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ドリームズ・オブ・ドリーマーズ

作者: henka

「キタ……キタぜ……キター!」

 空気と変わらない形無き意識体に肉体が与えられる。これぞ夢現体成。鋭い爪、大きな顔に三角形の鼻。獰猛な牙に、顔を覆う立派なたてがみ。でも丸い耳に、やはりネコ科を思わせるしっぽ。黄金色の小さな目に、巨体を取り巻く茶色い獣毛――

 何も無い空間から、突如百獣の王が現れる。しかし、そのライオンは四足歩行の動物では無く、ヒトの形を保った二本足で立つ獣人だった。

「あー、今夜もやってキタぜ、この時が!」

 ライオンの獣人は形成された姿に異常が無いか全身を確認した。

「そろそろ相棒も来るハズなんだが……」

 すると、何も無い空間に映像が映り始める。

「お、キタな!」

 映像はみるみる間に実像を宿し、やがて豊満なバストを持った可愛らしい羊獣人の姿になった。


「さぁーて、今夜も始まったわね」

「お前、やっぱ、それ……気に入っているんだ……」

「何よ? ここは現実世界と違う夢世界なのよ。なりきったもん勝ちなんだからっ」

「お前が女やってるってクラスの奴らに言ったらどういう反応されるだろうな」

「モコモコして殺しちゃうぞ~☆」

 羊獣人はその愛らしい姿に不釣り合いな言葉を口走る。

「……。まぁ、いい。そのなりきり具合がお前の〝夢見る強さ〟だからな。さて相棒、今日も仕事だ!」

「相棒は可愛くないから、パートナーね」

 世界に体現したライオンと羊の獣人は平原を走りだした……



 ――ある心理学者曰く、人間は皆、無意識下では一つに繋がっているのだという。これを『集合的無意識』と名付けた。わかりやすく言うと、寝ている時に見る『夢』のことだ。

 

 ある時、人々の無意識が集合し、本当に一つの世界を形成いていることが科学的に明らかとなった。そして、その世界に明確な意識を持ったまま入る方法が開発され、とあるゲームが発売された。

それが『ドリームズ・オブ・ドリーマーズ(無想家達の夢世界)』。通称〝ドリドリ〟と呼ばれるこのゲームは、寝ている間にプレイできるこれまでにない革新的なものだった。ドリドリの経済効果は凄まじく、景気を潤しただけでなく、それまで教育問題とされていた夜更かしする子供達を規則正しい生活に習慣付けたのだ。しかし、このゲームを楽しみにしているのは子供達だけではなく、夜になると仕事を放棄して家に帰って寝るというビジネスマンも増えてきたことから、最近、少々問題視されつつあるのだが……



 ドリームズ(夢世界)にドリームインする方法は簡単だ。寝る前に額に一センチ角の湿布のようなものを張るだけいい。実はこれ、超小型精神昇夢器械で、寝ると意識をドリームズに飛ばしてくれるのだ。

 ドリームズではコンプレックスの多い現実世界の姿から解き放たれ、自分の望むような姿が与えられる。そう、この世界では誰もが自分が好きな姿に変身できる。それは性転換だったり、獣化だったり、機械化だったり……この世界では個人の想像力(夢見る力)が高ければ高いほど、より強大な力と存在感を得ることができるのだ。この世界に体現した者達はドリーマーと呼ばれる。ドリーマー同士は〝存在力〟と〝技〟が与えられ、対戦することも可能だ。


 ドリーマー達の間でリアルの人間の姿をしている者はまずいない。皆、何かしらのキャラクターに扮してなりきっている。しかし最近、このドリドリに悪い噂が流れている。通称〝ナイトメア〟と名乗る者達がドリーマーを襲い、対戦に敗れた者はドリームズと繋がっている意識路をジャックされ、リアルの人間の姿を晒された上に、記憶を盗まれるのだという。記憶は盗まれても失う訳ではない。しかし、ナイトメアは盗んだ記憶を元にリアルで悪事を働き、敗者を破滅へと追い込むというのだ。そこで、ドリドリ研究所はナイトメアの正体を暴くため、特殊チーム〝封夢〟を結成したのである――




