悪魔召喚
ナラカは2階から3階、4階に探索したが見つかったのは口から赤黒い肉塊をはみ出した死体とそれから広がり出した血液ぐらいだった。ナラカはこれまで見た死体の数を頭で概算する。ざっと50人ほどだ。全校生徒300人ほどの明星学園の6分の1が死んだことになるが、ただナラカの概算も流石にそこまで明確ではないので結果として何一つ明確な情報をまだ手に入れてない。ナラカは確実に情報を手に入れるため生徒が集まっているだろう体育館へと向かった。それしかナラカには希望がないのだ。これで体育館に誰もいなく、代替品として死体が死屍累々な惨状になっていないことを頭の中で祈りながら向かっていると気づけば体育館の前にたどり着いていた。ナラカが体育館の扉を開けるため手をかざす。ナラカはそこでまるで希望の灯火が消えた虚な瞳に変わる。体育館の向こうから生者の声が一切しない。ナラカは扉の向こうの景色に広がる希望を捨て、虚無感に襲われた心で扉を開ける。扉の向こうには空空漠漠な空間が広がり、普段ならフローリングの床には様々な競技に用いる線が配線が絡みついてように交錯している。。体育館の中心には第四勢力の死骸の塊があり、高さは天井の半分な空間を埋めていた。死屍累々という四字熟語が1番真価を発揮するシチュエーションは今だろうと思った。ナラカはその死骸の塊を見上げ、死骸の頂に立っている男を見る。ナラカはその男を吟味しながら見る。スレンダーの体を黒を基調にしたコートで覆い、腰には刀を携えている。その男の闇黒い黒煙の瞳とナラカの紫色の瞳がつながってはいけない一本の糸が絡み合ったように視線が合う。
「なんだ貴様?」
その男はまるで人間を初めて見たかのような新鮮かつ滑稽な質問をする。
「ただの人間ですけど、、、そちらこそどちら様?」
「種族の識別をしているわけではない!」
ナラカは薄々頭上の男が言いたいことを理解していたが、知らないふりをしていた方が面白そうだからこのまま続ける。
「じゃあ貴方は何を俺を聞いているんですか?」
男は死骸の山からナラカの見下げながら、生き物や無機物のどちらを見る目でもない様子で告げる。
「お前は生きてるいるのか、死んでいるのか?」
ナラカの口を満面の笑みで支配した。初めてこの世界でナラカを人間以外と認識したことについての笑みだ。ナラカは舌で飴を転がし味を楽しむようにこの状況を遊び半分で楽しんでいた。体育館前でナラカを襲った虚無感はもうそこにはなかった。
「そういうのであれば、降りてきて俺の心音を聞
いてみればいいですよ。」
「確かにそうだな。」
ナラカは男の一挙手一投足を観測していかに面白い状況にする事に夢中になっていた。まるでイタズラを繰り返す悪ガキのように。
「やはりお前は生者でも死者でもなかったか」
ナラカの心臓があるはずの場所から一本の刀が生えている。何が起こっているのかわからず前方を見ると先程死骸の山の上にいた男がナラカの目の前で刀の鞘を掴みながら立っている。前方の男はナラカの腹を貫通している刀を抜く。抜いた時の瞬発力で刀についていた血が床にカタカナのノの形を描く。
「お前は遊び半分で俺の質問を答えている時点で異常だ。周りを見てみろ。」
ナラカは男に言われたように周りを見る。ナラカ達がいる体育館の中心は床が見えるが、それ以外は生徒達が気を失って寝ている。
「、、、いつから、、」
「俺のオーラで人間は気を保てず気絶あるいは最悪死ぬのが定石だ。だが貴様は俺の前に悠々と歩き、悠々とこの状況を楽しんでいた。化け物
と形容していいほど異常だ。」
ナラカは痛みのあまりに床に足をつき、目の前の男を見上げる。そこには明確な力関係が成り立っていた。
「貴様が死ぬ前にもう一つ質問に答えろ。貴様は周りの気絶人間どもの存在を知らなかったみたいだがどうやって扉から入ってきた?」
男は扉の方を指差し、ナラカもそれに付随してその方角を見る。ナラカは驚愕のあまりに両目を大きく開ける。ナラカの瞳には扉付近に横になっている生徒達が広がっている。
「今の反応からして貴様は無意識のうちに生徒を踏み台にして、俺の元まで辿りついたようだな。」
ナラカは返す言葉が見つからなかった。ナラカは気づいてしまったのだ。生徒の安否なんてどうでも良かったことに。正確には煩悩だったり悪に染まっている人間共は心底どうでも良かった。たくさんそういうゴミどもを見てきたからだ。
「神やら悪魔以前に、貴様は生物失格だ。」
男は刀をナラカの首目掛けて振り落とすために刀を上から下にあげる。
「ナラカ!」
扉から荒波イザナが現れる。イザナな顔は顔面蒼白で、転んだのかなめらかな膝に擦り傷ができている。そして外に出たのか艶らかな髪から水滴が滴っている。
「ナラカが図書棟にいると思って行ったのに、いないから心配したじゃない!」
顔面蒼白な顔にナラカの生存を確認できたせいなのか安堵の顔に変わる。その顔には煩悩やらそういう悪に関連する感情はなく、ただただその顔には人を想うという優しさの基盤を作る綺麗な感情でいっぱいになっている。
「(朝の件はもう怒ってないみたいだな)」
ナラカはイザナの安否と機嫌が治っていたことについて安心した。
「解せんな。ここに散らばる人間よりもあの女は無視しないのか、、、他の人間よりもあの女の方に重きを置く、、、つまり」
男は思索している。そして結論が出たのか、口の口角が怖いぐらい上げながら、笑みを浮かべる。
「あの女は貴様の"何か"なのか」
男は無意識に刀を持つ拳に力を入れる。ナラカはこの先に起きることを理解した気がした。
あの男はイザナを殺すだろう。