迫られる選択
「そうだ。俺が"ファクトリー"だ。」
鷹鬼と睨み合っている川原君が、さも当たり前の
ように口にする。
「こんな状況で、変な冗談はよしてくれよ…。」
沈黙の中の睨み合いの中、俺が声を出す。
ファクトリーは口を歪め、言葉を返してくる。
「キントン…俺が冗談でこんなこと言うと思ったか?くだらない冗談嫌いな事、お前が1番知っているだろう?」
「だってよ…!」
俺は不安と焦燥から拳を握る。
「狂極連合の頭"ファクトリー"は中谷って名前だろ?川原君は川原君。違うじゃねえか!」
「川原は親父の姓だ。あの頃…この街から引っ越し、程なくして両親は離婚した。母方に着いて行った俺は、母の旧姓"中谷"になったんだ。」
いきなりの色々な事態に俺の思考は、ぐちゃぐちゃになり考えが纏まらない。
昔の思い出、狂極連合にやられた仲間達、目の前の川原─いや、中谷。
だが、1つだけ確かな事がある。
カウンター奥から、不安げな眼差しを向けるみさぴ。
めっちゃ可愛い。それだけは揺るぎない事実。
抱きしめたいよマイベイビー。
受け止めてくだされ!これがわたくしのしゅきしゅきビームですぞ!みさぴ殿!
「…おい…。」
ドキッ!な…なんだよいきなり鷹鬼。
「キントンは、お前が可愛がっていた奴なんだろ?何故そのキントンが、悲しむような真似をした?」
あっ俺じゃない。セーフ。
ファクトリーは上を見上げ、視線を天井に移しポツリと呟くように言った。
「………ヘルズエンジェル…。」
鷹鬼の顔が険しくなる。エンジェルと聞いた俺は、マイエンジェルって聞こえてニヤける。もう病気だ。
「お前ら双天鬼も名前は聞いた事あるだろ?ブラックレター率いるヘルズエンジェル。 最近のあいつらは、朱雀会、獅凰連合、ブラッディローズまでをも取り込み勢力を拡大している…。」
ファクトリーはコーヒーを口に含み、飲み込むと続けて言葉を継ぐ。
「俺はもう三年だ。このまま卒業してもよかったんだが、今のあいつらは見過ごせねぇ。そしてヘルズエンジェルに対抗するため、お前ら"双天鬼"をこちらに引き入れる必要があった。」
鷹鬼の鋭い言葉が飛ぶ。
「お前が用事あるのは俺らだろ?何故仲間に手を出した!」
「簡単な事だ…お前らの仲間をやった理由は"キントン"お前だよ。」
やめて!やめて!やめて!
意味の分からないタイミングで、人のせいにしないで!責任転嫁はダメですぞ!ぷんぷんビーム!
「川原君…ど…どういう事だよ。」
「双天鬼の噂を耳にした時よ、もしかしてキントンの事じゃねえかと、思ったんだ。
もし本当にキントンだったら、話して下につかせようかとも思った。だがな?キントン。
お前は昔から自分の認めた奴の下にしかつかない。」
昔の記憶が蘇る。
「だから──
仲間をやられて、本気で怒っているお前を、完膚なきまでに叩き潰す。そうして狂極連合の下につかせる。そうしたら周りも納得するだろ?」
こいつ…っ!そんな理由で仲間を…っ!
「さぁ選べ。
戦ってボロボロになって、周りに"認めさせる"か。
それとも、今すぐ自分の口で宣言して"認める"か。」
暖かい外の日差しとは対称的に、アンジュの空気は冷たく…そして張りつめていた。




