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第17話「46歳のおじさん、突然美少女になる」

「セイに黒谷さん、二人ともおかえりなさい」



 朝食バイキングだけ掻き込んで大慌てで家に帰ると、母さんは平常運転な微笑みで俺達のことを出迎えた。


 いっつも思うがこの人は何があったら表情を崩すんだろうか……って、そんなことは今の主題じゃない。



「母さん、父さんって今どうなってる……?」


「カイトさんですか?あの人なら今は寝室で休んでいますよ。有識者のセイが帰って来るまで病院は待とう、と。ふふっ、あなたに負けず劣らず、随分と綺麗になりましたよ」



 そう言って母さんはひらりと手を動かし、俺達に父さんの寝室へ入るよう促した。


 この人がこんな楽しそうにしてるってことは中々ヤバい状況なんだろうな、なんて考えつつも、贔屓目抜きで中々のイケオジな父さんがTS症に罹ったら一体どんな感じになるんだろうかという無責任な期待感も間違いなく存在している。


 何故かついて来た黑谷ちゃんと共に、俺はそっと寝室を覗き込んだ。



「……あ、お、おかえり……なさい、セイ……」



 俺達に気付いた瞬間、十中八九あの人にひん剥かれぐちゃぐちゃにされたのであろう彼……彼?


 ……彼女は生まれたままの姿を慌ててブランケットで隠し、顔を真っ赤にしながら目を逸らした。


 腰の少し上くらいまではあるであろう長く艶のある白い髮、少し切れ長気味な瞳、シワ一つないツヤッツヤの美肌、ブランケット越しでも分かるくらいの出るところはきっちり出たメリハリのついた身体とそれに見合う細長い手足……


 実の父親、それも50手前の中年男性だという前提の上で見惚れざるを得ないほどの美人が、そこにはいた。



「……あれ、白山くんのお父さんだよね?」


「……、……多分」


「あー、えっと……その……」


「……取り敢えず、服持ってくる?」


「……すまない、セイ」


「あら、着替えでしたら既にこちらに。昨日買ってきたものですから、サイズが合うといいのですが」


「母さんはほんと何が見えてるの?」


「白山くん、白山くんのママ、私側だったりしない?」



 そう言って母さんが持ってきたユニクロの紙袋を俺はそのまま父さんに横流しする。



「あなた、着替え終わったら教えてくださいな。病院の方には、私の方から連絡しておきますので」


「ああ。ありがとう、アカリ」



 言葉の抑揚やらは完全に父さんのそれだが、声帯だけが父さんじゃなさすぎる。


 女系家族どころの騒ぎじゃないな、なんて考えながら俺達は父さんを待った。



「……顔面偏差値の平均、すごいことになってるね」


「ハードル、上がりまくってるよな」



◇◇◇



「いやぁ〜、親子での発症例は今までなかったんじゃないかな〜……いや、本当にこれは貴重だぞ〜」



 一旦黑谷ちゃんとは別れて病院へ向かうと、待っていたのは数ヶ月前に俺を担当してくれたおじいちゃん先生。


 やはり子供と大人では手続きも色々と変わってくるのか、説明は長いし資料ももっと分厚い。


 何より、貪欲に流行を取り入れないといけない広報部門に長い間勤め続けているとはいえ、今年47のおじさんが突然美少女になってしまうというのは相当受け入れがたいのだろう。


 父さん、見たことないくらい目震えてるし。



「……とまあ、手続きに関してはこの辺かな。何か質問なんてあったりするかい?」


「いえ、一応大丈夫です……」


「まあこれから先、日常生活が一変することは間違いない。筋力、運動機能の低下などはTS症の症状としてよく報告されるものだし、何より対人関係が変化してしまうことも少なくない。だけど治療法が確立されていない以上、それらに抗おうとするよりも受け入れて新たな人生を楽しむことが心身の健康に繋がる、というのがTS症について今主流な考え方なんだ。実際、セイくんはびっくりするくらいの健康体だ、心身ともにね」


「そう、ですよね……」


「とはいえお父さんも社会で第一線を張るような立場だ、セイくんのような若者ほど受け入れにくいというのもまた事実だろう。何か壁にぶつかったらお母さんも息子さんも、家族一丸となることが大切だよ。もちろん私達も力を貸すから、困ったらすぐにウチに連絡してほしい。緊急でも構わないからね」


「……はい、ありがとうございます」


「よし、いい返事だ、お父さん。私から話すべきことはこれくらいだろう。お母さんからも何か質問は?」


「いえ。私はカイトさんがますます私好みの可愛らしいお顔になってしまったので、こう言ってはなんですが、少し幸運だな、なんて」


「はっはっは!そうそう、それくらいで捉えておくのが身も心も楽ちんというものだね!それじゃ、お大事に!」



 そう言って相変わらず半ば強引に送り出したおじいちゃん先生。


 これまた相変わらずの大量の書類を受け取り、俺達は家族並んで帰路に着いた。


 もしや父さん、これTSしたのに180以上あるな……?



「あら、カイトさん、複雑そうな顔ですね?丁度心配事5割、利点5割という顔をされていますよ」


「……隠せないな、アカリには。実は今中々大きなプロジェクトを抱えててね。明日は丁度月曜だ、リモートにしてもらえないか相談してくるよ。……はぁ、免許証も社員証も、マイナンバーカードあたりも全部再発行か……」


「じゃあ利点って何?父さん」


「……そうだね、強いて言えば……腰がヤバくない、白髪染めしなくても不自然じゃない、身体が軽い、さっきとんかつ食べたら胃が全然受け付けてくれる、ひげ剃りしなくていい、身体がめちゃくちゃ柔らかい、正直良く寝れた、裸眼でも文字がはっきり見える……」


「5割で済むか?利点」


「ふふっ、セイと違って、カイトさんは年齢によるガタを必死に取り繕っていましたからね。性別が変わってしまうという以上に、若返りによるメリットが非常に大きいんです。それに加えて、TS症は老化をかなり遅らせるということだそうで、今アンチエイジングの方面からも研究が進められているそうです」


「なんで母さんそんな知ってるの?」


「まあ。可愛い息子に可愛らしい夫までTS症に罹ってしまったとなったら調べるのは当然でしょう?……そうだ。今夜帰る前に、カイトさん、またあの頃のように山盛りの唐揚げ、作って差し上げますね」


「……ああ、ありがとう。楽しみだな」



 そう言って、父さんは無邪気に笑った。


 ……っていうか、白髪のおじさんがTSして美少女になったら大陸系ソシャゲみたいになるんだ……

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