第40話「みんなの願いは「恋よ、続け!」」
7月終盤。
NoMAちゃん先輩から「焼肉食べ放題のサービス券もらったのだけど一緒にどう?」と誘われ、わたしと黑谷ちゃんは先輩と一緒に近所の焼肉チェーンを訪れていた。
「そういえば、NoMAちゃん先輩ってなんでモデルになったんですか?」
「なんでって……スカウトされたからだけど」
「いや、そうじゃなくて。ほら、先輩には断る選択肢もあったわけじゃないですか?」
「ああ、そういうこと?別に大した理由じゃないわよ。年頃の女の子なんて誰しもが一度や二度、芸能界を夢見るものでしょ?あたしも例外じゃなかったってだけ。それに……」
「それに?」
「……男って、付加価値に惹かれるって聞いたから」
「あ〜……」
「必死で草生えますね、駕籠野先輩」
「必死で何が悪いのよアメ!!だいたいあんたは良いわよね!!こんなグラドルみたいな身体の美少女とヤることヤッてんだから!!」
カルビの焼けるいい匂いと金網を挟んで熾烈な争いを繰り広げる煽りカス黑谷ちゃんと社会的地位では圧勝なはずのNoMAちゃん先輩。
多分周りの席にも聞こえてるだろうなぁ、迷惑な客だなぁとは思いつつも止めようもないので、わたしは大人しく旨塩キャベツを頬張っていた。
いくら世をときめくトップモデルであろうと話してる内容がここまで下品では案外気づかれないのかもしれない。
それか、思ったよりも個室の壁が頑丈か。
「クッソ……ねえセイ、あたしってちゃんと美人よね……?」
「そりゃそうですよ。それは大前提ですって。あ、このホタテうま」
「っていうかあいつ外見とかもはやどうでもいいのかしら……ってか図書研の平均値がバグってんのよ、顔面偏差値の。もしかして顔審査ある?」
「顔が良いやつが変なことしてるのが好きっていう作者の趣味かな」
「黑谷ちゃんがまた発作起こしてる……」
「……ともかく、流石に卒業までにはどうにかけりつけたいのよね。もうバカイツキからは諦めるとしても、どうやってこっちのフィールドに引きずり込もうかしら……」
ピンク脳をフル回転させて考えるNoMAちゃん先輩と、ひたすらサイドメニューのたこ焼きを頬張る黑谷ちゃんと、一人肉を焼くわたし。
やっぱりホルモンが火柱を上げているのを見るのは非常に健康の良い行為だなぁ、なんて考えていると、唐突に先輩のスマホが鳴った。
「はいこちら駕籠、の……って、イツキ!?」
「わ」
「おお」
「これはおおだね」
「何よ急に……ら、来週末?丁度空いてるけど……は、はぁ!?……だ、大丈夫に決まってるでしょ!!……うん、うん……うん、わかった。……そっちこそ。じゃあね」
話が進むにつれて徐々に顔が赤くなっていったNoMAちゃん先輩。
そして電話が終わると、先輩は盛大に、反動で机が揺れるくらいのガッツポーズをした。
「どうしたんですか?先輩」
「あ、あのイツキが……咲姉……じゃなかった、イツキのお姉さんから、行けなくなったUSJのペアチケットもらったらしくて……それで、2泊、一緒にどうかって……」
「おお〜」
「これはおおだろ」
「で、行くんですか?」
「当たり前じゃない!!高校3年生のカップルが泊まりって……そ、そういうことしかありえないわよね!!」
顔を真赤にしながらもガッツポーズを繰り返す先輩を尻目に、わたしは黑谷ちゃんに耳打ちする。
「……で、いけそう?」
「無理。あと3年はいるかな」
「あ〜」
「……なによ、2人してそんな顔して。先輩の恋愛成就を祝いなさいな」
「あ〜、うん、その……」
「……頑張ってね、駕籠野先輩」




