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第53話「黑谷ちゃんちのわんこ」

「犬を飼いました」


「唐突」



 いつもの通学路、事後報告でそんなことを言い出した黑谷ちゃん。


 いやまあ、わたしに報告する義理とか義務とかそういうのはないんだけど、それにしたって「飼いたい」とか「飼うかも」って過程をすっ飛ばして結果なあたりかなり黑谷ちゃん。



「ちなみにどういう経緯?」


「ママの同級生がペットショップやっててさ、遊びに行ったママが一目惚れしてお迎えしちゃった」


「なる。どんな子?」


「牝馬三冠、ジャパンカップ連覇」


「それドンナ娘」


「ダックスとプードルのミックス。今3.5ヶ月って言ってたかな。超可愛い女の子だよ。マジ超可愛い。白山くんの次くらいに可愛い」


「それめちゃくちゃ可愛いじゃん」


「いやホントにそう。……そうだ。今日辺りから外出してあげてって言われてるし、白山くんも散歩、一緒に行く?」


「え、いいの? わたし犬好きなんだ〜! 前に父さんとも「なんか飼いたいね」って話してたけど、ここペット禁止だったから仕方なく……」



 ……?


 あれ、おかしくない?


 わたしと黑谷ちゃんは同じマンションに住んでて。


 黑谷ちゃんが犬を飼ってて。


 わたしはペット禁止で。



「……やった?」


「やった」


「ここまで来るといっそ清々しいね、黑谷ちゃん」



◇◇◇



 というわけで放課後。



「ごめんね〜、セイちゃん。色んな意味でうちの子のお世話に付き合ってもらっちゃって」


「ママ」


「いえいえ〜! わたしの方こそ黑谷ちゃんに毎日楽しませてもらってますし〜!」


「ほんっといい子なんだから〜。セイちゃんさえよかったらうちに嫁入りしない? ここだけの話、遺産はがっぽり入ってくるわよ」


「おや。感心しない話ですね」


「あっパパ」


「あまり人に聞こえるとこで金の話なんてするものじゃありませんよ。申し訳ない、白山さん。冗談だからあまり真に受けないでやってください」


「え〜、どうしましょうか〜」


「ほら、行くよ白山くん」



 少し恥ずかしそうな黑谷ちゃんは片手にわたし、片手でペットカートを転がし、少し早歩きで家を出る。


 エレベーターに乗ったあたりで、金色のダップーちゃんはペットカートのサンシェードの隙間からひょこっと顔を出した。



「……わん?」


「……マジで可愛いね、この子。ほんとに。ほんと可愛い」


「でしょ。手のひらサイズだよ。ね、なーちゃん」


「ぁんっ」


「鳴くのまだ上手くないんだ〜」



 黑谷ちゃんが指を差し出すと、なーちゃんと呼ばれたこの子はまるでキャンディのようにちっちゃい舌でペロペロと舐める。


 離さないようにちっちゃい前脚で挟んでいるのがこれまたなんとも可愛らしい。



「でも意外だね。黑谷ちゃん、あんまペットとか興味ないタイプかと思ってた」


「ま、基本はそうだね。でもいざ飼うとなればそりゃめちゃくちゃ可愛がりたいじゃん。まだ数日なのにもう分かるもん、ペットは家族だ子供だ兄妹だって言ってる人達のこと」


「そんなに?」


「そんなに。もう妹見てる感じだよ。人間の。私のことお姉ちゃんって呼んでくれたらもう最高だね」


「……あ」


「……? どうかした?」


「いや、黑谷ちゃんがそういうの言ったら──」



 次の瞬間、ペットカートには黑谷ちゃんの指をちゅぱちゅぱと舐める、それはもうめちゃくちゃ可愛い3歳くらいの女の子が乗っていた。



「あっやば」


「戻った」

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