのだが、彼の態度に免じて許すことにしよう。
「まぁいいや、今回は見逃してやる」
「ありがとうございます、陛下」
しかし、忍者か。忍者、忍者ねぇ……。
「そういや、お前ら何でこんな街中に?」
「あ! そうで御座った!」
巻き巻きされているくの一が、突然ハッと何かを思い出したようだ。
こちらを向くと、
「陛下、お願いがあるで御座る」
「なんだ?」
「拙者達を、雇ってはいただけないで御座るか?」
どうやらゴザル娘達は、新魔王の噂を聞き付け、彼こそが我々の主! とばかりに彼らの里から出てきたらしい。となると、今回の騒動の引き金は燎牙自身にあるということになる。
なんかいろいろ複雑である。
とはいえ、前々から諜報部が人材不足と聞いていたので、思い切ってそこに配属することにした。
「ありがとうで御座る、陛下!」とかいってよだれ垂らしながら抱き着こうとしてくるのをなんとか押し退けていると、今度は後ろから「……妾のリョーガじゃーっ!」などと殺気を感じたりして色々と大変だが、まあなんとかなりそうな気もするし、頑張るしかないのだろう。
「……そういや、お前名前は?」
「拙者か? 拙者はミラデール・ウェーバーと申す。以後宜しくで御座る!」
こうして、変態くのいちミラデールをはじめとした忍者集30人を仲間にして、燎牙の仕事は幕を閉じた。
「……城に帰って風呂に入るかな」
E Xシリーズは基本的に本編とはあまり関連がない話になります。
さて、次回からは第二章になります。
燎「あー疲れた。風呂つくるだけで疲れるわ、変態がくるわ大変だったぞ今回は」
ク「お疲れ様でしたリョーガ様。というか全裸は気にしてくださいよ////」
エ「妾も男湯に入ればよかった! リョーガの全裸を見たかったのじゃー」
燎「やめてくれ、それだと18禁になっちまうよ」
ミラデール「拙者見たで御座るよ、陛下の裸!」
ク「え?」
エ「は?」
ミ「それはもう立派な筋肉で――」
燎「さ、さて次回予告だ! 次回からは第二章だぞ! 新たな敵の予感、嫁候補が増えた燎牙はどうするのか! 011◇もお楽しみに!」
ク「そ、それなら私も一緒にお風呂に入りましたよっ!」
エ「なんで妾だけなにもないんじゃあああああああッ!」