第32話「母は強しリターンズ」
「……黑谷、ちゃん、……わたし、魔法……使え、ちゃった……」
「平たく言えば……世界の危機ってやつっすか」
「あらあら、こんなことするために冬ヶ丘に戻ってきたわけじゃないのだけど……」
「ご安心くださいませ。私甘神アマミ、当然ゲームチェンジャーとしても大いに有能でございますので」
「あんた達はそこで見ときなさい。先輩がどれだけ強いか、ってね!」
「何度も言ってるでしょ?私は──「魔法使い」なんだから」
◇◇◇
「──みたいな夢を見たんだよね」
「ああ異能バトルものになった夢を」
「ホント焦った。まさか氷室先輩があんな強キャラだったとか……」
「え、どんな感じ?」
「最終的にはあらゆる現象のベクトルを制御できるようになってたかな」
「へえ〜」
「まあ所詮は夢だからね」
そんなことを言いつつ、丁度通り過ぎた通学路脇の空き家を気圧か何かでぺしゃんこに押しつぶす黑谷ちゃん。
あの空き家がバタフライエフェクトの始動だったんだろうな、なんて考えていると、「セイ」とわたしを呼び止める聞き慣れた声が響く。
もしやと思って振り返ると、そこには穏やかな笑顔で手を振る母さんの姿があった。
「え、うそ。なんでいるの?」
「今日は参観日なのでしょう?カイトさんに聞きました。あの人は今日来れないとのことでしたから、私が代わりに伺おうかと。黑谷さんも、セイがお世話になっています」
「あ、いえ、私こそ……」
相変わらずのフットワークの軽さに、相変わらずの報連相の欠落。
いつ会っても「この人には勝てないなぁ」と思わされるこの感覚はある意味黑谷ちゃん以上のものかもしれない。
そして母さんは昔から愛用している竹籠のようなカバンから封筒を取り出すと「少ないですが、よかったら」とわたしのポケットに茶封筒を差し込んだ。
「いいの?母さん」
「ええ。セイもますます女の子らしくなってきましたから、色々と入り用でしょう?どうぞ、自由に使ってください。黑谷さんもどうぞ。ご両親には、くれぐれも内密に」
「あ、ありがとうございます」
こうしてわたし達にお小遣いだけ渡すと、母さんは「また後で」と脇道に逸れて姿を消す。
彼女の姿が完全に見えなくなって、代わりに学校が見えてきたところで黑谷ちゃんは口を開いた。
「今からヤバいこと言うね、白山くん」
「何?」
「封筒、5万入ってた」
「……、……は?」
「ちなみに白山くんのは10万入ってるよ」
「……、……、…………は?」
◇◇◇
「それはそれは……ホントうちの子も白山くんには仲良くしてもらってるみたいで……」
「まあ。では、これからも末永くよろしくお願いいたします」
「こちらこそうちのアメを……」
教室の後ろで聞こえてくるそんな声。
私は隣で居眠りする黑谷ちゃんの方へ僅かに身を乗り出した。
「黑谷ちゃん黑谷ちゃん」
「……何、白山くん」
「黑谷ちゃんのお母さん来てるよ」
「……あ、ホントだ。ママー!」
「頑張りなさいな、アメ〜」
黑谷ちゃん、普通に家族すきすきなタイプなのは結構可愛いと思う。
彼女の顔を見ながら考えていたら先生が入ってきて、あと1、2分もすればチャイムが鳴って授業が始まるといったところ。
そんな中で気配を感じて振り返ると、母さんがこっちへ向けて手招きしていて、わたしは少し急ぎ足で彼女に駆け寄った。
そして彼女は、わたしへ小さく耳打ちした。
「挨拶は、いつ来てくれても構いませんからね」
この人、マジでどこまで知ってんの……?




