聖女はどこに消えたのか?
失踪した聖女を探す依頼を受けて、私はまず辺境領主に話を聞くことにした。
お久しぶりです、ハイリ隊長。
いえ、あなたが王国騎士団をお辞めになったのは知ってますが、僕にとっては隊長です。
ハイリ隊長と呼ぶのを許してください。
僕のことは、以前のように呼び捨ててください。
ハイリ隊長に鍛えてもらったおかげで、ここの辺境領主の務めもなんとかやらせてもらってます。入隊前の僕ではとても無理でしたよ。馬鹿息子だった僕を、王国騎士団に叩きこんでくれた親父には感謝してます。
それで、ハイリ隊長が、わざわざこんな辺境地に足を運んで来てくれたのは、聖女様が失踪した話ですよね。
僕にとっては寝耳に水で。
中央からこの辺境地に追放された聖女様がいなくなっている、とか突然騒がれても、初めはわけがわからなかったんですよ。
ここの辺境領は、わずかですが観光客がやってきます。その観光客が、聖女様がいないと大騒ぎして。民間で探偵稼業しているハイリ隊長に聖女探しを依頼したのも、たぶんその観光客でしょう。
でも、びっくりしましたよ。ハイリ隊長が探偵をしているなんて。
頭を使う任務は自分には向いていないって、いつも言っていたじゃないですか。
騎士団長に出世させられたから辞めたのも、政治駆け引きとか考えるのを嫌がったからでしょう。
騒いでいた観光客は、ここの辺境地の人間が聖女様に何かしたんじゃないかと疑ってましたが、そもそも聖女様はこの辺境地には来ていないんですよ。
追放事件があったことも、この辺境地の人間は知らなかったんです。
中央からも、追放した聖女様を送るなんて命令はされてません。
僕の言葉だけじゃあ調査の報告書には不十分でしょうから、政府関係の命令書類の調査と領民達への聞き取り調査を自由にしていい許可を出すので、好きなだけ確認してください。
ええっと、失礼ですが、ハイリ隊長はご結婚は?
いえ、僕は、その、辺境領主となった身で、その、パートナーが必要な立場でして、
今日の夕食を一緒にしていただけませんか?
辺境地に聖女は来ていないことを確認した私は、中央に戻り調査を続ける。
元王国騎士団長だった私は、けっこう顔が利く。
ハイリ姉ちゃん、剣の稽古してくれよ。
約束したじゃん。
団長辞めても、剣の師匠と遊び相手は続けるって。
わかったよ。今日はいいから、明日、約束だよ。玉座で待っているから。
それで、今日は何しに城に来たの?
ああ、聖女追放を調べに来たのか。
あれ、なんなんだろうね。
よし、僕の王子特権を使って、なんでも調べてもいいよ。
なんだ、もうここの城で聞きたいことは全員に聞いた後か。
誰も聖女を追放していない?
どういうこと?
伯爵が聖女追放の噂を流した?
なんで伯爵がそんなことするの?
そもそも聖女ってなんなの?
なんか僕が追放した噂もあるみたいだけど。
僕まだ七歳だから何の権力も無いよ。
スパイ騒ぎで、僕の方が辺境領に退避されていたしさ。
判明している事実はなんなの?
なるほど。
聖女は辺境地に追放されたわけじゃなくて、魔法学園からいなくなったわけだね。
聖女様ですか?
とてもお綺麗な人でした。
誰にでも優しい人でした。
私は直接お話しことはありませんでしたが、憧れの人でした。
追放の噂は、伯爵である父に頼み私が流しました。
カプチーリ様に命令されたからです。
同じ伯爵家の令嬢でも、家の格があります。カプチーリ様に逆らうことは許されていません。
カプチーリ様は、聖女様の美しさと王国からの特別扱いを妬んで、さまざまな嫌がらせをしました。
私物を隠したり、学園生活に必要な連絡事項をしなかったり。
聖女様はそんな嫌がらせを何でもないように受け流して、いつも微笑んでいました。
それが、カプチーリ様の気に障ったのでしょう。
嫌がらせは段々エスカレートしていって。
魔法学園の薬の実習中に、カプチーリ様は、
いえ、カプチーリの奴は、手が滑ったふりをして、聖女様の顔に薬品をかけたのです。
私はその現場にいませんでしたが、聖女様の美しいお顔が醜く焼けただれたと聞いてます。
そして、すぐ聖女様は姿を消しました。
すみません。
あの時、あなたの力になれなかった。
私には勇気がなかった。
でも、今なら、私は証言台に立ちます。
あいつを告発するお手伝いもします。
もし、あなたが直接の復讐を望むなら、見ないふりだってします。
その仮面の下は、火傷の跡があるのですね。
あなたが聖女様なのですね。
勘違いされてしまったな。
と、私は自分の仮面を触る。
この仮面は、前の仕事で怪我をしたのを隠すためだ。怪我自体はすぐ治るので、外してしまおうかと思ったが、この勘違いは利用できると思いなおす。
知り合いに頼んで、顔に大袈裟な火傷の傷をメイクで作り、それを仮面で隠す。
わたくしを誰だと思っているの?
