裏8話「ゆるい▽キャンプ(その3)」
「せーのっ!」
「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」
月の上り始めた夕暮れ、威勢のいい掛け声と共にプラコップをぶつける音、中で飲み物が揺れる音が響く。
傍らのグリルでは備長炭がパチパチと弾け、網の上に乗せられて香ばしい匂いを放っているのは私持参の良いお値段の牛タン。
焼肉には一家言あるらしいパパによる「牛タンが嫌いな大人はこの世に存在しません」というお持たせである。
「ん〜♡これ高いやつ〜♡お酒進む〜♡」
「あんま飲み過ぎないでくださいね。後で温泉行くって行ったの、阿須加さんなんすから」
「あんた達、次何食べたい?あたし焼いてあげるわよ」
「牛タン追加で」
「私カルビを所望致します」
「ってか駕籠野先輩、肉とか食べるんですね。モデルってみんなベジタリアン的なやつなのかと……」
「そんなわけないでしょ。焼くと脂落ちるし、焼肉とか大好きよ。それに痩せたいなら食事制限よりも運動ってのもよく言うでしょ。あんた達もそういうの気にする年頃じゃない?」
「わたしあんま太らないので〜」
「右に同じくでございます」
「あ、左に同じく」
「ここじゃなかったら全員ブッ殺されてるわよそれ……女の敵は女ってよく言ったものね」
そして昼間は快晴だったからか、少し冷えた夕風が吹き抜けるキャンプサイト。
予報では週末通して雲一つない晴天が続くとのことで、見上げる空にはちらほらと星も見えてくる。
まあ風情という風情も結構あるなって感じ。
そんなことを考えてると、先生はカシュッと二本目のビールを開けた。
「いや〜♡美少女に囲まれて飲むお酒美味しいわ〜♡ソシャゲの主人公ってこんな気分なのかしら?」
「阿須加さん阿須加さん。あの自分、めっちゃ横に男いますけど」
「あんたシラフで言ってんのそれ……?」
「氷室先輩は美少女でしょ」
「デカ女需要は昨今高まっておりますので」
これでもかと性別を否定される氷室先輩に、それを見て笑いながらビール缶をぐいっとあおる阿須加先生。
それから少しして、私は白山くんの口数が妙に少ないことに気がついた。
一瞬チカラ使おうか迷って、止めた。
「……白山くん、どうかした?」
「……あ、ううん、何も!NoMAちゃん先輩!わたし焼くの手伝います!」
ああ、何かあるやつだな。
そう思ったけど、それ以上言うのは無粋ってもの。
私はタレにひたひたにしたカルビを口に運び、麦茶で流し込んだ。
「ヤバいめんつゆだこれ!?」
「ふふっ、大成功、でございま──そうだこれもめんつゆでございました!!」
◇◇◇
「ふあぁ〜ごくらくごくらく〜」
良い子のみんなはやめよう、飲酒後のお風呂。
「ビール五本開けてこれ……ザルでございますか?」
「じゃない?顔色全然変わってないわよこれ」
「阿須加先生、お酒って美味しいんですか?」
「ん〜、美味しいかどうかっていうより、必要かどうかって感じかしら。ほら、自動車にもレギュラーとかハイオクとかあるでしょ?」
「ああ〜」
「それと一緒。水が必要な人もいれば、アルコールが必要な人もいる。それが多様性ってことなのよ」
「……え7割アルコール?」
「実質アブサンでございますね」
「スピリタスじゃないだけマシ」
「どこのダイビングサークルの話してるの黑谷ちゃん」
それにしても富士山を見ながらの露天風呂……うん、すごく悪くない。
水面に浮かぶ大きな影、雄大で、包み込むような母性もあって、それでいて柔らか。
なるほど、絵が世に溢れてるのも理解できる。
「本当よね。一体どうしたらこんな大きさになるのかしら。形といい感触といい……国宝級ね」
「あの……」
「何?白山くん」
「えっと……二人して人の乳揉みながらド直球のセクハラするのやめない?」
「あ、バレた?」
「バレないはずないよね!?ってかNoMAちゃん先輩なんか慣れてません手付き?」
「相手のいないあたしがどうやってEまで育ったか考えてみなさい」
「ああ自家発電の実績がおありで」
「へえ〜、駕籠野先輩も結構あるんだ」
「黑谷ちゃん、一回手を止めない?」
「先生、先生、自分ら以外がいないからと黑谷ちゃんらが乳繰り合っておりますが」
「まあいいんじゃないかしら?楽しそうだし」
「かしこまりました」
「そこ聞こえてる!てかかしこまんないで甘神ちゃんも!」
◇◇◇
「あぁ〜、いいお湯だったわぁ〜」
「帰って焼きマシュマロ、焼きマシュマロの続きでございます」
「っす、お疲れ様っした、女性陣」
「大丈夫?あんた男湯ぼっちじゃなかった?」
「いや他にも何人かいたんでおしゃべりしてた。2回くらい性別聞かれたけど」
「そりゃそうよ」
一風呂終えてキャンプサイトに戻ろうかという御一行。
私もそうしようとしたところで、白山くんが私の肩を叩いてきた。
「……ちょっとさ、話、あるんだけど」
真面目な表情。
多分、真面目な話。
さっきのセクハラがやりすぎだったのかな、なんて考えつつ「ちょっと売店寄るので」とだけ先生達に伝えて私は彼女の後をついて行った。
「……実はさ、そろそろ黑谷ちゃんに言おうと思ってたことがあって」
そして売店の裏、静かな河岸。
自販機くらいしか明かりがない中で立ち止まり、白山くんは私の方を見た。
「先輩達見てたら、ちゃんと言わないとって思ったんだ。あんまり、もたもたするのも嫌だからさ」
「白山くん……?」
「多分これは俺じゃなくて……《《わたし》》から言わないといけないことだから。……だから、ちゃんと聞いててほしい」
鼓動が聞こえる。
緊張した息遣いが聞こえる。
振り絞ってる勇気が聞こえる。
そんなこと、あっていいのかな、少し、期待する。
そしてその綺麗な、すごく綺麗で可愛い顔を真っ赤にして、白山くんは言ってくれた。
「黑谷ちゃん、わたし、黑谷ちゃんのことが好き。大好き。ずっと遊んでくれて、面白いこといっぱい教えてくれて、一緒にいてくれて……」
「……うん」
「だから、わたしと付き合ってください!!黑谷ちゃん!!」
ああ、本当に言ってくれた。
顔を真っ赤にして、身体折れそうなくらい頭を下げて。
だから私も、精一杯応えないと。
そう思って、私は白山くんに一歩踏み出して、頭を上げさせて、頬を両手で支えて、柔らかくて、少し緊張で乾いた唇にそっと自分の唇を押し当てた。
「……ごめんね、白山くん。肝心な時にロマンチックな一言も出てこなくて」
「……」
「でも……こんな私で良かったら、喜んで」
……良かった。
好きに、なってもらえた。
「……あ、でもセクハラはちゃんと怒ってるからね」
「わお」
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