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第6話「死なば諸共の死抜きを1つ」

「黑谷ちゃん、おは~!」


「おはよ、白山くん。テンション高くない?なんか珍しいね」


「そりゃそう。今日は待ちに待った体育祭だよ?テンション上げなきゃしゃ〜ないっての!」


「意外。白山くん、学校行事でアガるタイプだったんだ。ふふっ、お揃いだね」 


「ま、誰でもアガるに決まってるでしょ。この非日常感、マジで堪んない♡」


「へえ、私は授業ないからだけど」


「思ったより不真面目だよね、黑谷ちゃん」



 現在朝の7時過ぎ。


 学校行事のお決まりに盛れず、うちの体育祭の集合時間も普段より1時間以上早い7時半。


 実行委員に至っては5時台から集まってるやつもいるらしい。


 黑谷ちゃんは「なんかボケ老人みたいだね」とギリ殴られそうな冷笑をかましていた。



「というか、私達って何やるんだっけ。プログラムまだ読んでないんだよね、私」


「やる気がなさすぎる……」


「体育祭なんて白山くんに比べたらどうでもいいし」


「……そう言われると、悪い気はしないけど……」


「……悪い人とかについてっちゃダメだよ、白山くん」


「待って、それ俺がチョロいって言ってる?」


「内緒。それで、競技ってどんなのだっけ」



 そんなことを呟きながらパチンと指を鳴らす黑谷ちゃん。


 何の魔法かと見ていると、突然俺のカバンの中からプログラムが飛び出し、彼女の前で広げられた。



「へえ、こんな感じなんだ。男子は騎馬戦で、女子は借り物競争?あれ、実在するんだ」


「黑谷ちゃん、なんで俺の見てんの?」


「思い出したんだよね。昨日古紙捨てたの」


「捨てるのが早す……いや昨日って燃えないゴミじゃない?」


「魔法って万能なんだよ、白山くん」



 そんなことを言いながら、黑谷ちゃんは読み終わったらしいプログラムを四つ折りにしていく。


 そして最後、綺麗に折りたたまれたそれは、まるで役目を終えたかのように、彼女の細い指に挟まれたままボッと音を立てて燃え尽きた。



「黒谷ちゃん、それ俺の」


「……あ」



◇◇◇



「あれ、戻せるんだ……」


「私の辞書に「不可逆」なんて文字はないんだよ」


「あ、セイちゃんにアメちゃん来た!」


「おはよー白山さん!」


「あ、みんなおはよ〜!」



 教室に入ると、既にクラスの半分くらいが準備万端といった感じで待機している。


 着替えてクラスに7時半集合で、現在時刻は7時10分。


 俺達はロッカーに荷物だけ入れて更衣室まで直行した。



「おっ、噂をすればモノクロじゃん!おはー!」


「あ、アヤメちゃん。おはよ〜」



 更衣室に入ると、早くもクラスのカーストトップに君臨する生粋の陽キャ女子、七夕(たなばた)アヤメが声を掛けてくる。


 どうやらモノクロというのは「白山」と「黑谷」だから、俺達は合わせてそう呼ばれてるらしい。


 頬には星型のフェイスペイントシールが貼られ、へそ出しミニスカスパッツの一般的チアガール姿の彼女。


 応援合戦でクラスの一軍女子勢でチアリーディングをやるとのことで、その衣装とのようだった。



「てかさー、マージで勿体ないわ。顔面最強のモノクロがチア見送りとかスマブラだったら大炎上してるよこれー!」


「しょ〜がないじゃん。わたしも黑谷ちゃんも運動からっきしなんだからさぁ」


「じゃあさじゃあさ、これだけ持ってってくんない?そんくらいはバチ当たんないからさ!」



 そう言って金テープで作られたポンポンを2セット、4つ渡してくるアヤメちゃん。


 観戦席で使ってほしいとのことで、まあそれくらいならと俺達は快諾した。



「というか、観戦席で大丈夫ならチア着るけど。私達」


「えマジで言ってるアメちゃん!?丁度2つあるよ、衣装!……あ、セイちゃんのご立派な物に合うかは分かんないけどさ!」



 「んじゃよろしくぅ!」と手を振って一足先に更衣室を出ていくアヤメちゃん。


 何とも満足げに微笑む黑谷ちゃんの意図を、俺は一瞬遅れて汲み取った。



「……まさか、黑谷ちゃん……?」


「大正解。楽しみだったんだ、白山くんのチア衣装見るの」



 黑谷ちゃんってこんな純粋に笑えるんだと、俺は思わず感嘆する。


 時計を見ると、時刻は7時25分。


 俺に決断の猶予は残されていなかった。

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