第28話「ゆるい▽キャンプ(その2)」
「……っと、これで完成かしら……?」
「ぽいっすね。お疲れ様っす、阿須加さん」
これまた先生が実家から引っ張り出してきたというタープ付きの大型テントを1時間かけて組み上げると、新たに生まれた日陰でほっと一息つく俺達。
車のトランクに積まれたいくつかのクーラーボックスの内一つを下ろすと、その中にはブロックアイスによってこれでもかと冷やされたキンッキンのジュースやらコーラやらが詰め込まれている。
そして買い込んだおやつを折り畳みテーブルの上に広げながら俺達は改めて乾杯した。
「……っぷぁっ、やはり格別でございます、労働後の一口」
「はぁ、全くね。懐古厨のプロデューサーなんかに囲まれて食べるたっかい鍋とかより友達と食べるやたら味の濃いポテチの方が100倍は美味しいわ」
「ノマちゃんが楽しそうで何よりっす。……そうだ、ここ、釣り堀とかあるらしいんすけど後で誰か行きません?」
「あ、わたし行きたーい!黑谷ちゃんどうする?」
「やすむ……ひかげ……うれしい……そと……つらい……」
そうだ黑谷ちゃん本体性能は低い。
平均値だいぶ割る程度には低い。
「私は先生とジャンキーなスナックを味わっておりますので」
「あ、釣りはダメ……ゴカイミミズキモすぎ……」
◇◇◇
「わ、釣り堀、結構広いですね〜!」
「そっすね、結構楽しめそうっす。……一人1匹分は釣りたいな」
「頑張りましょうね、氷室先輩!」
ということで結局釣り堀に来たのは俺と氷室先輩の2人。
受付で釣り竿を借り、餌を買っていざニジマス釣りの戦場へ。
周囲は案の定というかまあそれはそうだよねって感じに家族連れが多く、俺達のような学生連中というのはあまり見かけない。
釣ると一匹300円、釣れなくても一匹500円というこのご時世にしてはかなり良心的な料金設定を信じ、俺は魚影の彷徨う水面へ静かに釣り糸を垂らした。
「そういえば、氷室先輩って経験者なんですか?」
「そっすね、一応父さんに何度か」
「あ、わたしも同じ感じです〜!けっこーお金かかる趣味っぽいのに、意外といますよね〜」
持ってきたキャンプ用の椅子に座って適当なことを話しながら待っていると、10分もしない内に震え始める釣り竿。
「レバブルみたい。期待値95%だよ」
テレパシー黑谷ちゃん?
「大丈夫、合わせますね〜!」
「おっ、上手い。いっすね、白山さん」
「待って、来たっ、いけますっ!」
そして竿を上げると見事に飛び出してくる活きの良いニジマス。
氷室先輩は網でナイスキャッチをキメてそれをスムーズに魚籠へと放り込んだ。
「ナイスです、先輩!」
「ギリギリっすよ、ギリギリ。……でも、この調子で行きましょう」
それからペースは上がったり落ちたりだったけど、それでも俺達は順調にニジマスを釣り上げていく。
そんな中でふと気になって、俺は氷室先輩にこんな質問を投げかけた。
「そういえば、氷室先輩とNoMAちゃん先輩ってどんな関係なんですか?わたし、もうちょい詳しく知りたいんですよね〜」
「前も話したかもしんないっすけど、普通の幼馴染っす。幼稚園の時から、すかね。そっから小中高全部一緒で、大学も一緒になる感じ。仲良い友達は結構いるって自負してますけど、一番親しいって言えんのはやっぱノマちゃんなのかな」
「へえ〜」
「……あ、違うっす、勘違いしないでほしいんすけど、これは別に……恋愛感情的なものじゃなくて。ほら、ノマちゃん色々忙しいし、結構高嶺の花になっちゃったっていうか、自分より良い人なんていくらでも見つけられるだろうし……」
「へえ〜〜?」
「っていうか、多分ノマちゃん、自分みたいなのはナシなんじゃないかな。ほら、実際好きでこんな見てくれしてる変わり者ですし……あ、でも結構見た目は褒めてくれるんすよ?ノマちゃん。もちろんファッションのことだとは思うんすけど……でも、嬉しいんすよね」
「へえ〜〜〜〜??」
待って、脈アリどころじゃないじゃん。
氷室先輩めっちゃNoMAちゃん先輩好きじゃん。
こんな話を聞いてしまった限り俺もこうしちゃいられない。
「あ、ちょ〜っと待っててくださいね、氷室先輩!わたし戻らないといけない用あるの思い出しました〜!」
「了解っす。責任持って釣っとくんで任せといてください」
その返事を待ってから私はキャンプサイトへ猛ダッシュ。
もちろん目当てはNoMAちゃん先輩。
俺は芝生に寝転がって楽しそうな彼女を見つけるなり耳元に顔を寄せ、小さな声で情報漏洩した。
「……!?何よ急に!?」
「いや、さっき話してたんですけど、氷室先輩めっちゃNoMAちゃん先輩好きです。マジで好きですあれ」
「!?そ、そうよね!?こんな美少女嫌いなわけないわよね!?あいつが鈍感過ぎるだけよね!?」
「んで、今氷室先輩一人なんで、2人きりになるチャンスです。いけます、マジで。あと餌も虫じゃないです」
「……!い、今すぐ行ってくるわ!」
そして彼女が飛び出した瞬間、俺は氷室先輩に「NoMAちゃん先輩が釣り教えてほしいらしいです!」と連絡する。
それに既読と「了解」と書かれたスタンプが送られてきたのを確認し、俺はスマホを閉じた。
「ふふっ、白山くん、恋のキューピッドごっこ?」
「どうだか」
でもこれで少しは距離も進展し──
◇◇◇
「ああもうなんでこうなるのよ!!?」
ないんだ。
「……なんで?黑谷ちゃん」
「釣れすぎてそれどころじゃなかったらしいよ。キャッチアンドリリースまでしてたらしいし」
「わー、サステナブル」




