別1話「君が好きだと叫びたい」
終業式も終わり、明日からいよいよ夏休み。
高校生活もあと半年かと思うと少し寂しくなる中、少し焦り気味なクラスメイトが俺に声をかけた。
「悪い氷室!俺今日バイト入ってて急がないとだからちょっと日直の仕事手伝ってくんね?」
「おっけ、任せろ丹波」
「マジか!ほんと見た目も中身も最高だなお前!」
そうして頼まれた仕事は防災用の食料やら水やらの補充。
どうやら倉庫から持ってくればいいらしく、俺は丹波と共に地下に降りた。
「てか丹波、もう新しい彼女かよ。バイトの先輩が実はゲキヤバ女で「恋愛は懲り懲りだ〜〜!!」ってIRIS OUTしてたの、確かゴールデンウイークとかだろ?」
「いやそうなんだけどさ、聞いてくれよ氷室!あの後たまたま石清水にゲーセンで会ってな?」
「石清水?結構大人しめっていうか、こう言っちゃなんだが地味な感じの。お前の趣味じゃないと思ってたな」
「まあまあ、話は最後まで聞くもんだぜ。それで一人っぽかったから声掛けたんだよ。こういっちゃなんだが最初は身体目当て的な……ほら、あいつ結構でかいじゃん?」
「そうなん?知らなかったわ」
「そうそう、それでその日一緒に遊んでたんだけどめっちゃ趣味被ってて!そっからあれよあれよってワケなんだわ!マジ性格も良いしやっぱ同級生が一番だよな〜」
だいぶ惚気てるな、こいつ。
とはいっても本人が嬉しそうだし、思い出すと最近石清水もなんとなく明るくなったというか、丹波もかなりの快男児というのは間違いないし案外お似合いなのかもしれない。
「んでさ、そっちこそ新しい彼女作らねえの?お前図書研だろ?あの白山に黑谷、甘神の妹だっているし、ぶっちゃけよりどりみどりだろ、あそこ」
「いや、なんかあれはもう妹っていうか仲のいい友達っていうか……あんまそういう気になれないんだよな」
「はあ?おま……白山とか高三込みでもダントツでデカい怪物だろ!?あれで無理とか……お前趣味もそっちに寄ったか?俺だったら速攻告ってる……って、いや、そうだったわ。お前駕籠野いるもんな」
「いや、ノマちゃんは、別にそういうんじゃ……」
「またまた〜、正直あいつも絶対お前に惚れてんぞ?駕籠野一年の時から先輩とかに告られまくってたけど「好きな人いる」って断ってたらしいし」
「……」
「氷室お前顔真っ赤だな!?さっさと告って楽になっちまえって!女子って自分より可愛い子には少なからず嫉妬するらしいし、お前ぶっちゃけそこら辺の美人より遥かに美人だから駕籠野くらいしかお前に嫉妬しない女子いないぞ?」
「……考えとく」
「おう、考えろ考えろ!」
全く、どうして人は人の恋愛感情にとやかく言いたがるんだ……と一瞬思いつつ、それがさっきの自分へのブーメランになってしまうためここはグッと堪える。
そして備品を運び終えると、丹波はこの季節にお汁粉を俺に奢ってから大急ぎで階段を駆け下りていった。
時計を見ると丁度11時を回った……丁度11時を回った!?
