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名前

昔のあだ名ってなんか恥ずいよね。

「なぁ久里鬼。あの頃呼んでた名前覚えてるか?」

川原君はグラスを傾けながら問いかける。

「名前?」

なんかあったっけな。

「忘れちまったのかよ。"キントン"」

「あー!思い出した!キントン懐かしい!」

みさぴが首を傾げながら尋ねる。

「なんで…キントン?」

はいっ!今しがた世界一可愛い"キントン"を頂きました。きょとんとしたその表情もたまらない。

あー可愛い。キントン可愛い。

いや…違う!キントンは別に可愛くない!

川原君は笑いを堪えながら説明する。

「単純な話さ。クリキだからクリキントン。それが短くなってキントン。」

「…なんだそれ。でも似合ってんな。」

鷹鬼も吹き出しながら言う。

くそっ。なんか恥ずかしい。もうキントンって呼ばないでって川原君に猛抗議しなければ。

「でもキントンって響きなんか可愛い。」

みさぴが笑いながら言う。ふへぇ。みさぴが可愛い。

「昔のあだ名で恥ずかしいけどキントン懐かしくていいね!」

俺はもう自分の意思はない。みさぴの操り人形だ。

「そういやさ。川原君って今何してんの?」

「何してるって…学校行ってバイトして仲間と遊んで…お前らとなんら変わりはしねーよ。」

川原君はグラスに残ったアイスコーヒーを

飲み干すと続けた。

「俺ももう3年だし卒業だ。だから卒業前にでかい花火を打ち上げようと思っている。」

「デカい花火?豪勢な卒業式でもするの?」

「ちげーよ。お前は昔から変に素直な部分あって逆に羨ましいよ。そういや最近よく聞く"双天鬼"って久里鬼と鷹鬼お前らの事か?」

店の空気が変わるのを肌で感じる。

みさぴのグラスを拭く手が止まる。

大丈夫だよぉ。怖くないよぉみさぴ。

何かあってもヨッシーがみさぴ守っちゃう。

安心して?大しゅきビーム。でへへ。

「おう…俺らが双天鬼って呼ばれてる。なぁ鷹鬼。」

「…あぁそうだ。」

鷹鬼は何かを感じたかのように短く答える。

「やっぱりな。じゃあそろそろ行くよ。」

「もう帰るのかよ!せっかく再会したのに!今度ゆっくり遊ぼうぜ。」

「あぁ…次はゆっくり"遊ぶ"か。またすぐに会える。絶対にな。」

そう言い残し川原君はそのまま出て行く。

アンジュに残ったどこか張り詰めたような空気。

鷹鬼も落ち着かない様子で机を指で叩いている。

みさぴは先程の出来事を忘れるかのように

バイトに集中している。

俺はこのただならぬ空気に多少の違和感を覚えつつみさぴを見つめていた。

ただならぬ空気の中のみさぴもかわちい。

常に何してても可愛い。あっ川原君にみさぴが

彼女ですって自慢すれば良かった。ミスった。

川原君との再会をきっかけにまた新たなる流れに

巻き込まれる事など場の空気を読む力が限りなく

低下した俺には想像も出来なかった。

やっぱり平和って長くは続かなそう。

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