 ドリームインしてすぐに今日の調査フィールドが伝達された。それがこの平原地帯だ。最近、ナイトメアの出現報告が多いらしい。

「あー、こういう広いフィールドは完全獣化して走り回りたいものだな、スリープ」

「うーん。ライガ、私はのんびりしてたいなぁ」

 二人の間で意見が分かれた。

「はぁ? お前、動物かたどっているなら、もっとワイルドにいこうぜ」

「だって私、羊だもん」

二人が言い争っていると、目の前の空間を引き裂いて黒い馬が現れた。

「「!!」」

「我はナイトメアの一員。お前達の記憶を頂戴する」

 黒い馬はイキナリ二人に襲いかかってきた。


「くそっ、いきなりビンゴかよ! 仕事だぜ、相棒!」

「だからパートナーだって!」

 ライオンのライガは全身に雷を纏い、羊のスリープは全身の毛をモコモコと膨張させて球状になった。

「「喰らえ! 合わせ技!」」

 帯電したスリープをライガは勢いよく投げる。しかし、敵にあっさりと避けられた。

「避けるのはわかってるよーんだ」

 スリープは敵の真横を通過した瞬間、帯電した雷を解き放った。

「ぐおぉぉ!」

 敵の体が雷に触れ、ライガ達の攻撃が見事命中。

「さらに――よいしょ!」

 スリープに気を引きつけている間に今度は炎に身を纏ったライガが体当たりする。そして、飛ばされたスリープは地面で跳ね返り、空中からドロップキックをお見舞いした。互い違いに、反撃する隙を与えない連続攻撃。

 しかし、敵も黙ってはいなかった。


「うわぁっ!」

「くそっ!」

 敵は全身に黒い旋風を身に纏い、二人を遠くへ吹き飛ばす。

「はぁ……はぁ……この手際良さ……封夢か……」

「ああ、そうだ。お前らは何故、人の記憶を盗むんだ?」

 ライガは瞬時に敵の目の前に移動し、問い詰めた。

「何故? ビジネスだよ。情報は力、人の記憶は金になる」

「ヤメテ! ここはそんなことをする場所じゃないわ! みんなで楽しく過ごせる世界なんだから」

「お前達が言える口か? 雇われて我らを探っているのだろう?」

「ああ、確かに俺らも仕事だ。お前らがいるからなっ!」

 ライガは爪を地面に突き立て、全身から光を放った。


「ちっ、気付いたか」

 敵は話をしている隙に、影を介してライガ達を攻撃しようとしていたのだ。

「お前、大人だろ? どうしてかねー、大人は汚い。残念ながら、俺らは雇われても金はもらっていない。ここではお腹空くことなんて無いし、そもそも金なんて概念も無いからな」

「社会を知らない子供風情がいきがるなぁああああー」

 敵は暗闇の霧を身に纏い、針と化した一粒一粒をライガに喰らわせる。

「くそっ、近距離で遠距離攻撃かよ」

 ライガは少し攻撃を受けたものの、すぐに跳躍し、攻撃の届かない場所へ着地した。

「ああ、確かに、社会なんて知らねぇよ。いろいろあるんだろうが……大人は夢を忘れているな」

 ライガは骨格をヒトの形から獣の形へと変えていく。


「夢など所詮戯言」

「あー、ヤダねー。そんな大人にはなりたくないなぁー」

 スリープも同じく獣の体型に変化させる。

「同感。少なくともそれじゃあ、私達には勝てないわね」

「ナニ?」

「私達は夢見がちな男の子なのだからよ」

 二人は白い風を身に纏い、両側から体当たりする。


「ぐあぁぁっ……お前達もいずれわかる。世の中は金だということをな――」


 存在力を失った敵は強制的にドリームアウトされた。

「俺達は夢世界の秩序を守るのが仕事。ふぅー。なんか将来イヤになってくるな」

「そうね……まぁ、今日は残り時間を楽しみましょう」

 ケモノ姿になった二匹は平原で追いかけっこを始めた……

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