「ヤバいヤバいヤバい!!マジでやらかした!!」
何せ今日は図書館の蔵書点検という図書研究部の主要な仕事の一角が控えた日。
阿須加さんには10時30分、時間厳守で来るようにとキツ〜く言われていた。
「ヤバ、言い訳……無理だ思いつかない!」
何はともあれ、俺はバックパックを背負って大急ぎで階段を駆け下り、図書館への渡り廊下を爆走する。
これはだいぶ怒られる、そう覚悟を決めて俺は図書館、明かりのついた部室へ飛び込んだ。
「マジですいません!!友達手伝──」
「見た目が人妻過ぎる!!」
「独身パチンカス女が出していい人妻レベルじゃない!!」
「その髪型は主人公の母親にしか許されないだろ!!」
「10代でもアラフォーでもギリギリイケるわよ!!」
「──てたら……え、何やってるんすか?」
そこにはテレビの前に立った阿須加さんと、それを囲むようにして語気の強い褒め言葉?掛け声?をぶつける白山さん、黑谷さん、甘神さん、ノマちゃんの面々。
俺が尋ねると、阿須加さんは深い溜息を吐きつつ教えてくれた。
「ほら、昨今反ルッキズムが叫ばれてるじゃない?」
「まあ、そっすね」
「でもね、私おかしいと思うのよ。外見が良くないからって差別するならともかく、顔が良いこと、スタイルが良いことって良いことじゃない。それが褒めたら怒られるって絶対おかしいじゃない」
「まあ……一理なくはないっすね」
「そうでしょそうでしょ?だから反反ルッキズム運動をしようと思ったの」
「えっと、それってつまり……」
「ええ。ご察しの通り、ひたすら人の容姿を褒めるだけの時間でございます」
「それは良いんだか悪いんだか……って、そうだ、蔵書点検は……?」
「ああ、それなら安心なさい。あんたが来てない間に可愛い後輩と可愛い先生と可愛い幼馴染が終わらせといてあげたわよ」
「あ、マジさーせん……」
「いいわよ別に。そんなことよりほら、次あんたの番だから」
「……え、マジで?」
「そうですよ〜!年長順からに決まってるじゃないですかぁ〜!」
そのまま白山さんに引っ張られ、俺はテレビの前まで引きずり出される。
いや、改めて見ると確かにとんでもないサイズはしてるな……
「ほらイツキ、さっさといい感じのポーズ取りなさい」
「氷室先輩、カッコいいとこ見せてくださいね」
「……あ、女騎士みたいな感じにしてしまいましょうか」
そう言って素早く俺の後ろに回った甘神さん。
一体いつどこで用意したのか、細長いリボンのようなものを手首へ結びつけ、そのままストンと、俺を内股で座り込ませた。
「脇見せ、赤面、敗北感、やはり高身長の美形にはこれが一番でございますね」
「イケメン女子女子抜き!!」
「女装男子というには仕草がメスすぎる!!」
「生まれてくる性別間違ってたけど大正解!!」
「可愛い上にち◯ぽ付いててお得!!」
「駕籠野先輩?」
なんだ、なんだこの感覚。
身体の一番奥をぞわぞわっとくすぐられているかのような、恥ずかしさと心地よさが混ざった何か。
俺はただただ顔を赤くし、その場に俯いていた。
「んじゃ次!白山ちゃん」
「がんばりま〜す!!」
「pixivの新しい順!!」
「大鑑巨乳主義!!」
「アズールレーン!!」
「ギリ三桁なの知ってるんだから!!」
「黑谷いつでもいけまーす!!」
「見た目だけなら病弱ヒロイン!!」
「ツインテールにしたらほぼ初音ミク!!」
「ソシャゲみたいなスタイルの美少女に執着してるソシャゲみたいな髪色の女!!」
「顔が良いからって何言っても許されると思わないほうがいいわよ!!」
「続いて参ります私!!」
「若白髪にも程があるだろ!!」
「一番バランス型のスタイルしてる!!」
「顔が良いから許されてるタイプの敬語!!」
「理想的な並乳ね!!」
ついていけない圧倒的なスピード感で繰り広げられる謎の企画。
ようやく最後の出番が来たノマちゃんはこの空気感に違わない変なテンションで、俺の耳元で「あんた、声出てないじゃない」と囁いてから前に出た。
「今なりたい顔ランキング2年連続No.1!!」
「美少女の擬人化!!」
「いい年してツインテールがこんなに似合うのすごい!!」
「花火以来の黒髪ツインテーラー!!」
「た、ただ一つの変わらない可愛さ……!!」
こうして最後の一人が終わると、阿須加さんは「これで少しは反ルッキズムに抗えたかしら」と満足気な顔で一息つく。
それから先生の奢りで、今夜はバーミヤンということになり、またもう一度歓声が上がった。
「んじゃWiiUやりますか〜」
「私ウソつきハンター、ウソつきハンターを所望致します」
「私もそれかな。あれホントすき」
こうして後輩達がWiiUを起動する傍ら、ノマちゃんが俺の肩を叩く。
何かと思って振り返ると、スマホの着信が鳴った。
『今度は一対一で言う事』
『いい?』
俺は静かに返信を打ち込んだ。
『いつか、必ず』