この王国最大の勢力を誇る伯爵家の娘、カプチーリよ。
あなたごときが対面できるものではないのよ。
知らないわよ。
たとえ、聖女を私がいじめていたことが事実だとしても、それがどうだって言うの。
平民など、この高貴なわたくしがどう扱ってもいい存在でしょう。
そんな仮面を被って、わたくしを脅そうなんて小細工はバレバレなのよ。
聖女のふりをして、私にプレッシャーをかけようとしているのでしょう。
さあ、その仮面を取りなさい。
ほら。そいつを取り押さえて、仮面をはぐのよ。
ふん。私の部下三人がかりに、抵抗できるはずないでしょう。
それじゃあ、素顔を拝ませてもらいましょうか。
ひいっ。
火傷の跡!
本物?
本物の聖女なの?
そんなはずない。
あなたが生きているはずがない。
だって、あなたは私が殺したんだから。
ひいぃ。
許して。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
残念な結果になってしまったが、聖女が今いる場所がわかった。
死体となって墓に埋められていると、カプチーリ伯爵令嬢が自白した。
依頼人に報告して、私の仕事は終了になる。
最終確認として、墓を掘り起こす。
そこに、聖女の死体はなかった。
すいません。ハイリ団長。
留守の間、何回か訪ねてきてくれたそうで。
スパイ騒動の後片付けがまだ終わってなくて。
はい。確かに、今の騎士団長は私ですけど、二人っきりの時はハイリ団長と呼ばせてください。
難しい顔してますね。探偵のお仕事、大変なんですか?
前回のスパイ騒ぎの時はいろんな手助けしてもらったので、今回は少しでも手伝いますよ。
今、どんな事件を扱っているんですか?
聖女探し?
はい?
あれ?
そうか、ごたごたしていて、ハイリ団長に聖女のこと説明してなかったですね。
ハイリ団長は聖女のことどこまで、いや、私にこれまでのこと全部話してください。
はい。
なるほど。
辺境地に行った観光客から依頼を受けたと。
はい。辺境地に行って、はい、王子に会って、はい、伯爵令嬢達に勘違いされたと。はい。
ああっ、わかりました。
前回のスパイ探しのとき、ハイリ団長に手伝ってもらったじゃないですか。
ハイリ団長に星の乙女になってもらって、顔が知られていない王国関係のいろんな施設に潜入してもらったじゃないですか。
ハイリ団長は黙って微笑んでいれば、思慮深い美女に見えて脳筋ゴリラってわからないから、あまり喋らないようにしてもらったじゃないですか。
それで、星の乙女として、魔法学園にも潜入捜査してもらったじゃないですか。
そこで、カプチーリ伯爵令嬢に嫌がらせを受けたじゃないですか。
こっちはスパイの攻撃と判別できなかったから、そのまま嫌がらせを受け続けてもらってにこにこ微笑んでもらったじゃないですか。
カプチーリ伯爵令嬢は顔に薬品をぶっかけてきたけど、余裕で避けられるからほっといたじゃないですか。
ナイフで刺してきたときも、まだカプチーリ伯爵令嬢がスパイかどうかわからなかったから、そのまま刺されたふりしてもらったじゃないですか。
墓に埋められた時には、息を止めていてもらったじゃないですか。
結局、カプチーリ伯爵令嬢はスパイじゃなかったから、魔法学園の潜入捜査は止めて、別の施設の調査を始めたじゃないですか。
こっちも忙しくて、カプチーリ伯爵令嬢にわざわざ説明しなかったんですよ。
星の乙女を殺したとカプチーリ伯爵令嬢は思い込んだんです。魔法学園の生徒達もそれを察して、魔法学園では星の乙女の名前が禁句になったんです。それでも、星の乙女についてしゃべらなくてはいけない時がでてきて、別の名前を作り出したんです。それが、聖女です。だから、追放されたとのでっちあげの時にはすでに聖女の名前になっていた。
伯爵令嬢達は勘違いしたわけじゃないんです。正しく、あなたを認識していた。
つまり、ハイリ団長。
あなたが聖女なんです。
おわり




