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第11話「一手逆転」

「てかさ、お姉さんめっちゃ美人だね!俺こんなにかわいい子初めて見たかも!」


「ほんとほんと!てかさ、今暇?もし暇なら俺らと遊ぼうよ!せっかくだしなんか美味いものでも食べてさ!」


「え〜、どうしよっかな〜」



 前略。


 帰り道で俺、白山セイはナンパを受けていた。


 いや、それも仕方ないことだ。


 俺が可愛すぎるのが悪い。


 顔も身体も超一流、おまけにそれを盾にイキらない謙虚な姿勢に丁寧で柔らかい人当たりと、その様子はさながら弱点なんて見当たらない一番星の生まれ変わり。


 いやぁ、自分より年上の大人が自分の機嫌を取ろうと必死になっているサマがこんなに心地良いなんて。


 そんなことを考えて内心ニマニマしていると、突如としてけたたましい着信音が鳴り響いた。



「はい、こちら加藤……あ、課長!?いえ、いえ、はい!はい!……あ、いえ、今すぐ向かいます!はい、はい……佐藤も一緒にいるんで!はい、はい!それじゃ失礼します!」


「おい、どうした?」


「課長からの呼び出しだよ!今作ってるシステムにヤバいバグ出たらしい!要件定義からやり直しだ!」


「ウソだろおい!?……あ、ごめん!ご飯はまたの機会に!」



 そんなことを言い残して大慌てで去っていく男性二人組。


 ふと振り返ると、そこには少し得意気な顔をした黑谷ちゃんが立っていた。



「……もしかして、今の黑谷ちゃんが?」


「そうだよ。あいつらが帰らないといけない事情を無理矢理創ったの。つくづく私のチカラは全能だね」


「……」


「何?そのまんざらでもなかったって表情。っていうかさ、白山くんチョロすぎだよ。自分をかわいいって褒めてくれる人だったら誰でもいいの?」


「いや、ついてくつもりはなかったんだけど、まああそこまで褒められると悪い気はしないなぁ、って」


「チョロインってレベルじゃないよ」



 「承認欲求ってここまで人を狂わせるんだ……」とため息を吐く黑谷ちゃん。


 それから数秒思考して、彼女はますます不機嫌そうな顔になった。



「……?どうかした?黑谷ちゃん」


「ううん。所有権、今のうちに主張しとこっかなって」


「え、それって……?」


「何がいい?好きなの選んで良いよ」



 そう言って、黑谷ちゃんはまるでジャグリングでもするかのようにポンポン、ポンポンと様々な道具を取り出していく。


 首輪、タトゥーシール、ドックタグ、爆弾付きチョーカー、名札、油性ペン、リード、鎖、手錠、足枷、指輪……どうやら黑谷ちゃんはヤンデレ気質というか、自分のものは自分のものだと声高らかに叫びたいタイプらしい。


 それから用意された小道具達は俺を取り囲むように舞い上がり、回答を促すかのように漂う。


 俺は意を決し、手を伸ばした。


 次の瞬間、それはまるで泡のように消えた。



「触ろうとしたってことは、私のものになってくれるってことだよね?」



 いつものように、からかうようにクスっと笑う黑谷ちゃん。


 だから俺は彼女が次の言葉を紡ぐ前に、彼女の頬にキスをした。



「……え?」


「ふふっ、今日は「わたし」の勝ちだね。黑谷ちゃん」



 普段のお返しとばかりにドヤ顔を披露し、俺は少し早足で帰路に着いた。


 追いかけてくる足音は、普段よりも少し可愛かった。

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