第13話「言わぬが花だが無知は罪」
「すいません、お二人に聞きたいことがあるんすけど……」
いつもの放課後。
図書研の仕事を終えた帰りのカフェテリア。
氷室先輩はどこか複雑そうな顔をしながら俺達に悩みを打ち明けた。
「その……自分、モデルに誘われて……」
「へぇ、モデル。スカウトされたってこと?」
「スカウト……いや、スカウトっていうよりは誘われたって感じです。同級生に」
「あ、そう言えばわたしも高3に読モの先輩いるって聞いたことあるかも。どんな人なんですか?その先輩って」
「あ、古い知り合いなんすよ。ノマちゃん……駕籠野マキって言うんですけど、小学校の同級生で」
大雑把な氷室先輩の説明によると、かれこれ十年以上の付き合いになる同級生がとあるファッション誌の専属モデルをやっており、この前の体育祭の時、打ち上げの帰り道で「ウチの雑誌、募集してるんだけど興味ない?」と誘われたらしい。
「……ねえ、黑谷ちゃん」
「何?白山くん。コソコソ話?」
「ああいうのってTSっ娘のイベントなのがお決まりじゃないの?」
「でも白山くんTwitterで着衣巨乳晒してるじゃん」
「あ、ダメなんだあれ……」
俺は少し肩を落としながらも、改めて悩んでいる氷室先輩へと目を向ける。
何度も言うが、先輩の見た目は最上級だ。
俺が上の上の上なだけで、上の上はある。
今年の文化祭じゃ史上初のミス冬ヶ丘とミスター冬ヶ丘の二冠も狙えるんじゃないかという噂まで。
容姿についての問題は一切ないだろう。
先輩がその気ならわざわざ止めることもない、少し寂しくはなるが応援しよう、そんなことを考えていた次の瞬間だった。
「んで、もし興味あるんだったら説明するから今度ご飯でも行こう、とか言われてるから早めに返事しないとなんですよね……」
……ん?
「……ねえ、黑谷ちゃん」
「奇遇だね。私も同じこと考えてる」
「「……これクソボケじゃない?」」
俺達の見解は即座に一致した。
これ、スカウトは主題じゃない、と。
努力はしてるんだろうけどそれでも多分女心に鈍い氷室先輩と、その10年来の幼馴染。
これスカウトを名目に距離縮めたいやつだ。
絶対そうだ。
そうと決まれば俺達がやるべきことなど1つしかない。
俺達は声を揃えて言った。
「わたしは大賛成ですよ〜!だって氷室先輩めっちゃ美人ですし!多分駕籠野先輩も大喜びですって!」
「そうですね。いいんじゃないですか?少なくとも退屈はしないと思いますよ」
「そう、すよね……っし、決めました。今度の土曜、ノマちゃんと会ってこようと思います。ちょっと詳しい話、聞いてくるっす」
よし、よし。
拝啓。
見知らぬ駕籠野先輩、俺達は為すべきことを為しました。
あとはそっちでお願いします。
敬具。
そして俺達は氷室先輩が連絡したのだけ見届けて、5時のチャイムが鳴る中帰路に着いた。
そして結局モデルはやらないこと、今度また駕籠野先輩とご飯に行くことが決まったと、そう教えてもらったのはその次の月曜日のことだった。
「人気モデル×メス男子とか、向こうの方がちゃんとしたラブコメになりそうだね」
「なんの話?」
「ううん、なにも」




