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閑話「白山くんのお姉ちゃん(偽)」

「……あれ、黑谷ちゃんのお母さん?」



 特売日で人のごった返す近所のスーパー。


 父さんとともに牛肉コーナーを眺めていた俺はふと視界の端に見慣れた人影を見つけた。



「あら、白山くんじゃない。こんにちは。それに白山くんのお姉さんも」


「お姉さん……?」


「《《お姉ちゃん》》」


「……あ、そっか。ご無沙汰してます、黑谷さん」



 軽く脇腹を小突くと、父さんは「設定」を思い出し、黑谷ちゃんのお母さんに挨拶を返した。


 そう、今の父さんはご近所さんには「上京してきたわたしのお姉ちゃん」っていうことにしてあるのだ。


 理由は簡単。


 引っ越し直後で対して顔見知りもいなかったわたしのTS病発症に対し、父さんのはバリバリご近所付き合いやらが発生した後のTS病発症。


 ということで対人関係への支障が半端ではないというのは目に見えて明らかだったのだ。


 その結果絞り出されたのが姉設定。


 父さんに「伯母か姉か選べ」と迫った結果の苦渋の選択である。



「いいわね〜、姉妹仲良しって。お父さんは海外出張だったかしら?何かあったら手伝うから気軽に相談してね、2人とも!」


「いやもうただでさえ黑谷ちゃんのお母さんにはお世話になりっぱなしですから〜」


「あらあら、調子の良いこと言っちゃって〜!……って、そうだわ、早く買い物終わらせないと……それじゃ、失礼するわね〜」



 そう言って買い物カゴを抱えてたったと小走りで海鮮コーナーへと向かう黑谷ちゃんのお母さん。


 彼女の姿が見えなくなると、父さんはどこか疲れたようにため息を吐いた。



「……やっぱり、もう伝えちゃった方が良かったりしないか?TS病のこと」


「父さん、父さんの同僚とかはまだ受け入れてくれたからいいけど、あれ都市伝説って思ってる人もいるレベルだからね?最悪精神科進められるよ」


「……だよね。ただでさえあり得ない病気に親子で罹ってるんだもんね、僕ら……」


「そうそう。分かったら大人しくTS男子2人で焼肉パーティーしよ」


「ああ、そうだね。……そうだ、牛タン買い占めようか」


「お、いいじゃん。ネギ塩用意してさ」


「ネギ塩か……クックパッドにあるかな……」


「あるよ絶対」



◇◇◇



「って感じでね、ほんと白山くん姉妹は仲良しでいいわぁ〜。見てるだけで幸せな気分になっちゃうもの」


「分かる。ホントに分かる。心の底から分かる」


「わ、すごいですね。アメが見たことないスピードで首を振っています」



 金のある人間らしく、ワインセラーの自慢のコレクションからお気に入りの国産赤ワインを開け、王道の生ハムとチーズ、クラッカーでちびちび楽しんでいるパパと、昔からこれが好きだとコンビーフ、あたりめ、かいひものおつまみ三点セットで缶ビールを呷るママ。


 食後の両親の晩酌に付き合い、酒の肴を掠め取ってファンタを飲みながら、私は隣の部屋の白山くん達に思いを馳せる。


 ……あれ、ホットプレートは出しっぱなのに2人はいない……ああ、お風呂に行ったのかな。


 そうだった、たまにあるんだよね。


 晩ご飯食べた後、話が盛り上がるとそのままスーパー銭湯行って、お風呂に入りながら、スイーツ食べながら、漫画読みながら、そのまま話し込んで日が変わるくらいに帰ってくること。


 中身がどうであれ、見た目は年頃の少女2人が暗い夜道というのは心配だけど、まあそこは私がどうにかするから問題なし。


 なんとなくいい気分になりながら、なんとなくいい気分の白山くん達を眺める。


 こんなに心地良い夜もそうそうない。


 明日も休みだし。



「な〜に〜、アメ、またたのしいことでもあったの?」


「まあね」


「……そうですね、試してみましょうか。ワインとファンタの飲み比べ。僕も入れてもらっていいですか?」


「え〜、じゃあパパのコレクションってノンアルワインあるんだっけ?あったら交換でいいよ」


「いいでしょう。僕のとびきりをお出しします」


「きゃ〜!わたしものみた〜い!」


「ママ酔ってきた?」

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